理研など、高品質な酸化亜鉛が磁性伝導電子を持つことを発見

[マイナビニュース2017年3月17日配信]

理化学研究所(理研)は3月16日、非磁性半導体である「酸化亜鉛」の伝導電子が、磁石の性質(磁性)を持っていることを発見したと発表した。同成果は、理研 創発物性科学研究センターのデニス・マリエンコ研究員や川﨑雅司グループディレクターらによるもの。詳細は国際科学雑誌「Nature Communications」に掲載された。

同成果は、理研 創発物性科学研究センターのデニス・マリエンコ研究員、川﨑雅司グループディレクター(東京大学大学院工学系研究科 教授)、アンドレイ・ミシェンコ上級研究員、永長直人グループディレクター(東大大学院工学系研究科 教授)、サイード・バハラミー ユニットリーダー(東大大学院工学系研究科 特任講師)、マックスプランク微細構造物理学研究所のアーサー・エルンスト研究員、東北大学金属材料研究所の塚﨑敦教授らで構成される国際共同研究グループによるもの。詳細は国際科学雑誌「Nature Communications」に掲載された。

シリコンやGaAsにMnなどの磁性元素を少量混ぜることで作られる磁性半導体は、電気的に磁性を制御できる不揮発性メモリなどの次世代半導体素子として期待されているが、磁性元素は半導体中の電子を散乱するため、電子の移動速度が低下してしまい、スイッチング速度が低下するという課題があった。

今回、研究グループは、2015年に川﨑グループディレクターらが開発した高品質な酸化亜鉛の単結晶薄膜を元に。酸化亜鉛の伝導電子に磁性を持たせることに挑んだという。具体的には、電子が磁性を担っていると、磁場を加えていないときでも磁化が磁場と同様な働きをし、電子を軌道を曲げ、結果として、試料の端に電子が蓄積される「異常ホール効果」の測定を行ったという。その結果、加える磁場が大きくなるにつれてゼロ磁場からホール抵抗が上昇し、ある大きさの磁場で飽和するという異常ホール効果の振る舞いと一致、伝導電子が磁性を持つことが示されたとするほか、測定されたホール抵抗は、温度が低いほど大きくなること、ならびに磁性元素を混ぜた磁性半導体に比べて、酸化亜鉛中の電子の移動速度は2~3桁高い値を維持できることから、酸化亜鉛が不揮発かつ高速なエレクトロニクス素子応用に有望な材料であることも分かったという。

さらに、観測された異常ホール効果の磁場依存性と温度依存性を理論的解析により検討を行った結果、酸化亜鉛に含まれる少量の結晶欠陥(欠陥)が小さな磁場によって磁性を示し、伝導電子に影響を与えていることが分かったという。これについて研究グループは、従来の非磁性半導体では、このような欠陥のみでは異常ホール効果は観測されず、必ず意図的に磁性元素を混ぜる必要があったが、酸化亜鉛は元々、電子間の反発が強く磁石になりやすい性質があるため、少量の欠陥のみで十分に強い影響を受け、伝導電子が磁性を持ったと考えられると説明している。

なお、研究グループでは、今回の成果について、従来の半導体では困難であった磁性と高速制御の両立という問題に対して、解決の手掛かりを与えるものと考えられると説明しているほか、亜鉛は資源として豊富に存在するため安価であり、酸化亜鉛は無害であるため環境負荷の小さい物質であることから、今後、動作温度の向上やデバイス化を進めることで、現在のメモリ素子の一部を置き換える材料として、低消費電力デバイスへの応用にも期待されるようになるとコメントしている。

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中低速リニア、中国で続々 投資額1兆円規模

[日本経済新聞電子版2017年3月08日配信]

中国で時速100キロメートル前後で走る「中低速リニア鉄道」の建設ラッシュが始まった。インフラ建設大手の中国鉄建や鉄道車両世界最大手の中国中車などが推進し、湖南省で年内にも正式営業を開始する。北京市、広東省などの約10都市で建設計画が進み、総投資額は1兆円規模に達する見込みだ。地下鉄に比べて建設費が安く、騒音も小さい。中国政府は国内でリニア鉄道を新たな都市交通網として普及すると同時に、海外輸出もにらむ。

「すーっと動いてびっくりした」。湖南省長沙市の空港と高速鉄道の駅を結ぶリニア鉄道に乗車した上海市の会社員、謝来昇さんは笑顔を見せた。車輪が地上のレールなどと接触することがないため、速度をあげても振動は小さいままだ。

同リニアは中国鉄建や中国中車のグループ会社などが出資する湖南磁浮交通発展が開発し、2016年5月に試運転を始めた。全長約19キロメートルで投資額は43億元(約710億円)。設計最高速度は時速約100キロメートルだが、実際は70キロメートル程度で運行する。今年中に正式営業に乗り出す見通しだ。

中低速リニアの特徴が騒音の小ささだ。同社幹部は「車内の騒音レベルは小声で話す程度で会話に大声が必要ない。モノレールより騒音が小さく、近隣住民の理解も得られやすい」と胸を張る。

自動車の急増により渋滞問題が深刻化する中国で都市交通の整備は急務だ。都市部では地下鉄建設を進めてきたが、地下を掘る必要があるため建設費は1キロメートルあたり5億~8億元と高額になる。一方、リニアは地上の道路上に建設できるため、1キロメートルあたり2億~3億元で建設できるという。

