希土類磁石(ネオジム(ネオジウム)磁石、サマコバ磁石)、フェライト磁石、アルニコ磁石、など磁石マグネット製品の特注製作・在庫販売

次世代自動車の検証(11)<EVのモーター(2)>

先月は、EV(HVを含む)の駆動モーターは交流モーターが中心であり、その中の実際の市販車に搭載されているモーターとして、誘導モーター(非同期モーター)、巻き線界磁型同期モーター、永久磁石界磁型同期モーターのお話をしました。

今月は先月に引き続き、EVのモーターについてのお話となりますが、先月お話できなかったリラクタンスモーター(SRM&SynRM)、リラクタンス型IPMモータ(IPMSynRM)などを取り上げてみました。

ここで先月にお話をしましたEVに関係するモーター分類をもう一度おさらいをしてみましょう。次の分類図は交流モーターに絞ってあり、*印の箇所が今月取り上げるモーターです。

次世代自動車の検証-画像220501

(注)本稿では引き続き、国内の刊行物、ウェブ情報などの採用頻度からハイブリッド車はHV、プラグインハイブリッド車はPHEV(トヨタはPHV)、純電気自動車はEVと記述いたします。

[EVのモーター(2)-1]リラクタンスモーター

リラクタンスモーターの原理は電磁石が鉄を引き付ける力を利用して回転することです。別の言い方をすれば、ローターの突極性だけを利用してトルクを発生させるモーターです。また、高価な永久磁石を使わないことも特徴です。突極とはリラクタンス(磁気抵抗)がローターの円周上の位置によって不均一であることです。歯車の歯を想像すればわかりやすいでしょう。これにより生じるトルクをリラクタンストルクといいます。モーターの巻き線とその駆動方法により、スイッチトリラクタンスモーター(SRM)とシンクロナス(同期)リラクタンスモーター(SynRM)の2種類に分類されます。

 

<スイッチトリラクタンスモーター(SRM)>

誘導モーターのトルク発生原理の基本は、下図(a)に示すように磁界中に電流を流すことにより発生する力を用いていますが、SRM(Switched Reluctance Motor)は、下図(b)に示すように電磁石の吸引力、すなわち磁気エネルギーの位置に対する変化によって発生する力であるリラクタンストルク(コイルが鉄を引きつける力)のみを利用します。

次世代自動車の検証-画像220502

トルク発生の原理を前図(b)により説明すると、ステーター巻線の一相を励磁すると磁束φが発生し、ワークは磁気抵抗が最小となる位置θ=0まで回転します。ローター位置θに対する巻線のインダクタンスをL(θ)とした場合、磁気随伴エネルギーWは次式となります。

W =(1/2)L(θ)i2

エネルギーの変位に対する微分がトルクとなるため、次式によりトルクTが表現されます。

T = ∂w/∂θ = (1/2)i2 (dL(θ)/dθ)

式でわかるように、インダクタンス差を大きくするほどSRMの発生トルクを大きくできるため、最大トルクを得る突極形状の研究が開発当初盛んになされてきました。

 

SRMはステーターも突極構造とし、集中巻としたコイルは向かい合った極どうしがつながっており、必ずS極とN極になるようにして一組みの相として使われます。ローターには通常強磁性体の積層鉄板を使い、6極のステーターと4極のローター、8極のステーターと6極のローターというように、ステーターのほうが2極多い構成で成り立っています。

次世代自動車の検証-画像220503

ステーターは巻き線と鉄心で、ローターは鉄心だけで構成され、永久磁石は用いていません。ローターを突極構造にすることで、ステーターの電磁石の磁束から生じるリラクタンストルクを利用して回転します。ステーター、ローターとも突磁極でステーターの巻線に流す電流をスイッチングして電磁石になる磁極を切り替え、これを次々に繰り返してローターの回転を持続させます。

 

SRMのトルク発生のメカニズムは本質的に非線形で電磁鋼版も飽和しやすいため設計が難しく制御もしにくい欠点があります。また動作原理から半径方向の吸引力による固定子振動が発生しやすく振動が大きい欠点もあります。SRMは誘導モーターより40年ほど前に発明されたのに今も実用例が少ないのは、このような欠点のためです。ただし、頑丈なので今までは洗濯機や坑道のポンプの一部で使われてきました。他にもSRMの高速回転の特徴を生かした家電製品にサイクロン型掃除機があります。

 

しかし、最近になって希少資源を使う永久磁石が不要で、且つ低コストということでSRMが再び注目されてきました。EVではまだ実用化にはいたっていませんが、最近の非線形磁場解析ソフトの進歩によりSRMの磁気飽和を考慮したモーター設計ができるようになり、性能が向上してきました。さらに、制御技術や製造技術の進歩もあって、将来のEV用モーターとして注目されてきています。

 

<同期リラクタンスモーター(SynRM)>

SynRM(Synchronous Reluctance Motor)はステーターを分布巻とし、正弦波電流によりつくられた回転磁界に同期して回転します。

回転子の電磁鋼飯に溝(フラックスバリア)を設けて磁束の通りやすさ(リラクタンス)に方向性を持たせています(次図左)。磁束の通りやすい極がステーター側の電磁石に吸い寄せられます。ローターは磁石同期モーターと同様の巻線です。磁石による逆起電力が発生しないので高速回転できます。

