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永久磁石の用途・応用シリーズ(13)

【液体の磁性材料・磁性流体の話】

磁性流体という概念は1931年にBitterによってマグネタイトの微粒子を界面活性剤を用いて分散させた水溶液が最初であるといわれています。いわゆるビッター液と呼ばれ、磁性物質の磁区形状を観察目的のために使われました。今日のように磁性流体が機能材料として認知されてシールに応用されたものは1965年にNASAのアポロ計画で宇宙機器、宇宙服の回転部分の機密保持を目的としたものが最初といわれています。その後磁性流体シールは、半導体装置や各種分析装置などの真空機器の発達により、現在ではこれらの機能を左右する不可欠な機械要素として位置付けられています。

1.磁性流体の構成

磁性流体というのは、流動性をもつ液体のような磁性体で、それを構成するのは、直径10ナノメートル(10万分の1mm)ほどの強磁性体微粒子(主に酸化鉄・マグネタイト)を水や油などの溶媒に均一に分散させたものです。ドロドロした黒色の液体で、磁石を近づけると動き出し、磁力線に沿った形でトゲトゲの突起物が伸びてきます。これをスパイク現象といいます。(図-1)

強磁性微粒子をただ水や油などの溶媒と混ぜるだけではすぐに分離してしまい、磁性流体にはなりません。そこで、強磁性微粒子の表面を合成洗剤の仲間である界面活性剤で処理しますと、ミセル粒子を形成して水や油と良くなじみ、コロイド状になってミクロな分散が可能になります。(図-2)

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2.磁性流体シール

液体のような流動性を持ちながら、磁石に吸い付く磁性流体は、真空シール、防塵シールなどに最適な材料といえます。したがって、宇宙服、宇宙機器のシール用、半導体製造装置の軸受けシール用、HDDのシール用など多用されています。磁性流体シールの特徴は、オイルシールなどのように固体と固体の接触ではなく、固体と液体の接触であるということです。したがって、摩耗がなく、摩擦抵抗が極めて小さく、完全に密封することができる、低発熱、低騒音といった長所があります。その半面、磁性流体が溶け出したり往復運動によって持ち去られたりするといった欠点があるため、液体シールや往復動シールには適さないことや、耐熱性に限界がある(約160℃)などの短所があります。

3.磁性流体シールの構造

磁性流体シールは、原則的には磁性流体が「磁石にくっつく」という性質を利用したもので、図-3の様な基本構造になっています。磁石によって回転軸(シャフト)と磁極片の間に構成される磁力線に沿って磁性流体が保持され、磁性流体のシール膜(いわば磁性流体のOリング)が形成されます。この断面図では分かりにくいかもしれませんが、磁性流体のシールは軸の周りをリング状にシールしています。なお、磁性流体単段の密封圧力はせいぜい0.8x105Pa程度といわれているため、耐圧性が必要な場合には図-4に示すような多段の構造とする必要があります。またギャップを小さくすること、先端角度を最適値にすることにより密封圧力は高くなります。

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4.磁性流体シート

磁性流体のシートで、目に見えない磁力線のパターンを簡単にみることができます。マグネチック・ビュアマグネット・スコープなどの商品名で市販されているもので、2枚の透明なシート内部に磁性流体を薄く挟んだもので、磁石にこのシートをあてると、磁力の強い場所に磁性流体がよく集まるので、磁石の磁極や着磁パターンなどを磁性流体の濃淡として確認することができます。

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以上のように、一般にはあまり知られていない磁性流体は、永久磁石の組合せなどにより、最先端の宇宙産業、半導体産業、コンピュータ機器などで地味な活躍をしています。また、磁石の技術者には磁性流体シートが大変重宝されていることは皆さん良くご存知のことと思います。

なお2004年、従来の磁性流体とは全く異なる磁性イオン液体が東京大学濱口教授等により発見され、大きな話題になりました。その後盛んに研究が進められていますから、その応用が楽しみな分野です。

(参考資料)

「磁石忍法帳」 吉岡安之著 TDK株式会社編 日刊工業新聞社発行

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