湖南省長沙で試験運転を始めた時速70キロメートル程度で運行するリニア鉄道

中国が独自技術とする中低速リニアは磁石を使って車両を8ミリ浮かせ、前進する。10センチ浮かせる日本方式と異なり、強力な磁石や液体ヘリウムを使う必要がない。「建設費を地下鉄の半分から最大3分の1まで削減できる。鉄道敷設に必要な面積も小さい」と湖南磁浮交通発展幹部は言う。

こうした利点から、中国全土でリニア建設の計画が急拡大している。中国鉄建はリニア建設を加速するため、16年10月に全額出資の中鉄磁浮交通投資建設を設立。広東省清遠市政府と中低速リニアの建設で合意した。全長30キロメートルで投資規模は約100億元。18年末の開業を見込む。

旧鉄道省系の鉄道インフラ建設大手の中国中鉄は120億元をかけて、北京市郊外に全長20キロメートルのリニア建設を進める。年内の開業見通しだ。

中鉄は新疆ウイグル自治区ウルムチ市や、四川省成都市と徳陽市の間でもリニア建設を構想する。中鉄磁浮交通投資建設は「技術を磨き、安全性の確保とコスト低減を進めて、国内各地で実績を積んでいく」と意気込む。

車両メーカーも増産に向けて動きだした。中低速リニアの車両開発や製造を手掛けるのは、中国中車のグループ会社だ。長沙のリニア向けには中車傘下の湖南省の製造子会社が、北京のリニア向けには傘下の河北省の製造子会社が供給する。中国全土のリニア建設計画の具体化に伴い、車両の生産能力を拡大していく方針だ。

<参考:NeoMag通信2013年10月号>

本記事による中国のリニアモーターカーは以下の参考資料の中の“常電導リニア”の技術範疇と推測されます。

*磁気浮上式リニアモーターカー

磁気浮上式リニアモーターカー(磁気浮上式鉄道)とは、磁力の反発・吸引力により浮上し、リニアモーターで駆動する移動車両の総称です。推進にはリニアモーターが用いられ、高速化が可能です。

実用車両では車両側に超電導電磁石、軌道側に通常の電導磁石を使う“超電導リニア”(リニア中央新幹線)と、車両側、軌道側共に通常の電磁石と一部永久磁石を使う“常電導リニア”(ドイツ・トランスラピッド、上海・トランスラピッドなど)があります。その他、読者の皆様が特に関心があると思われます永久磁石を主体とした“永久磁石式リニア”があります。しかしながら、この永久磁石式リニアは、まだ実験小型車両、アトラクション車両などに限って利用されているだけのようです。

これらの磁気浮上式リニアモーターカーは、浮上にも駆動にも磁気を使うので、原理や設備の面から相性が良いのですが、駆動だけでなく浮上 にも新技術を用いるため、技術的ハードルが高く、また浮上式車両であっても、停車・低速時や緊急時のために車輪を装備していることが多いのが特徴です。

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核融合発電に向け重水素実験開始

[YOMIURI ONLINE 2017年3月08日配信]
モニターに映し出された重水素のプラズマ

核融合発電の実用化を目指す基礎研究をしている自然科学研究機構・核融合科学研究所(岐阜県土岐市下石町)は7日、核融合発電の実用化に必要な1億2000万度の超高温を実現するため、重水素を使った新しい実験を開始した。

核融合は、小さな質量の原子核が融合して、別の種類の原子核に変わる反応で、太陽の内部で起きているといわれている。核融合発電は、この反応の際に放出されるエネルギーを利用する。同研究所は、これまで水素を使って、電子と原子核がばらばらになったプラズマの生成実験を繰り返し、2013年に達成した9400万度が最高温度だった。

この日午後4時過ぎ、研究所内に設置された直径約13メートルのドーナツ形をした実験施設「大型ヘリカル装置」内に、重水素を送り込む装置を起動する赤いボタンを竹入康彦所長が押した。2分33秒後に薄いピンク色をした「ファーストプラズマ」の様子が制御室のモニターに映し出されると、研究者らから「おー」「やった」などと歓声が上がった。初年度は7月7日まで行われるが、5月初旬には、目標の1億2000万度を目指すという。実験は9年間を予定している。

一方、住民グループ「多治見を放射能から守ろう!市民の会」(井上敏夫代表)はこの日、同研究所正門横で抗議集会を行い、約50人が「実験反対」のシュプレヒコールを上げた。同会は先月8日、「重水素実験は、放射性物質のトリチウムや中性子などが発生する危険な実験」として同研究所に抗議文を提出している。

同研究所では、13年度に土岐、多治見、瑞浪の地元3市や県と安全確保などについて協定を締結。研究所内にトリチウムの除去装置を設置したり、周辺の大気中や河川などに放射線量の測定場所を設け、放射線量をホームページで公開したりしている。

◆核融合科学研究所=1989年に名古屋市で設立され、97年に土岐市へ移転。実験施設「大型ヘリカル装置」では現在、水素などを使って核融合に必要な高温プラズマを強力な磁場で閉じこめ、安定した状態に保つ研究を進めている。

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アルマ望遠鏡 132億光年彼方の銀河に酸素と塵を検出

[マイナビニュース2017年3月09日配信]

アルマ望遠鏡の最遠方記録が更新

英国ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのニコラス・ラポルテ氏らの研究グループはこのほど、アルマ望遠鏡を使った観測により、地球から132億光年の距離にある銀河A2744_YD4で酸素と塵が放つ電波を検出した。同成果についての詳細は、米国科学誌「Astrophysical Journal Letters」に掲載された。

銀河A2744_YD4は、ハッブル宇宙望遠鏡によって最初に発見された天体で、手前にある銀河団エイベル2744の「重力レンズ」効果によって増光されていることから、銀河の光や電波を詳しく分析するのに適している。

