希土類磁石(ネオジム(ネオジウム)磁石、サマコバ磁石)、フェライト磁石、アルニコ磁石、など磁石マグネット製品の特注製作・在庫販売

永久磁石の用途・応用シリーズ(10)

【環境にやさしい磁気冷凍の話】

現在の汎用冷凍技術では、フロンや代替フロンによる、冷媒気体の圧縮-膨張サイクルを応用した気体冷凍が主力です。しかしながら、オゾン層保護や地球温暖化防止などの地球環境への配慮が求められ、フロンや温暖化ガスを使わない新しい冷凍技術への要請が高まっています。このような情勢の中で、磁石や磁性体を利用した新しい発想の“磁気冷凍技術”が注目され始めました。

1.磁気熱量効果と磁気冷凍

磁性体は、原子サイズで見ると、自発的に磁気を発生する電子スピン(微小磁石)の集合体です。電子スピンのNS極の向きは、温度が超低温では、ほとんど同一の方向に揃っていますが、温度の上昇に伴い、例えば室温付近ではその方向は乱雑になります。ところが、この状態で磁場を印加すると、電子スピンが磁場方向に揃うため、磁性体の磁気エントロピーは減少し、発熱します。この磁場を印加した低エントロピー状態は、磁場無しの時の低温状態と同じであるため、外部と熱のやり取りがない(断熱)状態で素早く磁場を取り除くと、今度は吸熱状態になり磁性体の温度が低下します。このように、磁場の変化による磁性体の磁気エントロピーまたは温度の変化を、“磁気熱量効果”と呼び、この現象を利用して熱サイクルを組み、冷凍を行うのが“磁気冷凍”です。

永久磁石の用途・応用シリーズ-画像36

(解説)

エントロピー(entropy)とは、物質の属性の一つ。記号「S」を用いて表される。物や熱の拡散の程度を表すパラメターである。エントロピーが大きいほど、その物質は「乱雑な状態」にある。次元はJ・K-1で、S=kBlnΩ Ω: 物質がとる状態の数、kB:ボルツマン定数と定義される。

2.磁気冷凍技術

従来の磁気冷凍は、気体冷凍では達成困難であった超低温を実現する手段として発展してきました。なぜかといいますと、大きな温度変化を得るために、超伝導磁石などによる高磁場を必要としたことや、常温域では磁気熱量効果が低下するという技術課題があったため、特殊用途に限られていました。

このような課題を解決するため、近年、右図のようなAMR(Active Magnetic Refrigeration)サイクルが提案されました。

  • 磁性体にネオジム磁石等により、外部磁場を印加。
  • 熱輸送媒体により高温端側に温熱を輸送。
  • 磁場を除去。
  • 熱輸送媒体により低温端側に冷熱を輸送。

を繰り返すと、磁気熱量効果により生成された冷熱は磁性体自身に蓄えられ、磁気冷凍作業室内部は徐々に温度勾配の大きな熱だめとなって、定常状態では両端に大きな温度差が生じる仕組みとなっています。

磁性体には球状ガドリニウム(Gd)や低磁場でも大きな磁気熱量効果を有する、ランタン-鉄-シリコン系(La-Fe-Si)化合物が開発されています。

また、従来は大掛かりな電磁石や超伝導磁石を使わざるを得なかったのが、ネオジム磁石のような強力な永久磁石の出現で小型化が可能となり、磁気冷凍システムの急速な進歩を促しました。

永久磁石の用途・応用シリーズ-画像37

3.回転型AMR式磁気冷凍機

さらに、小型化のための開発も進展しつつあり、下図のような回転型AMR式磁気冷凍機も考案されています。この方式では磁石を回転移動させて、磁場の印加・除去を繰り返すことができます。今後は、さらに熱サイクル技術の改良や、高性能な磁気冷凍材料の開発等々により、産業用のみならず、一般家庭用や自動車のエアコン、冷蔵庫などにこの技術が実用化されてゆき、環境にやさしい冷凍・冷蔵システムとして発展してゆく可能性があります。

(参考資料)

東芝レビューVol62 No.9(2007)“フロンレスを実現する磁気冷凍機”