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地球の科学と自然災害(8)<台風−その3>
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台風についての前2回は、台風の定義、発生メカニズム、台風の発生数、台風の一生、台風の進路、渦巻きの謎などについて勉強しました。今月は台風についての最終回として、最先端の“台風予報”について調べてみました。
[台風-12] コンピューターの中の台風*引用「台風の正体」朝倉書店
台風が発生すると、その台風の予想進路や予想強度がテレビやインターネットのニュースなどを通じて報道されます。さらに台風が日本に接近すると、より詳細かつ高頻度に台風の予滑回報が発表されるようになります。このような予測情報の背景にあるのは、“数値予報”と呼ばれる技術で、台風予報を含む今日の天気予報を支える基盤技術です。コンピュータの中に仮想の地球を作り、そこで台風がどの方向へ進み、今後どの程度発達するのかを物理法則に従って計算・予測します。
[台風-13]台風の数値予報*引用「台風の正体」朝倉書店
それでは、近年の天気予報を支えているこの数値予報について、その仕組みと実際に用いられているシステムについて勉強してみましょう。
台風予報は、数値予報と呼ばれる予報技術に支えられています。数値予報とは、ひとことでいうと「大気の流れを記述する偏微分方程式系を数値的に解くことにより、将来の大気の状態を推定する」ことです。
中学・高校で習う方程式は、紙と鉛筆さえあれば厳密に答えを得ることができます。このような場合、「方程式は解析的に解ける」といい、得られる解は「解析解」と呼ばれます。一方、火気や台風を予報するための方程式系は非常に複雑で、解析的に答えを得ることができません。そこで、スーパーコンピュータを用いて「近似的に方程式系を解いています」。まず,スーパーコンピュータ上で動く「数値予報モデル」と呼ばれるプログラムに現在の大気の状態を入カデータとして与えます。すると、ほんの少し先の未来の大気の状態が出力データとして得られます。この少し先の大気の状態がわかると、その状態を数値予報モデルの新しい入力データとして与えることにより、さらにその先の大気の状態がわかります。
この過程を繰り返すことにより、1時間後、1日後、1週間後の大気の状態を推定することができるのです。このようにして得られる解は、解析解に対して「数値解」と呼ばれます。これが、「数値」予報と呼ばれる所以なのです。
数式で見た方がより直観的に数値予報を理解できるかもしれません。
前図はある地点のある物理量x(例えば東京大手町の気温)がほんの少しの時間(△t)後に△xだけ変化する変化率が数式fで表されています。このfの値を計算することが「偏微分方程式系を数値的に解く」ことであり、数式fを計算機が理解できる言葉で書き下す(プログラム化する)ことが数値予報モデルを作るということに相当します。数式fは、簡単な例としては、風は気圧傾度力やコリオリカを受けながら吹くとか、横浜市から暖かい空気が風に運ばれて大手町の気温が1時間(△t)で1℃ (△x)上昇する、といったわれわれの知っている物理法則を定式化したものです(次図)。
数値予報モデルの入カデータとなる初期場に台風が存在すると、物理法則に従って数値予報モデルが表現する仮想地球上で台風が移動したり、発達・衰弱したりする.初期値に台風が存在しなくても、凝結などの台風にとって重要なプロセスが考慮されていれば、時間発展の過程で数値予報モデル上に台風が発生することもあります(現実には存在しない台風が生成されることもありますが…)。このように数値予報モデルで表現される台風の時間発展を予報官が解析することにより、台風予報が作成されます。
[台風−14]さまざまな数値予報システム*引用「台風の正体」朝倉書店
気象庁は、下表に示すようにさまざまな数値予報システムを運用しており、その出力データが台風予報の基礎資料となります。
複数のシステムを運用している理由は、限りあるスーパーコンピュータの資源の中で、さまざまな大気現象を予報対象としているためです。
例えば、全地球の大気を予測対象とする「全球モデル」は、台風の進路は精度よく予測できますが、台風に伴う局地的な大雨を定量的に予測することは水平解像度の観点から難しいのです。そこで、計算領域を絞って、全球モデルよりも水平解像度を5kmや2kmと高くしたモデル「領域モデル」を用いて大雨などの極端現象を予測しています(次図参照)。
