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超伝導磁石の可能性と応用シリーズ(7)

【超伝導電磁石の進歩と応用】

大電流通電可能な超伝導線材を使うことによって、強力な磁場を発生する電磁石を作ることが可能ですが、実用的な電磁石となると様々な課題をクリアしなければなりません。例えば、強力な電磁石コイルは外側に拡がる方向のローレンツ力に耐える強度を持たなければならないため材質の選定に制限があり、また強度補強もしなければなりません。さらに、金属超伝導線材であれば液体ヘリウム温度近くまで冷却しなければならないので、効率の良い冷却システムが必要となります。このようにいくつかの技術課題をクリアしながら超伝導電磁石の技術が進展し、応用が拡大しているのです。

1.超伝導電磁石に適した線材と発生磁場の変遷

現在使われている超伝導の90%以上は先月号で線材の作り方等を解説したニオブ-チタン(Nb-Ti)やニオブ3スズ(Nb3Sn)のいわゆるA15型超伝導体になります。これらは合金あるいは金属間化合物であり、線材にし易く且つ強磁場の応力に耐えられる補強がしやすいために使われています。酸化物の高温超伝導体のコイル化も盛んに研究されていますが、まだ研究用のみで実用には至っていません。次図は超伝導電磁石による発生磁場の変遷を示したもので、1.9K冷却のニオブ3スズで、22テスラ(22万ガウス)、さらにこの電磁石の中に高温超伝導磁石のコイルを入れて23.4テスラ(23.4万ガウス)が現在までの記録となっています。

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2.小型冷凍機-GM式冷凍機の実用化

超伝導電磁石を冷却するための液体ヘリウムや液体窒素の冷却構造が複雑になることや、取扱い作業に専門技能を要することなどから、一般ユーザーへの超伝導電磁石の普及を妨げてきました。

特に前述の金属系超伝導コイルは液体ヘリウム温度(4.2K)まで冷却する必要があり、実用化に大きな課題となっていました。しかしながら1990年代の初め、Er3Niなどの磁性蓄冷材を利用しながらヘリウムガスの圧縮と膨張を繰り返して冷凍する極低温用の小型の蓄冷型冷凍機、GM冷凍機(ギフォード・マクマホン式冷凍機)が開発されました。但し、電線からわずかに入り込んでくる外部の熱によりこの冷凍機だけでは4Kという極低温の達成は難しかったのですが、1990年代の半ばに、超伝導電磁石の室温からの電流導入部分の低温側に熱伝導度の小さい高温超伝導リードが開発され、ヘリウムガス補充の必要がない4K-GM冷凍機を搭載した伝導冷却型の超伝導電磁石が可能となったのです。

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3.MRI用超伝導電磁石

MRI(Magnetic Resonance Imaging)システムは、核磁気共鳴現象(NMR)により人体の水素イオン(プロトン)の分布を断層画像として撮影できる技術であり、このシステムに使われる超伝導電磁石は、産業用としては初めて量産化された超伝導電磁石です。

MRI用超伝導電磁石は、診察対象となる領域がPPMオーダーの高精度な磁場均一性が要求され、且つMRI画像を鮮明にするため、できるだけ高い磁場の方が望ましい。したがって大病院等で使用される大型MRIは、1.5T~3Tの超伝導電磁石が要求されます。1985年頃の初期のMRIは液体ヘリウムの補充やシステムの大きさから使いづらいもののようでしたが、前述のように小型GM冷凍機や高温超伝導リードが搭載されるようになると、液体ヘリウムの消費の心配が少なくなり、またシステムのメンテナンスもシンプルになったため、急速に普及して行きました。

なお、一時ネオジム磁石を使った小型のMRI(0.2T~0.5T)の市場が拡大しましたが、最近では超伝導電磁石のコストパフォーマンスが飛躍的に高くなり、超伝導型MRIシステムの導入が再度増加しているようです。現在、全世界で使用されているMRIは、2万台以上となり、年間2,500台以上が生産されています。

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以上、今回は超伝導電磁石の技術の進歩と最初の産業への応用であるMRIについてお話をさせていただきましたが、次回はシリコン単結晶製造や電力ケーブルへの応用等についてご紹介したいと思います。

(参考資料)

「トコトンやさしい超伝導の本」 下山淳一 日刊工業新聞社

「おもしろい磁石の話」 (社)未踏科学技術協会 日刊工業新聞社