同研究グループは今回、同銀河に含まれる塵が放つ電波を検出。また同時に取得されたデータのなかに酸素が放つ電波も発見した。同電波は、もとは電離された酸素が放つ波長88μmの赤外線だが、赤方偏移により波長830μmのサブミリ波となってアルマ望遠鏡に届いたもの。赤方偏移から、A2744_YD4までの距離は約132億光年と計算された。これは、塵や酸素が検出された最遠方記録であった131億光年からさらに1億光年記録を更新する結果である。

さらに同研究グループは、観測された塵からの電波をもとに同銀河に含まれる塵の総質量が太陽の600万倍であること、星の総質量が太陽の20億倍であることを導出。また同銀河では、1年間で太陽20個分に相当するガスが星になっていることも明らかになった。これは、A2744_YD4における星の誕生が、天の川銀河と比べておよそ10倍活発であることを示しているという。

また塵は、星の内部で作られた元素が星の死によってばら撒かれる過程で作られるものであるため、星の誕生のペースと観測された塵の総量を比較することで、同銀河の塵が蓄積するのに必要な時間が約2億年であったことも明らかになっている。つまり同銀河のなかでは、観測でとらえた132億年前の時期よりも2億年前、現在から134億年前に活発な星形成活動が始まったということを示している。

今回の成果について同研究グループは、「銀河A2744_YD4は、単にアルマ望遠鏡で観測された最も遠い天体、ということにとどまりません。非常に大量の塵を検出できたことは、星の死によってまきちらされた塵による『汚染』がこの銀河の中ではすでに進んでいることを示しているのです。同様の観測を進めることで、宇宙初期の星の誕生をたどり、銀河における重元素増加の開始時期をさらに昔までさかのぼることができるでしょう」とコメントしている。

今回観測された132億光年彼方にある銀河A2744_YD4の想像図 (C) ESO/M. Kornmesser
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[磁石付く塗料] 中ペン塗装店 画びょう不要、壁美しく

[日本経済新聞電子版2017年3月07日配信]

冷蔵庫に磁石でいろんなメモをベタベタ貼り付けている家庭は多いだろう。壁に磁石が付けば、もっと広いスペースを使える。創業93年の老舗塗装会社、中ペン塗装店(青森県八戸市)は、磁石がくっつくように鉄の粉を混ぜた塗料を開発し、2016年に特許を取得した。サッと塗るだけで壁が「掲示板」に早変わりする。

開発したのは、クロスやコンクリート、ボードなどの上から塗るだけで磁石が付く磁気吸着塗料。一般の塗料と同じように、ローラーやこて、吹き付けで塗れる。4月にも「マグピタウォール」の商品名で塗装店などに販売する予定だ。

磁石が付く塗料の着想は30年以上前に遡る。きっかけは塗装の仕事で訪れた先々でテープを貼った跡や画びょうの穴で汚くなった壁を目にしたことだ。幼稚園や保育所、老人福祉施設などでは、危険防止のため画びょうを使わない施設も増えつつあった。

「磁石がくっつく壁なら、いつまでもきれいに使えて安全だ」。中村昭則社長はそう思って独自に磁石吸着塗料の開発に着手した。八戸市には金属関係の工場が多い。いろいろな鉄粉を調達しては塗料と混ぜ合わせ、試作品を作っては建築関係の見本市に出展した。来場者からは塗料より壁紙(シート)がいいという意見が多く、まず08年に鉄粉を入れた壁紙シートを「マグピタシート」の商品名で発売した。

さび防止に苦心

だが、本命は塗料だ。技術支援機関の青森県産業技術センター(青森産技)に相談し、10年ごろから同センター八戸地域研究所の佐々木正司機械システム部長(当時同研究員)と共同開発に乗り出した。

塗料に鉄の粉を混ぜるので、普通ならさびの発生が避けられない。さびを防ぐ添加剤を使う必要があった。

どんな添加剤を使うのか。鉄粉と塗料と添加剤の最適な配合割合や重量比は何か。鉄粉の最適な直径は――。鉄粉の種類を変え、混ぜ方を変えては試作を繰り返すなど、完成まで試行錯誤の連続だったという。

特許取得に4年

中ペン塗装店と青森産技は共同研究を経て12年3月、特許庁に特許を共同申請。16年8月に「磁着性塗料用混合物および磁着性塗料」として特許を取得した。磁石がくっつく塗料はこれまでもあった。特許取得まで4年以上かかったのは「配合の仕方が既存製品と違うことを客観的に示すのに苦労したため」(佐々木部長)という。

「マグピタウォール」の価格は未定だが、中村社長は「1キログラムあたり5000円前後する既存品の半分以下にしたい」と話す。自社ブランドでの販売のほか、塗料メーカーに商品化の権利を供与することも検討したいという。中村社長は「私の夢はマグネットの付く壁を世界に広げること」と話している。

(青森支局長 森晋也)

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高効率・省資源・軽量化実現、30年「クルマの新材料」

[日本経済新聞電子版2017年3月03日配信]

2030年のクルマは電動化や自動運転で大きく変わる。しかし、変革はそれだけではない。

2020年代に実用化される材料の一世代先の材料が登場しているだろう。電池、モーター、インバーターといったパワートレーン、外装・内装のボディー、さらに希少資源を置き換える新材料の芽が生まれつつある。

新しい材料がクルマに採用されるためには、民生用の電子機器以上に困難が待ち受けている。その第一の理由が、使用量の多さである。1分足らずという非常に速いタクトタイムで大量生産するクルマにとって、少量しか供給できない材料はそもそも採用の俎(そ)上にも載らない。