ここで「空間解像度」について詳しく解説しましょう。前節の数値予報の話に戻りますが、数値予報を実現するためには、大気の「離散化」という作業が必要となります。離散化とは、大気を水平方向(緯度、経度方向)、鉛直方向に分割することであり、数値予報では分割したボックス(「格子」と呼ばれる)ごとに計算が行われます。分割によって得られるボックスの水平方向の長さを「水平解像度(一般的な数値予報モデルでは、緯度方向、経度方向ともに同じ長さです)」、高さ方向の長さを「鉛直解像度」と呼びます。
数値予報モデルの空間解像度は、スーパーコンピュータの性能に大きく依存します。例えば、気象庁の全球モデルでは水平方向に約20km間隔で格子が区切られています(次図参照)。鉛直方向には地表面から上空0.01 hPa(上空約80km)までの100の層に区切られています。格子点の数としては、およそ1億3000万点にも及びます。この各格子で、東西風、南北風、気温、湿度の物理量が定義されているため、計算すべき変数の数は5億を超えています。
一般に数値予報モデルの空間解像度を上げると、より細かい大気現象を表現できるといわれています。一方、数値予報モデルの空間解像度を上げるためには、より高性能のスーパーコンピュータが必要となります。例えば,空間解像度を倍に上げると、東西、南北、高さ方向に格子数が倍に増えるので、総格子数が8倍になります。また、数値計算における安定性の問題から、計算を繰り返す時間間隔(△x/△t= fの式の△t)を半分にする必要があり、時間発展の計算回数が2倍に増えます。結果として、16倍の性能を持つスーパーコンピュータが必要となります。
[台風−15]台風を追うスーパーコンピュータ*引用「台風の正体」朝倉書店
台風はさまざまなスケールが複雑にからみ合って起きています。もし数値シミュレーションを使って台風をより完全に再現しようと考えたら、できるだけ高い解像度で、広い計算領域をとらなければなりません。
究極をいえば「全球雲解像シミュレーション」ですが、それは現代の進化した数値計算科学をもっても容易ではありません。
このシミュレーションの世界の限界を突破したのは、日本の技術でした。 2002年、科学技術庁(現文部科学省)は、スーパーコンピュ−夕「地球シミュレータ」を開発しました。さらに東京大学や海洋研究開発機構が共同で、この高速計算機の能力を十分に発揮できる高精度の数値モデル「ニッカム」(Nonhydrostatic ICosahedral Atmospheric Model :NICAM)を開発しました。ニッカムは、これまでの数値モデルとは枠組みを変えた画期的な計算手法を用いています。 2007年、地球シミュレータとニッカムの共演により、世界で初めて全球を雲システムが解像できる水平解像度7kmの設定で現実的な台風発生の再現に成功しました(Miura et al.,2007 ; Fudeyasu et a1.,2008,2010a,b)。その後、スーパーコンピュータ「京」が登場し(京の能力は地球シミュレータのおよそ300倍を超えるといわれている)、理化学研究所とそれに携わる研究グループは、2013年、京とニッカムにより全球を水平解像度1km未満という、かってないシミュレーションの世界に到達しました(次図参照)。
この数値シミュレーションの結果では、台風という大きなスケールの渦を再現しながら、積乱雲1つ1つの振舞いまで表現しています。世界からも注目され続けている日本の科学技術力と台風研究グループにより、台風の全容が明らかになる日は近付いています。
以上で「台風」のシリーズは終了します。台風のことはかなり知っているようでも、実はその本質である地球科学からの見方になると、今回初めて勉強した方も多かったのではないでしょうか。
次回は「竜巻」について取り上げてみる予定です。是非ご期待ください。
<参考・引用資料>
「気象庁」ホームページ
「図解-台風の科学」 上野 充、山口宗彦 著 講談社(BLUE BACKS)
「気象学の新潮流 台風の正体」 筆保弘徳、伊藤耕介、山口宗彦 著 朝倉書店
「ウィキペディア」フリー百科事典
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