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磁石・磁気の用語辞典(用語解説)
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【Transcranial magnetic stimulation】

磁気治療、経頭蓋磁気刺激法TMS(Transcranial magnetic stimulation)

「最新の磁気治療法に経頭蓋磁気刺激法(けいとうがいじきしげきほう)がある。TMS(Transcranial magnetic stimulation)とも略され、おもに8の字型の電磁石によって生み出される。」

 急激な磁場の変化によって、ファラデーの電磁誘導の法則を利用し、渦電流の弱い電流を組織内に誘起させることで、うつ病などの治療を行う最新の治療方法。薬を使わないで脳内のニューロンを興奮させる非侵襲的な方法であり、アメリカで開発され、近年国内でも導入が促進されてきている。

 また、多くの小規模な先行研究により、この方法がうつ病だけではなく、多くの神経症状(例えば、頭痛、脳梗塞、パーキンソン症候群、ジストニア、耳鳴り、言語障害、幻聴など)に有効な治療法であることが報告されている。なお、永久磁石の磁場効果の研究があれば期待したいところで、永久磁石の応用技術として注目される分野でもある。

              

                 TMSの概念図                          8の字型のコイルを頭部にかざしている様子

[TMS治療の背景と歴史]

 渦電流によって脳の誘導刺激を行う原理は19世紀からすでに記載されている。また、初めてのTMS研究はイングランドのシェフィールドにおいて、1985年にアンソニー・ベイカー (Anthony Barker) らによって行われた。この実験では、運動野から脊髄への神経インパルスの伝導が示された。これと同じことは経頭蓋電気刺激法・TES (transcranial electrical stimulation) によって数年前にすでに示されていたが、経頭蓋電気刺激法は非常に強い不快感を生むという欠点があった。

 大脳皮質の異なる位置を刺激し、(例えば筋肉などの)反応を計測することで、脳機能マッピングなどを行うことができる。fMRIなどの脳機能イメージングやEEGなどのデータと組み合わせることによって、大脳皮質領域の情報(TMSへの反応)や領域間の接続などの情報を得ることができる。

[TMS治療の原理]

  TMSがどのようにして脳に影響を与えるかに関する正確な詳細は、いまだ研究の途中である。しかし、TMSの効果に関してはその刺激の方式によって以下のように分けられている。

 ■単発経頭蓋磁気刺激法、2連発経頭蓋磁気刺激法(Single pulse TMS, Paired pulse TMS)

  パルス刺激によって、大脳新皮質にある神経細胞集団を脱分極させ、活動電位を引き起す。この刺激法を一次運動野に使用した場合、筋電計 (EMG) によって計測可能な運動誘発電位 (MEP) を引き起す。また、後頭葉に使用した場合、“眼内閃光”が被験者によって観察される。皮質の他の領域のほとんどでは、被験者が自覚可能な効果は観察されない。

しかし、その行動(例えば、認知課題に対する反応時間の変化)や、ポジトロン断層法や fMRI によって計測される脳活動は微妙に変化する可能性がある。このような効果は、刺激を行っている時間以上に長続きすることはない。

 ■反復経頭蓋磁気刺激法(rTMS、Repetitive TMS)

 刺激後も効果が持続する刺激法です。rTMSは刺激の強度やコイルの向き、刺激の周波数などに従って、皮質脊髄路や皮質間経路の興奮性を増加、または減少させることができる。rTMSのこのような効果は、長期増強 (LTP) や長期抑圧 (LTD) と同種な、シナプス荷重の変化を反映しているものと考えられているが、そのメカニズムはまだ明確には分かっていない。

このように通常の刺激法と反復刺激法 (rTMS) では方式によって異なる効果が存在するので、区別する必要がある。

                                  

     コイルによる脳内刺激電流の発生                          使用する磁気刺激装置

[TMSの治療目的での利用]

 多くのTMSとrTMSの研究が様々な神経学的、精神医学的な疾患に対して実施されたが、確証を得ているものは少なく、ほとんどの場合は効果があったとしても非常に小さいようだ。その中でも下記のいくつかの疾患ではTMSによる治療の効果があると報告されている。 

・脳梗塞

・非流暢性失語

・耳鳴り

・パーキンソン症候群

・ジストニア

・筋萎縮性側索硬化症

・頭痛

・不全失語症

・半側空間無視

・うつ病(カナダ保健省によって2002年にrTMSの治療が薬剤抵抗性うつ病に認可されてい る)

・幻肢

・慢性疼痛

・強迫性障害(研究が継続中)

・統合失調感情障害による幻聴

このような研究の大部分がプラセボ(偽薬)効果の適切な排除が不可能であり、このような効果がプラセボによるものである疑いが排除できない点に関して注意が必要だといわれている。

[TMSによるうつ病の治療]*医療法人東横会「たわらクリニック」ホームページ

 古くから人の喜怒哀楽の感情は「心」がつくるものとされ、うつ病もまた心の問題とされてきた。しかし、近年の研究成果によって心の問題ではなく「脳」の問題であることが分かってきており、その中でも前頭前野にある背外側前頭前野(はいがいそくぜんとうぜんや)」の機能低下がうつに大きく関わっていることが分かってきている。

      

                            

<背外側前頭前野の主な機能>

(1)判断、意欲、興味をつかさどる

 機能が低下することでやる気がなくなる。

(2)扁桃(へんとう)体のバランスを整える

 扁桃体は、不安や悲しみ、恐怖、自己嫌悪などの感情をつかさどる部分である。

 扁桃体のバランスが崩れ、機能が低下することでこれらの感情が強く出てしまう。

  現代の医学では、この背外側前頭前野の活動が低下し、逆に扁桃体が過剰に活発し反応する状態を、うつ病のメカニズムと考えてられている。

 通常、正常な脳は図左のように黄色い部分(=活性化している)が多く見られ、活発に働いている。しかし、うつ病を発症している脳では図右のように青い部分(=活動が低下している)が多く、活発に働いていないことがよくわかる。このように脳の血流・代謝の低下がうつ病に関係している可能性は大いにあるといえる。

                             

 TMS治療では、背外側前頭前野を磁気刺激することで機能低下した脳の回復を行い、意欲・判断力・思考力の向上ともに扁桃体の過剰な活動を抑制し、うつ症状の寛解を目指している。

                            

(参考・引用資料)

1、国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター(NCNP)2019年4月22日プレス  

  リリース

2、フリー百科事典「ウィキペディア(Wikipedia)」

3、医療法人東横会「たわらクリニック」ホームページ