さらに、低コストへの要求も厳しい。自動車が発明されてから車体用材料として今でも主流の鋼材の価格は100円/kg程度と極めて安価。この鋼材を差し置いて採用されるためには、その材料ならではの特性を研ぎ澄まさなくてはならない。信頼性を検証するための時間も必要だ。一度採用されれば、モデルチェンジするまでの5~7年間は造り続ける他、そのクルマが市場に出て廃棄されるまでの10年以上にわたる耐久性が求められる。

こうした理由から材料の“世代交代”はそう簡単には進まない。現在、次世代のパワー半導体として話題になっているSiC(炭化ケイ素)も、本格的な採用は2020年頃の見込み。夢の材料として提案されたものの、実用化の音沙汰がないという例はいくつもある。

ただし、これからのクルマの進化には大幅なスピードアップが求められている。燃費や電費といったエネルギー効率の向上の要求は待ったなし。2050年には内燃機関だけのクルマは限りなくゼロにすることが求められる。

その手前の2030年においても、電動車両の割合は大きく高まることが予想される。より少ない電池、効率の高いインバーター、希少資源の使用量が少ないモーターなどが求められている。

■EVの航続距離を3倍に

今後の材料で重要なキーワードの一つが「エネルギー効率の向上」だ(図)。2030年には新車で販売されるクルマのほとんどは電動化技術を搭載しているはずだ。この時、電気エネルギーをいかに効率良く使えるかが鍵になる。

2030年のクルマ材料「三つのポイント」

電気自動車(EV)の普及を妨げている大きな理由の一つ、「航続距離の短さ」を解決する有望な技術として2025~2030年ごろの実用化を見込むのが、全固体電池である。同電池は、様々なポストリチウムイオン電池の候補の中で、最有力とされる。

電池研究者は一つの開発目標として、エネルギー密度で700Wh/kgの実現を目指す。これは、既存のリチウムイオン電池の3倍を超える数値だ。単純に考えれば、EVの1回の充電での走行距離を3倍に延ばせる。

全固体電池は、電解質に無機系の固体物質(固体電解質)を用いる。ここで注目されている材料が、従来の有機電解液のイオン伝導率(リチウムの拡散速度を示す指標)を上回るLGPS系の固体電解質(リチウム、ゲルマニウム、リン、硫黄から成る硫化物系結晶質)だ。全固体電池の研究開発を長年続けてきた東京工業大学物質理工学院応用化学系教授の菅野了次氏は「世界最高のイオン伝導率」を実現したとする。

電動車の進化の鍵を握るのは電池だけではない。モーターを制御するパワー・コントロール・ユニット(PCU)のパワー素子でも、従来より低損失で、小型化できる材料が開発されている。

PCUのパワー半導体材料は現在、Si(シリコン)が中心だが、2020年代にはSiCの本格普及やGaN(窒化ガリウム)の実用化、さらに2030年代にはGa2O3(酸化ガリウム)の実用化が見えてきた。

Ga2O3の利点は、次世代パワー半導体の中では最もコストを抑えつつ、SiCやそれを上回るGaNと同レベルの性能を達成できること。インバーターの容積は、現在のSiの5分の1以下になる可能性がある。

電力を伝える電線としての応用が期待されているのが、カーボン・ナノ・チューブ(CNT)である。CNTは、6員環の炭素原子が並んだ直径がナノメートル(nm)オーダーと小さな円筒状の材料。円筒が1本なら単層品で、複数の円筒が重なったものが多層品である。

このうち単層品は多層品に比べてはるかに性能が高く、導電性や熱伝導性が優れることに加え、質量はアルミニウム(Al)の半分ほどである。この応用先として、自動車技術者が大きな期待を寄せるのが、EVなどに使う駆動モーターの電線だ。2030年頃の実用化を目指して研究が進む。

電動車両向けではないが、エンジン車が無駄に捨てている熱を利用して、発電することでエネルギー効率を高められる熱電変換材料も2030年に向けて注目される技術だ。

■天然資源から新たな材料を

石油資源を使わずに天然資源から新たな材料を生み出したり、希少資源の使用量を抑える “省資源”を可能にしたりする材料開発も進んでいる。

地球上に豊富にある水とCO2(二酸化炭素)を使って、石油資源に変わる炭化水素を造り出そうというのが人工光合成である。ここでは、太陽光を使い水からプロトンと電子を発生させる酸化電極と、プロトンと電子でCO2を還元し、炭化水素を造りだす還元電極が必要になるが、後者ではCO2とプロトンを反応させて、メタンやエチレンといった炭化水素を生成できる銅(Cu)系触媒が注目されている。

同技術を活用した昭和シェル石油では、植物の光合成並みの効率を実現したとしており、この効率がもっと高まれば、ガソリンや軽油に代わる燃料を天然資源から造れるようになる。

希少な天然資源を使わないという意味では、永久磁石式モーターに使われるネオジム磁石の代替となる新磁石の開発も重要だ。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)を基軸に重希土類を使わない磁石の開発を推進している。NEDOは180℃で従来磁石の2倍の磁力を持つ「ポストネオジム磁石」の研究も進めており、2021年までに実用化のメドをつけ、2030年ごろには車載の駆動モーターに使われることを目指している。

注目されているのは、希土類元素が1に対して鉄(Fe)が12という成分比率の「1-12系希土類磁石」と、Feとニッケル(Ni)から成るL10型と呼ばれる結晶構造を持つ「L10型FeNi磁石」だ。