SynRMはSRMに比べ騒音振動が少ないため工作機械用やエアコンプレッサのモーターとして使われています。

次世代自動車の検証-画像220504

ステーターは誘導モーター同様3相の正弦波起磁力の分布巻線が施されています。ローターは磁気抵抗に変化を持たせるため突極構造とする必要があり、古くからさまざまな構造が考案されています。

次世代自動車の検証-画像220505

現在、前図に示すように種々の構造が提案されていますが、なかでも、代表的なものが(b)と(d)です。(d)は、アキシャルラミネート形と呼ばれるもので、電磁鋼板と非磁性シートをサンドイッチ構造にして積層して作るローターになります。(b)は、多数のフラックスバリア(磁束を通さないという意味でこう呼ばれる)を設けた電磁鋼板を積層して製作するマルチフラックスバリア形と呼ばれるローターです。この構造は、プレスの金型技術の進歩により、従来のプレスによる製作法が使用できる利点があり、誘導モーターよりもコスト的に有利になる可能性もあって開発が進んでいます。トルク発生の詳細は割愛しますが、このモーターは見方を変えると、後でお話をしますIPMSynRMの永久磁石を取り除いたものと考えられ、リラクタンストルクのみを利用するモーターということが出来ます。

次世代自動車の検証-画像220506

 

<リラクタンスモーターの将来性>

SRMは、励磁相の切り替えによる電磁石の吸引力のみを回転力とし、交流モーターの最も原理的なものの1つと考えられています。ただし、回転を持続するためには、励磁を切り替えるスイッチを必要としたため、なかなか実用にならず、今日に至っているモーターです。しかし、研究・開発自身は脈々と続けられ、文献上も特許上も膨大な数が存在します。

 

特に開発に熱心であったのが、汎用誘導機の代替を狙ったイギリスを中心とするヨーロッパと、EVを目的とした米国でした。日本は、良質の磁石の世界への供給源であることもあって、盛んに永久磁石モーターの開発が産業界で行われていたため、研究の点では出遅れたという経緯があります。

 

SRMを理想のモーターとする論調も一部で見られますが、決して従来のACモーターに全て取って代わるだけの性能を持っているものではないと考えられます。もしそうであるなら、80年代初頭から応用が始まって既に産業界でそれなりの地位を築いているはずです。しかし、新しい用途を切り開くモーターとしては、非常に面白い特性を持っていることは確かです。吸引力が回転方向だけでなく、半径方向にも働くため、振動・騒音という本質的な問題を持っている点を改良することが今後の実用化の鍵であると思われますが、永久磁石のレアアース資源の問題とともに、もう一度見直される技術となりそうです。

 

一方のSynRMも誘導機の陰に隠れ、歴史の片隅にモーターの分類としてのみ残る存在でした。しかし、インバータの発達により起動の問題がクリアされるとともに、2次電流の損失を発生させないメリットが見直されてきたモーターでもあります。特に、1990年代に入って省エネルギーが切実な問題となってきて、少しでも誘導モーターより効率の良いモーターがないかという産業界の強い要望から、開発が進められてきています。SRMと同様、永久磁石を使わないモーターとして、今後高性能化と実用化開発が活発に行われるのではないでしょうか。

リアクタンスモーターについてのさらに詳細な原理、構造設計等については、別途専門書で勉強していただくことをお薦めいたします。

 

[EVのモーター(2)-2]永久磁石を利用した同期リアクタンスモーター(IPMSynRM)

EV界をリードしているテスラモーターは、その名称の由来ともなっている二コラ・テスラが開発した交流の誘導モーター(先月号を参照)を採用してきました。テスラのフラッグシップセダンである モデルSやSUVであるモデルXなどの初期モデルに搭載されてきましたが、モデル3からは新しいモーターであるIPMSynRMに変更され、モデルSやXも2019年頃からはこちらに変更しています。そして、現在、世界の多くのEVメーカーがこのモーター方式を採用しています。

なお、EVにIPMSynRMを最初に採用したのはテスラですが、実はすでにトヨタは1997年発売のハイブリッド車(HV)初代プリウスからこの方式を採用していました。したがって、電動車駆動モーターとしてのIPMSynRM実用化の先駆者はトヨタということになります。

 

<IPMとSynRMの融合>

先月号でもお話をしましたように、永久磁石界磁型同期モーターの永久磁石のローターへの取り付け方には2つの方法があり、1つはローターの表面に貼り付ける「表面配置型」で、このモーターをSPMモーター(Surface Permanent Magnet Motor)といいます。もう1つはローターの中に埋め込む「内部配置型」で、IPMモーター (Interior Permanent Magnet Motor)といいます。表面配置では高回転時に磁石がはがれてしまう危険性があることから、現在の電動車駆動用モーターではすべて内部配置型を採用しています。

