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電池の基礎シリーズ(3)

先月の一次電池に続いて今月からは、“二次電池”の詳細について勉強してみましょう。既に概略は解説済みですが、二次電池の特徴は、何と言っても“繰り返し充放電ができる”ということにあります。この二次電池の発明と実用化が、自動車や電子機器の発展に重要な役割を果たしてきていることは言うまでもありません。そして、現在では、“電力の効率利用”、“自然エネルギー利用”、“地球温暖化防止”の進展にとっても必要不可欠なキーテクノロジーになっているのです。

1.二次電池が注目される背景

2008年9月のリーマンショック以来、各国政府は大規模な金融・財政政策を実施して事態の収拾に躍起となってきました。この危機に対して米国に登場した民主党のオバマ大統領は、政策の重要な柱に「大きな発展が期待できる新たな産業の創出が必要である」として「グリーンニューディール政策」を打ち出しました。ここでいう新たな産業とは、地球環境を維持し、人類の持続的な発展に貢献する産業です。そして、これを契機に世界の産業政策の趨勢は地球環境保護に向けて大きく舵を切ったといえます。

地球環境保護の柱となる産業分野の1つがエネルギーです。温室効果ガス排出量の削減にはエネルギー源を石油、石炭などの化石燃料から太陽光や風力などの自然エネルギーを利用した発電に転換することが有効です。しかし、自然エネルギーの出力は天候に左右され大きく変動するため、そのままでは利用しにくいエネルギー源です。この変動を平準化するうえで電力貯蔵機能のある二次電池が注目されるのです。二次電池のこの機能の本質は時間、空間を隔てて電力の利用を可能にすることです。この機能をフルに活用することで既存電力網の高効率化を目指したスマートグリッドが構想されています。さらに、日本では昨年3月11日に福島における重大な原子力発電所事故が発生し、安全な電力エネルギー源の確保の観点からも自然エネルギーの導入拡大が重点政策となり、ますます二次電池の重要性が増してきています。

2.各種二次電池の原理・構造および活用例

(1)鉛蓄電池

<原理と構造>

1859年にガストンープランテ(フランス)によって、今のような二次電池として発明されて以来「鉛蓄電池」は長い歴史を持っています。最初の鉛蓄電池は、布で絶縁した2枚の鉛板を巻き付けて希硫酸の容器に浸したものです。正極の二酸化鉛が反応し、負極に電子が非常に多い状態になり、電気を貯めることができます。

1880年代以降には、ペースト式極板電池がカミューフォール(フランス)により発明され、鉛-アンチモン合金格子の出現によって、鉛電池の量産化が進んでいくことになります。そして、19世紀末から20世紀初めにかけて据置用、可搬用および電気自動車用などに大容量の電池が多く用いられるようになります。

1930年代になると、ガラスマットやクラッド式極板が実用化され産業車両用途に耐震性を発揮していきます。鉛蓄電池の単電池当たりの電圧は2Vですが、自動車用などには電池ケースの中で槽の単セルが直列につながれて12Vや24Vとしています。放電すると正極の二酸化鉛は硫酸鉛に、負極の鉛も硫酸鉛に変化します。正極の構造によって、ペースト式とクラッド式があります。ペースト式は電極を格子状に並べて二酸化鉛と硫酸鉛を混ぜたペーストを塗り込んだ電池です。クラッド式はガラス繊維などの織物で包んだ二酸化鉛の棒を並べた構造で、信頼性の高い蓄電池です。

通常の鉛蓄電池は、電解液が液体のため横倒しにできません。そのため、不織布に硫酸を含ませて保持する密閉式シール鉛蓄電池ができたのです。

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鉛蓄電池は負極に鉛(Pb)、正極に二酸化鉛(PbO2)、電解質に希硫酸を使用した構成になっています。鉛化合物の酸化数の違いを利用したもので、反応の仕組みは以下の図のようになります。

希硫酸は水溶液ですから(H+)イオンと(SO42-)イオンに分かれています(図参照)。放電時の反応は次のようになります。正極での反応の結果、PbO2の酸化数は(+4)、PbSO4の酸化数は(+2)で酸化数の変化は(-2)となり還元されました。つまり電子を2個受け取ったのです。負極での反応の結果Pb単体の酸化数は(0)、PbSO4の酸化数は(+2)で酸化数の変化は(+2)となり酸化されました。つまり電子を2個失ったのです。この結果負極から正極に2個の電子が流れていきます。

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放電により電解液中の硫酸は消費され水に変化するため、電解液の比重は低下します。硫酸がなくなると放電終了ですが、そこまで放電すると過放電となり寿命を縮めます。

負極の鉛は反応表面積を大きくするために多孔質の海綿状になっています。過放電を繰り返した電池や寿命になった電池は硫酸鉛の結晶が生成し、海綿状の細孔を塞いでしまうため反応を阻害するようになります。この現象をサルフェーションといいます。

大電流での放電や長時間にわたる緩慢な放電を行うなど、変化の激しい使い方でも安定した性能を発揮するので使いやすい二次電池であるといえます。公称電圧は単セル当たり2Vです。電極材料も安価であることから最も生産量が多く、実用化の歴史も最も長い二次電池です。自動車用バッテリーの用途が最大ですが、フォークリフトやゴルフカート、車椅子などの電動車両にも使われています。

<活用例>

(1)自動車用(JIS D 5301 始動用鉛蓄電池)