■車体質量の2割軽量化狙う

さらに、車両の軽量化への要求も高まる一方だ。車体質量は軽ければ軽いほど、加減速にかかるエネルギーを小さくできるし、定常走行している時に必要なエネルギーも減らせる。軽量化に向けては炭素繊維強化樹脂(CFRP)といった先端材料も実用化されつつあるが、金属および樹脂系でそれとは異なる材料も開発されている。

その一つが、セルロース・ナノ・ファイバー(CNF)。これは、植物の細胞壁内に存在し、直径が数nm、長さが数ミクロン(μm)ほどで繊維状のもの。樹脂に混ぜることで、樹脂の強度を高めてクルマの部品としての適用の幅を広げる。鋼板の代替で使えば、車両質量を2割ほど軽くできる。

京都大学を中心とする研究チームが企業と連携してポリアミド(PA)にCNFを質量比で約5%添加してエンジンカバーを試作したところ、ガラス繊維を質量比で約30%混ぜたガラス繊維強化樹脂(GFRP)に対して、約3割軽くできた。

クルマ部品への採用の課題はコストだ。現在CNFは数千円/kg程度で、炭素繊維の約3000円/kgよりも高い。製造プロセスの改良と量産効果により2030年には500円/kgまでコストを下げられると見込む。

金属材料で軽量化を狙うのが、マグネシウム(Mg)合金だ。Mg合金の密度は1.7g/cm3(立方センチメートル)で、鉄の約4分の1、Al合金の約3分の2である。実用金属の中では最も軽く、CFRPやGFRPと同等だ。Mg合金をボディーに適用すれば、自動車をより軽くできる。

自動車用にも期待されている人工クモの糸(紡ぎ出される糸、スパイバー提供)

「燃えやすい」「加工が難しい」「耐食性が低い」という弱点も克服されてきている。「新構造材料技術研究組合(ISMA)」の研究グループによれば、開発した加工性に優れる高強度のMg-Al-Ca-Mn系合金は、250MPa(メガパスカル)以上の引っ張り強さ、15%以上の伸び、5m/分の押し出し速度を実現し、いずれも6000系Al合金と同等の値ながら、難燃性の要件をクリアした。

軽量化ではこの他、質量当たりの強度が鉄鋼の4倍で、同時にポリアミドよりも高い伸縮性を備えるという天然のクモの糸を人工的に造るベンチャー企業Spiberの取り組みも注目だ。Spiberは、人工クモの糸を「2030年ごろには自動車用途で幅広く活用されるようにしたい」と意気込む。

また、東レはベースのポリマーに対して、破断伸びは約6倍、屈曲耐久性は約20倍、エネルギー吸収性能は2倍強という、通常時は硬く強く、衝撃を受けても壊れにくい環動ポリマー構造導入樹脂を開発した。

(日経Automotive 林達彦)

[日経Automotive2017年2月号の記事を再構成]

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「振動発電」一円玉大で1mW 無線IoTへの応用視野

[日本経済新聞電子版2017年2月28日配信]

一円玉ほどの大きさで、身近にある振動から、従来よりも1桁大きな1mWの電力を発生する。このような振動発電デバイスを、空調・冷熱分野の制御機器などを手掛ける鷺宮製作所、東京大学、静岡大学が共同開発した(図1)。

図1 開発した一円玉大(20mm角)の振動発電デバイス

内蔵する0.4gの重りに周波数500Hz、加速度0.996Grms(rmsは実効値)の振動を加え、1.01mWrmsを発電することを確認した(図2)。2018年の実地試験、2020年の量産化を目標にする。

図2 1G弱の振動から1mW強を発電。開発した振動発電デバイスの発電特性と構造の模式図。発電特性は、周波数500Hzの振動を、加速度を変えて測定した(図:鷺宮製作所など)

さらに発電能力を高めた次世代技術の開発も進めており、2020年に同一寸法で10mWを実現させ、2020年代の実用化を目指す。

■無線信号を30m飛ばせる

開発した振動発電デバイスはエレクトレットを使う。エレクトレットとは、永久磁石が磁場を帯びているのと同様に、永久分極により電場を帯びた材料である。永久磁石を動かし電磁誘導で発電するように、エレクトレットを動かし静電誘導の原理で発電機を構成できる。

今回、重りを含む数ミリ大の構造体で回路を作った。2つのくし歯形構造体を対向させ、振動で動くことにより生じるクーロン力の変化で各構造体内部の電子が移動(電流が発生)するようにしている。

同様の原理による開発成果は過去にあったが、得られる電力が数十μWにとどまっていた。大きな潜在需要があるとみられる無線IoT(モノのインターネット化)端末の電池を代替するには、多くの用途で十分ではない。

1mW級にできれば、工場内のモーターなどの回転機器による振動、道路高架の振動などをエネルギー源にした電池レスのIoT端末への応用が視野に入る。1mWあれば数百MHz帯を搬送波に使うサブGHzなどの無線通信で電波を30m飛ばせる計算だ(図3)。

図3 10mW級が視野に。エレクトレットによる振動発電技術の進化を示した。従来技術では、既存の研究発表成果を対数グラフ上に直線で外挿している。今回の技術は同じ傾きで10倍、次世代技術は同じ傾きでさらに10倍の発電能力になるようにシフトさせた。今回の技術で2020年の開発目標としていた能力を既に達成した。研究を統括している年吉洋氏(東京大学 生産技術研究所 教授)は、イオン液体による次世代技術で2020年に10mW以上の実現も十分可能とみている(図:東京大学など)

振動発電には、圧電材料を使う方式、電磁誘導を使う方式、これらを併用した方式がある。これらは、やはり発電能力が十分ではないか、身近にはないような強い振動を与えなければ発電しないなどの課題がある。

