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電池の基礎シリーズ(12)【溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)について】

燃料電池については、6月号の「燃料電池の原理と構造」に続いて、下図のように青枠で囲まれた7月号の「固体高分子形燃料電池(PEFC)」、8月号の「リン酸形燃料電池(PAFC)」と勉強してきました。今月は高温形と言われる赤枠で囲まれた「溶融炭酸塩型燃料電池(MCFC)」について調べてみました。色々な燃料電池がありますので、混乱しないように、“燃料”、“温度”、“電解質”、“利用するイオン”、“主な用途”などの特徴を掴んでおいてください。

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(3)溶融炭酸塩形燃料電池・MCFC(Molten Carbonate Fuel Cell)

私たちの日常生活の中で、高温の熱を利用することはまずありません。家の中でガスに火をつけても、ほとんどの熱は空気中に逃げてしまいますし、自動車のエンジンの高熱も捨てられてしまいます。お湯を沸かすのには60℃もあれば十分です。溶融炭酸塩型はその10倍の650℃という高温で運転します。適用対象は民生用ではなく産業用になります。日本では開発の当初から国家プロジェクト(ムーンライト計画)として始まりました。研究開発は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)を中心に、重電各社と電力会社が参加して行われてきました。

(3-1)MCFCの発電原理

溶融炭酸塩型も天然ガスなどの化石燃料を改質して、水素を燃料としたシステムを組みます。燃料電池本体では、電解質に溶融炭酸塩が使われ、この中を炭酸イオン(CO32-)が空気極から燃料極に移動します。

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他の燃料電池と違うのは、空気極には酸素と二酸化炭素が供給されなければならないことです。燃料極では二酸化炭素ができるのでリサイクルしていますが、外部から二酸化炭素を送って濃縮することもできます。これは地球温暖化対策に役立つ発電方式として意味のあることです。

一酸化炭素も燃料になります。燃料極でできた水分と反応(CO+H2O → H2+CO2)して水素と二酸化炭素を発生させ、この両方とも有効利用できるからです。

(3-2)MCFCの構造とシステム

溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)は電解質に通常炭酸リチウムと炭酸カリウムをモル比で62対38に混合した炭酸塩を用います。この混合炭酸塩の融点はもとの化合物の融点より低い488℃で、燃料電池の運転温度である約650℃では、混合炭酸塩は溶融状態の透明な液体になり、この中を炭酸イオンが移動し、イオン導電性を示します。燃料電池から液体状態の電解質の漏れを防ぐために炭酸塩はアルミン酸リチウムの多孔質板に含浸させます。燃料極にはニッケル系の多孔質体、空気極には酸化ニッケル系の多孔質体を用います。

燃料には水素、天然ガス、メタノール、ナフサ、石炭ガス化ガスなどが用いられます。しかし、燃料極では水素と一酸化炭素のみが反応に関与するため、水素以外の燃料は水素と一酸化炭素に改質する必要があります。燃料極では水素と炭酸イオンが反応して水と二酸化炭素と電子になります。電子は外部回路を通って空気極の方へ流れます。空気極では供給した酸素と二酸化炭素と外部回路を通ってきた電子とが反応し、炭酸イオンになります。この炭酸イオンは電解質である溶融炭酸塩の中を通って燃料極に移動し、燃料極での反応に使われます。空気極には燃料の他に二酸化炭素を供給しなくてはなりませんが、これは燃料極で発生した二酸化炭素を回収して用います。このMCFCでは全体としてPAFCと同じく水素と酸素から水が生成し、電気エネルギーが得られることになります。

MCFCは高温で運転されるため、触媒に高価な貴金属類を使う必要もなく、電極材料であるニッケルが触媒の働きをします。また、ニッケルは一酸化炭素による劣化が起こりません。さらに、一酸化炭素は水と反応させると水素と二酸化炭素に変わるので燃料としても役立ちます。

また、MCFCは運転温度が600℃と高いため、蒸気タービンなどの複合発電が可能なため、高効率化に適しており、石炭ガス化も使用できることから、大規模発電プラントが可能です。

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(3-3)産業用コージェネの実用化を目指すMCFC

溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)は高い発電効率が得られること、燃料に天然ガスはもとより石炭ガス化ガスも使用できることからオンサイト用、分散配置用、集中配置用など広範囲に適用できる特徴を有しています。さらに、高温作動であるため、貴金属触媒が不要で、電池内で発生した熱と蒸気を利用して天然ガスなどの改質(内部改質)が可能でシステムの簡素化ができます。

わが国では、ムーンライト計画において1981年から1986年までの第一期で10キロワット級スタックの開発に成功し、1993年からニューサンシャイン計画に引き継がれ、1999年までの第二期では1000キロワット級のパイロットプラント(外部改質方式)と200キロワット級プラント(内部改質方式)がそれぞれ、中部電力(株)川越発電所内と関西電力(株)尼崎燃料電池発電所内に設置され、1999年から2000年にかけて約5000時間の運転が行われました。さらに、2000年から2004年までの第三期においては、産業用コージェネ向けの300キロワット級の加圧小型システム(送電端発電効率48%目標)の開発が進められてきました。

一方、海外では2メガワット級プラント(内部改質方式、ERC社製)の米国サンタクララ市での運転(1996年~1997年)、さらに、ドイツでの250キロワット級の1999年からの10,000時間以上の発電運転を経て、米国FCE社は250キロワットのプレ商用機を開発しています。さらに、300キロワット級、1.5メガワット級、3メガワット級のラインアップを計画しています。2001年には250キロワット級小型システム(発電効率47‥%目標)がわが国をはじめ、ロサンゼルス市営水電力公社ほかに複数台が試験的に納入されました。

今後はガスタービンとの組合せによる10~50メガワット級の複合発電も目指しています。

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次回は、固体酸化物形燃料電池(SOFC)について、調べてみたいと思います。

 

<参考・引用資料>

「トコトンやさしい2次電池の本」 細田 條 著(日刊工業新聞社)

「よくわかる最新燃料電池の基本と動向」 PEM-DREAM 著 秀和システム

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