一般に自動車用鉛蓄電池は、エンジン始動時の瞬時大出力を必要とする起動(Starting)、ヘッドランプなどの照明装置を始めワイパ、方向指示器、各種電子装置などへの電力供給(Lighting)およびエンジンの点火系統への電力供給(Ignition)を担っており、それぞれの頭文字をとってSLT用電池とも呼ばれています。近年、地球環境に対する解決策として自動車の排出ガスであるCO2の削減と燃費向上を目指した、いわゆる環境対応車が開発され、それらのハイブリッド車やアイドリングストップ車の電源としても鉛蓄電池が採用されています。

ハイブリッド車のモータ駆動用電源には一般的にニッケル水素電池が使用されていますが、システム制御用のECU(エレクトロニックコントロールユニット)などをバックアップする電源として鉛蓄電池、いわゆる「ハイブリッド車補機用電池」、が搭載されています。エンジンルーム搭載の場合には液式電池が、エンジンルーム以外の搭載では補水不要の制御弁式電池が一般に使用されています。

「アイドリングストップ車用鉛蓄電池」では、アイドリングストップ中の車両電気負荷への電力供給、アイドリングストップ後の再始動、システム制御用のECUなどのバックアップをしています。アイドリングストップによる頻繁なエンジン停止時の電力は、電池から供給されるため、従来の自動車用鉛蓄電池に比べ放電量が増大し、また劣化も早く進みます。このため、深い充放電に対する耐久性、急速に充電状態を回復させる充電受入れ性を向上した製品が開発されています。燃費改善が見込まれるため、アイドリングストップ車向けの生産が拡大しています。

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(2)二輪車用(JIS D 5302二輪自動車用鉛蓄電池)

エンジンで駆動する二輪車用で、エンジン始動、ヘッドランプなどの照明装置などに電力供給します。

(3)電気車用(JIS D 5303 電気車用鉛蓄電池)

電動車両である電気車(フォークリフトなど)用に開発された電池です。電池は、車両の駆動用に主に使用(放電)され、使用後に充電するという充放電を繰り返す用途、いわゆるサイクル用途として使用されます。定期的な補水が必要となる液式タイプが一般的です。

(4)小形制御弁式(JIS C 8702小形制御弁式鉛蓄電池)

小形の制御弁式鉛蓄電池は、補水不要で、横倒しにしても液漏れの心配がなく、小型・中型UPS(無停電電源装置)用、非常灯用、ランタンなど、停電時以外は商用電源から充電し続けるフロート(トリクル)用途中心に幅広く使用されています。停電時だけ放電されるので、放電の頻度は各国の電力事情によって異なり、電池寿命も影響を受けます。

(5)据置用(JIS C 8704据置鉛蓄電池)

据置鉛蓄電池は、フロート(トリクル)使用の産業用電池で、ビル設備、通信設備、電力制御設備、大型UPSなど重要電源の非常用電源として使用され、負荷の種類、要求条件に合わせた液式および制御弁式鉛蓄電池が開発されています。常時は充電されており、停電時には上記設備をバックアップします。

(6) EV用(電気自動車用)

自家用以外の電気自動車用として開発されたEV用制御弁式鉛蓄電池で、優れたサイクル寿命特性を有していて、電動車両の動力用に適しています。高率の充放電が可能で、制御弁式のため補水不要である特徴を生かして、近年はゴルフカート、フォークリフト、さらに、自動走行搬送車などの電動車両用に使用されています。産業用車両についても環境排出ガスであるCO2の削減要請があり、産業用車両の電動化、ハイブリッド化の動きが加速しています。

(7)蓄エネルギー用

鉛蓄電池は他の蓄電池と比較して安価ではん用性があり、取扱いやすいことから、太陽光・風力で発電された小型・小規模電力を蓄え、電力を安定供給する、蓄エネルギー用として注目されつつあります。特に、無電化地域の独立電源用として実際に使用される事例が増えています(下図)。

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太陽光(ソーラー)発電のような自然エネルギーと鉛蓄電池とで独立電源を構成するシステムの場合、太陽電池の発電時は、太陽電池から負荷への電力供給と鉛蓄電池への充電がなされ、発電時以外では、負荷への電力供給は、すべて鉛蓄電池からなされます。このため、一般的に、雨や曇りの日があること(無日照)を考慮して、太陽光の発電電気量に対して蓄電池容量を大きくし余裕を持たせています。蓄エネルギー用としての実用例としては、ソーラー基地局、ソーラー街路灯などもあります。このような蓄エネルギー用途の鉛蓄電池はまだ標準化されておらず、地域によっては自動車用、UPS用鉛蓄電池が採用されたりしますが、短寿命になる場合があります。今後は、蓄エネルギーに適した信頼性の高い鉛蓄電池あるいは他種電池が開発され急速に普及していくことが予想されます。

以上、今月は、皆さんが良く目にする鉛蓄電池を中心に勉強しました。歴史ある二次電池ではありますが、様々な用途に利用されていて、まだまだ進化の途中です。次回は、ニッケル水素二次電池について、詳細に調べてみたいと思います。

 

<参考・引用資料>

「図解でナットク!二次電池」 小林哲彦、宮崎義憲、太田 璋 共著(日刊工業新聞社)

「トコトンやさしい2次電池の本」 細田 條 著(日刊工業新聞社)

フリー百科事典ウィキペディア「電池」、「二次電池」

電池工業会ホームページ「電池の知識」

ネオマグ(株)ホームページ「磁石の歴史」