■カリウムイオンで分極を高密度に

今回、静電誘導での発電効率を高めるため大きく2つの技術を導入した。

1つは、エレクトレット表面の電荷密度を高める技術。採用したのは、K+(カリウムイオン)を使う手法である。KOH(水酸化カリウム)を数百℃でガス化してくし歯形構造体を形成後のウエハーに触れさせ、構造体には数百Vの電圧をかけて分極を生じさせる。冷却させると、高い密度の分極が保持される。

もう1つは、構造体と隙間をそれぞれできるだけ小さくする技術。MEMS(微小電子機械システム)を使い、面積当たりのくし歯形構造を多数にするとともに、構造体の動きに伴うクーロン力の変化が大きくなるようにしている。試作デバイスの1つは、1283対の櫛歯形構造体を数μmのギャップで形成した。

実使用環境でより多くの発電が可能なように、幅広い周波数の振動を電力に変換するための工夫もしている。

MEMSによる構造体には、一般には固有の共振周波数があるため、共振周波数以外の周波数の振動からは大きな電力が得られない。従って実使用時の発電量は大きくならないことがある。そこでQ値を低くして効率特性が周波数に依存しにくい系を形成した。具体的には、エレクトレットの電荷を製造段階で構造体に蓄積する工程において、印加電圧を高めることによってQ値を大幅に低下させられることを確認した。

エレクトレット材料には熱に弱いというイメージが定着しているが、今回の材料は静電力が1dB低下するまでの期間が65℃で8年、室温で400年以上という加速試験の結果が得られている。

■10mW級はイオン液体で

さらに10mW級の発電を可能とする研究も進めている。今回のエレクトレットによる永久分極を利用し、イオン液体による電気二重層を形成する。イオン液体とは、陰イオン(アニオン)と陽イオン(カチオン)から成る塩の一種で、常温で液体として存在する。

イオン液体による電気二重層によって電極のギャップよりもはるかに短い距離で電荷が向かい合うようにでき、電極の移動で得られる電力を高めやすくなる。

(日経エレクトロニクス 三宅常之)[日経エレクトロニクス2017年2月号の記事を再構成]

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公差って何?これだけは知っておきたい3D CAD知識(その12)

[マイナビニュース2017年3月01日配信]

進化し続ける3D CAD、結局どれを選べばいい?

草野多恵

こんにちは。少し春めいてきつつある気候になり、花粉症の症状が出始めた方も多いのではないでしょうか。

私は数年前まではひどい花粉症だったのですが、最近は症状が出なくなりました。「花粉症に効く!」と言われるものは標準医療、民間療法ともにいろいろやりましたが、どれが決め手で治ったのかは不明なのです…。でもこのように花粉症は治らないものではないので、諦めずにいろいろとご自身に合う対処法を探して試されるのがよいのではないでしょうか。

ただ、特に民間療法の場合は自己責任となってしまうのでよく調べて実施されるのがよいと思います。厚生労働省のホームページに「花粉症特集」というコーナーがあり、ここが一番参考になると思います。

いったいなんの話をしているんだ?ということで本題です。

これまでの連載で3D CADのテクノロジーにおける種類についていろいろとご紹介してきましたが、結局3D CADって「ヒストリー」とか「フィーチャー」とか「ダイレクト」とか、いろいろあってこんがらがるなあ…と思っている方もいらっしゃるのではないでしょうか?そして、結局自分の業務にはどれが合っているのか、よくわからないという方もいらっしゃるでしょう。

ここで今一度、前回までお話した3D CADのさまざまな手法の種類について整理をしつつ、新しいジャンルのCADについてご紹介します。まず基本的に、3D CADはこのようにオレンジのラインとグリーンのラインに分類することができます。

モデリング手法は、フィーチャーベースとダイレクトモデリングの2つに大きく分類されており、各々の特長は大部分において相反しています。

例えばフィーチャーベースのCADは「履歴がありことによりフィーチャー間に親子関係が発生し、親の修正が子に伝わることによってシステマティックに修正できる。寸法を修正するだけでフィーチャーの形状を変更できるので効率的である」ということをアピールポイントとしていますが、ダイレクトモデリングのCADは「それらがかえって弱点であり、それらを克服できるのがダイレクトモデリングである」と主張します。

つまり、好ましくない親子関係が付いていると思い通りに修正できなかったりします。ダイレクトモデリングなら親子関係という概念がないのでそのような心配はありません。

このように、各々長所短所があります。そこで前回お話したように、最近は特にフィーチャーベース主体のCADにおいてダイレクトモデリングを部分的に取り入れるCADが増えてきています。しかしその多くはあくまでフィーチャーの考え方をきっちりと残しており、InventorもSOLIDWORKSもダイレクト編集した履歴自体が「ダイレクト編集をしたフィーチャー」として登録されます。従ってあくまで「履歴を持ったフィーチャーベースによるモデリング」という点は変わりません。

しかし最近は、本来の意味でのダイレクトモデリングとフィーチャーベースモデリングの両方を混在させられるCADが登場してきています。最近と言っても、実は、Solid EdgeやNX、つまりシーメンスPLMソフトウェア社製品が取り入れている「シンクロナス・テクノロジー」はこの方式のテクノロジーであり、先駆者であると言えると思います。このテクノロジーは、シーメンスPLMソフトウェア社のホームページによると2008年から採用しているものです。これ以降、フィーチャーベースでありながら履歴を記録しないというタイプのCADはなかなか登場しませんでしたが、オートデスク社が数年前にリリースを開始したFusion 360が実現しました。