次世代自動車の検証-画像220507

磁石内部配置型同期モーターは永久磁石を空隙部(フラックスバリア)を持った電磁鋼板のローター内に埋め込みます。こうすると永久磁石によるトルクだけでなく、磁気抵抗の非対称性によるリラクタンストルクも利用でき、出力が大きくなり、効率も良くなります。

この“磁石内部配置型同期モーター(IPMモーター)”こそが永久磁石モーターと同期リラクタンスモーターを融合したIPMSynRM(Interior Permanent Magnet Synchronous Reluctance Motor)そのものになるのです。

 

<プリウスのIPMSynRM>

歴代プリウスが採用した駆動モーターのスペックを、最高出力(kW)、コア体積(L)、最高回転数(rpm)、コイル種類の順番で、以下に記します。

 初代 :30kW 5.1L 5600rpm 丸線、2代目:50kW 4.7L 6000rpm 丸線

 3代目:60kW 2.7L 13500rpm 丸線、4代目:53kW 2.2L 17000rpm 平角線

3代目からリダクション(減速)機構を備えているので、単純に比較できませんが、ピーク性能でいうと最高出力は倍増していますし、体積は半減しています。つまり体積あたり出力でいうと4倍といえる大幅な進化を遂げています。もちろん、減速機構により小型化できているのは言うまでもありません。

 

小型化が進んだことで初代から3代目までは同軸配置だった発電モーターと駆動モーターは、4代目において複軸配置となりユニット全体としてのレイアウト自由度が上がったことも感じられます。そうしたレイアウトの最適化や減速機構の変更などによりメカニカル損失も低減。初代と比べると4代目ではおよそ60%減となっているのも見逃せません。

さらに、小型化に効いたポイントが、4代目にして初採用した平角線のステーターコイルです。丸線を巻くのに対して成型した平角線を使うことで隙間を減らすことができ、いわゆるコイル専占率を向上させることができています(約1.3倍)。

 

また、低コスト化については磁石使用量を削減することが大きく貢献しています。とはいえ、単純に磁石を減らしてしまうとモーターの発生できる力(トルク)が減少しています。そこで、磁石を小さくしながらも、その配置を工夫することにより「リラクタンストルク」を有効利用することで、合成トルクを増やしています。つまり、ローター磁石配置構造の最適化が進化ポイントのひとつとなります。

 

具体的には初代では一つだった磁石は、2代目、3代目で2つにわかれ、さらに4代目では3か所に配置しています。これによりリラクタンストルクを強め、磁石量を減らしながら合成トルクを確保することが可能になりました。パフォーマンスを落とさずにコストダウンを成功させたわけです。

次世代自動車の検証-画像220508

2代目プリウスまでのモーターは磁石トルクを利用している割合が多かったので、「リラクタンスを利用したIPMモーター」でしたが、3代目以降は「IPMを利用したリラクタンスモーター」に変わり、本当の意味でのIPMSynRMになったといえるのではないでしょうか。

 

次図はプリウスのモーターの変遷を、磁石配置の視点でとらえたものです。前図ではローターの1極部分しか表していませんでしたが、ここではローター全体の磁石配置を図示してわかりやすくしています。ただし、実際は図にはありませんが、永久磁石の周辺の電磁鋼板にインダクタンスの差が出現するよう様々な空隙が設けてあります。

この永久磁石(ネオジム磁石)の配置の変遷だけでも、磁石トルクとリラクタンストルクのバランスと効率を上げるための磁気回路設計の努力の歴史がよくわかります。

次世代自動車の検証-画像220509

現在の世界各社のEVのIPMSynRMは、それぞれ様々なステーター設計、ローター設計がなされています。例えば、永久磁石もセグメント形状にしてリラクタンスモーターのローター空隙形状に合わせる設計も発表されています。

ちなみに、テスラモデル3や改良型モデルS、Xのローター設計はプリウスの第3世代に類似していますが、8極ではなく2分割6極構造になっています。また、HVとは異なりエンジンがないわけですから、高速でもトルクを維持するための高レベルな“弱め界磁制御”を行っています。

 

以上、今月は現在世界のEVの多くが駆動モーター採用している“IPMSynRM”を中心にお話をいたしました。次回は永久磁石界磁型モーターの課題である高速走行に対する“弱め界磁制御”、“モーターの冷却”、“モーターの銅損・鉄損”などについて取り上げる予定です。

 

<参考・引用資料>

「モーターの基礎と永久磁石シリーズ(1)~(10)」NeoMag通信バックナンバー

https://www.neomag.jp/mailmagazines/mailmag_index.html

「トヨタ・プリウスの駆動モーター進化のポイントは「リラクタンストルク」」clicccar12th

https://clicccar.com/2017/12/03/536894/2/

「テスラモデル3から採用された新しいリラクタンスモーター」ELECTRIC LIFE 2022.04.19

https://electriclife.jp/ipmsynrmmotor/

「テスラモデル3のモーター・その背後にある素晴らしい工学」YouTube 2021.04.06

https://www.youtube.com/watch?v=7z7aOIrZNW0

「電気自動車メカニズムの基礎知識」飯塚昭三 著 日刊工業新聞社

「トコトンやさしい電気自動車の本」廣田幸嗣 著 日刊工業新聞社