Fusion 360は、フィーチャーベースモデリングとダイレクトモデリングを、いつでも好きなタイミングで混在させることができます。最初はダイレクトで作り始め、途中からフィーチャーベースに切り替えたり、その逆の順番で作ったりと、作りたいものに対して設計者の判断で自由に組み合わせることができます。これにより、従来の手法では作るのが困難であった形状も簡単に作ることができるようになります。

履歴のあるフィーチャーを作成

指定したフィーチャーを「基準フィーチャ」という履歴のない形状の塊に変換できる。フィーチャー作成時に設定した寸法などの条件はすべて無くなり、ただの立体になります。すべてのフィーチャーを対象にすることも、図のように一部のフィーチャーのみを対象にすることもできます。

さらに履歴を一切無くすことも可能で、「基準フィーチャ」も含めて一切の履歴がなくなります。左側にこの形状を作成した時に使用したフィーチャーの名前は表示されますが、これを使用しての修正は基本的に不可能です。

このように、Fusion 360ではフィーチャーを使用してのモデリング、ダイレクトモデリング、さらに履歴の有無も含めて自由に組み合わせることができます。

しかし、自由に使えるということは、裏を返せばどう組み合わせるかを自分で判断する力が必要になってきます。自分が作りたいものをモデリングする場合にはどうするのが適切なのか、これは設計されるご自身以外、誰にも判断できません。ですから3D CADをうまく使いこなしたいと思ったら、まず初めはフィーチャーベースとダイレクトモデリング、そして履歴の有無のメリット/デメリットをきちんと把握されることをお勧めします。

頻繁な試行錯誤、設計アイディアの検討を繰り返す業務が多い場合はダイレクトモデリング、設計変更が多い小生設計も含めた業務の場合は履歴のあるフィーチャーベースと、一般的に言われているおおまかな指標はありますが、それはあくまで一般的な分類なので、最終判断はご自身でされるのが最適です。

と言ってもあらゆるCADを買い揃えたり、体験版を手配したりするのは大変だと思います。このFusion360はユーザー登録のみで使用でき、これらすべての手法を試すことができるCADですので、会社やお手持ちでCADが無い場合、まずはこれを使用してみるのもよいと思います。

ツールが便利になることに比例して、その便利さを使いこなすための知識やテクニックを身に付けるとエンジニアとしてとても強力な武器になると思います。ぜひ、いろいろと試してみてください。

ではまた次回をお楽しみに!

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公差って何?これだけは知っておきたい3D CAD知識(その11)

[マイナビニュース2017年2月08日配信]

あらためて学ぶダイレクト モデリングのメリット

草野多恵

こんにちは。寒さがピークの時期ですが、いかがお過ごしでしょうか?相変わらずインフルエンザが流行っていますのでお気をつけください。

さて前回までちょっとCADそのものからは外れて設計情報を伝えるための規則、表現方法についてお話していましたが、今回はまたCADの話に戻ります。

第7回の終わりに、ダイレクトモデリングについてもそのうち…と書いていましたので、ちょっとお話してみようと思います。

そもそも、何年か前までの3D CADは、フィーチャーベース モデリングかダイレクト モデリングか、どちらか片方のみができるという仕様が一般的でした。代表的な製品としては以下のものがあります。

■フィーチャーベース モデリングがベースのCAD ・PTC Creo Parametric(旧Pro/ENGINEER) ・NX ・SOLIDWORKS ・Autodesk Inventor ・SolidEdge など

■ダイレクトモデリングがベースのCAD ・PTC Creo Direct(旧CoCreate OneSpace Designer) ・SpaceClaim ・iCAD SX など

各CAD製品のベンダー企業は、当たり前ですがどこの会社も「自社製品のモデリング手法が最強である!」と宣伝してきました。しかし年月の経過とともに、フィーチャーベースの良いところ、ダイレクトの良いところを各社認めるように……というか、ユーザーからの熱い要望に後押しされ、フィーチャーベースモデリングが主体のCADでも、部分的にダイレクトモデリングの機能も搭載するようになりました。

このようにして、現在はフィーチャーベースとダイレクトのいいとこ取りができるというのが主流になってきています。しかし、ダイレクトモデリングがベースとなっているCADに関しては、ダイレクトモデリングのみで突き進んでいるものが多い印象です。

フィーチャーベース モデリングがベースのCADでは、基本的に従来の手法でモデリングをし、部分的に必要に応じてダイレクトモデリングを併用することを推奨しているようです。なお、シーメンスPLMソフトウェアのNXとSolid Edgeの場合は独自の「シンクロナス テクノロジー」を採用し、後付けで拘束条件や設計ルールを追加できるようになっています。

ダイレクトモデリングの方が合っている設計過程での状況は、例えば設計初期の試行錯誤を繰り返す構想段階、または出図直前の微調整時などです。 構想設計の段階では形状を作ってみては検討し、良くない場合は作り直して再度検討、といった作業を繰り返します。そのような場合は直接形状をいじれるダイレクト モデリングの方がすばやく操作ができて便利です。また、出図直前にちょっとだけ大きさを変えたいといった場合にも、履歴に引きずられること無く調整ができるので工数を節約することができます。

では、フィーチャーベースと比較しやすいように、第7回の説明で使ったAutodesk Inventorのモデルを使用します。フィーチャーベースの場合はモデリングの履歴を残すことが前提となっており、その前後関係、つまり親子関係による関連性をもとに理路整然としたモデリングをすることになります。

以下の図は第7回で使用したものです。フィーチャーベースの手法で左の状態から右の状態に変更する手法として、フィーチャーの順番を入れ替えるという方法をご紹介しました。

この例のようにすんなり変更できればよいですが、もっと複雑な部品でフィーチャー同士が複雑に関連付いている結果、このようにすんなりと変更できないというケースが出てきます。そのような時には、ダイレクト モデリング手法を利用するという選択肢があります。以下にその例をご紹介します。

例:穴を開けた後にシェルを追加したところ、穴にも壁ができてしまったので「ダイレクト編集」を使用して、穴の壁を無くす操作を実行します。

(1) 「ダイレクト編集」を使用して平面を移動させます。その前段階として、移動距離をあらかじめ計測します。この場合は19mmです。

(2) 「ダイレクト編集」コマンドを使用して、面を19mm移動させます。

(3) 操作をした結果、穴の壁がなくなりました。フィーチャーとして「ダイレクト編集」というものが追加されているのが確認できます。

このInventorの場合、「ダイレクト編集」が履歴に残るので再編集できますが、先ほどの平面の位置を元に戻したりといったやり直しができるわけではなく、さらに操作を追加するのみとなります。つまり一度実行した操作をもとに戻すことはできません。これがダイレクト モデリング手法を使用した場合の特長です。

ただし、この「ダイレクト編集」フィーチャーを削除すれば、面の移動自体を実施しなかったことにすることができます。つまり、ダイレクト編集実行前の状態に戻すことは可能です。

Inventorの場合はこのように3Dの形状を直接動かす機能を「ダイレクト編集」と呼んでいますが、このあたりはCADによってさまざまだと思います。同じオートデスク製品でもFusion 360の場合は「移動」コマンドで実行しますが、その中でやっていることはまったく同じ、結果も同じものが得られます。

ここまで見てきたように、どのベンダーのCAD製品でも、このようにダイレクトに形状を編集できる機能を搭載し始めています。そのもう一つの理由は、3D CADを使う企業および人々が増えた結果、CAD同士のデータのやり取りをする機会が増えたことがあると思います。

自社が使用しているCADと異なるCADで作られたデータを受け取る際には、ほとんどの場合、中間形式ファイルでのやり取りになります。中間形式ファイルではフィーチャーの情報はなくなってしまい、ただの3Dの立体になってしまいますので、受け取ったデータをさらに編集したい場合はダイレクトに面を移動したり、尺度を変えたりするなど形状操作ができる機能がとても役立つことになります。以上、ダイレクトモデリング手法を使用した場合のメリットをご紹介しました。

ではまた次回をお楽しみに!

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東大など、無機ナノチューブで前例のない特異な超伝導状態を実現

[マイナビニュース2017年2月21日配信]

東京大学(東大)は2月17日、二流化タングステン(WS2)ナノチューブに対して電解質ゲートを用いたキャリア数制御を行うことにより、WS2ナノチューブの電気伝導性を制御できること、電子を多量にドープし領域で超伝導が発現することを発見したと発表した。

同成果は、東京大学大学院工学系研究科附属量子相エレクトロニクス研究センター・物理工学専攻 岩佐義宏教授、同研究科附属量子相エレクトロニクス研究センター 井手上敏也助教、同研究科物理工学専攻の大学院生 秦峰氏、理化学研究所物質評価支援ユニット 橋爪大輔ユニットリーダーらの研究グループによるもので、2月16日付の英国科学誌「Nature Communications」に掲載された。

WS2ナノチューブは、グラフェンに次ぐ原子層物質として近年注目を集めている、遷移金属ダイカルコゲナイドと呼ばれる物質群のひとつであるWS2のナノ構造体の一種。同材料は金属と絶縁体の中間の電気伝導性を示す半導体であり、固体ゲート絶縁体材料を用いた電気伝導性の制御や力学特性の研究が行われてきたが、超伝導を含めた電気伝導性の大幅な制御はこれまでに報告されていなかった。

今回、同研究グループは、多層WS2ナノチューブを基板上に分散させ、単一ナノチューブのデバイスを作製。ゲート絶縁体材料として電解質(KClO4)を用いることで電気伝導性の制御を試みた。ゲート絶縁体材料である電解質に電圧を印加すると、電解質中のイオンが物質表面や原子層物質の層間に集積して物質中に電荷が蓄積され、大幅なキャリア数の制御が可能となる。この結果、半導体であったWS2ナノチューブに電子を蓄積して金属的電気伝導特性にすることに成功。電子を多量に蓄積した領域では、電気抵抗が5.8K以下でゼロになる超伝導が発現することを発見した。

さらに、特に磁場下での電気伝導性の振る舞いを詳細に測定することにより、電気抵抗がチューブ軸と磁場の角度に大きく依存する異方的な振る舞いを示すことや、磁場がチューブ軸に平行な場合に、円筒を貫く磁場に電気抵抗が影響を受けること、電流電圧特性が磁場と電流が平行か反平行かで異なる振る舞いを示すことを明らかにした。これらの超伝導特性は単一ナノチューブに特有のものであり、前例のない特異な超伝導状態が実現されていることを示しているという。

同研究グループは今回の成果について、対称性が破れた低次元電子系における新奇超伝導という新たな学術分野を切り開く礎となるだけでなく、省エネルギーナノエレクトロニクスに新たな指針を与えることが期待されるとコメントしている。

多層二硫化タングステン(WS2)ナノチューブの透過型電子顕微写真とデバイスの模式図。試料は直径100nm程度の多層ナノチューブ。正のゲート電圧を印加することで、WS2ナノチューブの表面および層間に正イオンが集積し、試料中に電子が蓄積される(出所:東京大学Webサイト)

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