[ネオジム磁石発明への道] 佐川真人氏(8)


[日本経済新聞電子版2016年12月19日配信]
世界最強ネオジム磁石、旧住友特殊金属で実現・量産
仕事人秘録 大同特殊鋼顧問・佐川真人氏
サラリーマン時代に電気自動車(EV)や風力発電などの普及に貢献する最強の磁石「ネオジム磁石」を発明した佐川真人氏(73)の「仕事人秘録」。富士通を去る直前に開発していたネオジム磁石(前回「転職目前、ネオジム磁石誕生 ひとりぼっちの実験室で」)が、新たな職場で「世界最強」に進化します。
住友特殊金属(現・日立金属)に1982年5月入社。チームでネオジム磁石研究を始める。
入社して早速、岡田典重社長(当時)は有能な部下をつけてくれました。与えられた設備も時間外に1人で研究を続けていた富士通時代よりはるかに整っていました。まず着手したのは「ネオジム+鉄+ボロン」の比率と添加元素、つまり組成の検討です。練っていた組成50通りのリストと製造条件を部下に渡し、次々に試しました。
正解はそのリストの中にありました。実験を始めて約2カ月後、磁力が強い磁石ができます。その後も記録が伸び続け、サマリウム・コバルト磁石の世界最強記録(「なぜコバルトなのか 『鉄で最強磁石』生んだ疑問」参照)も軽々と超えました。その時に見つけた組成が「ネオジム15、鉄77、ボロン8」。今、ネオジム磁石と呼ばれているものです。
けれど欠点がありました。セ氏50度を超えると磁力が急低下するのです。これでは自動車などのモーターには使えません。社内の評価グループに「おもちゃにしか使えない」と言われ、またしても挫折か、と暗たんたる気持ちになりました。背水の陣を敷く思いで、10人いた研究メンバーにアイデアを持ち寄ってもらい、ブレインストーミングをしました。
4つの改良案を並行して進め、ネオジムの一部を重希土類(レアアース)のジスプロシウムで置き換える案がヒットした。
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ネオジム磁石について初めて学術発表をした時、聴衆500人以上から大喝采を浴びた(1983年10月、米ペンシルベニア州)
ネオジムをほんの少し、ジスプロシウムに置き換えると温度特性がぐっと良くなりました。セ氏200度でも磁力は落ちません。ジスプロシウムは中国の一地域に生産地が偏在していて、2010年に発生した尖閣諸島問題を巡り中国が輸出を停止して社会問題になったことを記憶している人も多いと思います。ネオジム磁石の主要元素であるが故に後々に外交カードに使われてしまうのですが、当時は正真正銘の世界最強磁石の誕生に皆で大喜びしました。
82年8月から特許出願もどんどん進めていました。富士通の管理職時代に取得した特許の知識(「最強磁石の研究、会社は認めず夜や土日に 38歳で退社」参照)がここで大いに役立ちます。岡田社長も有能なスタッフを何人もつけてくれ、会社を挙げて応援してくれました。出願した特許の隙を突いた権利侵害をされないように、想定できる組み合わせを全て考え、たくさんの特許を出願しました。
翌83年4月に論文を発表した後に知ったのですが、実はアメリカの研究チームが私たちの直後に「ネオジム+鉄+ボロン」の特許を出願していたのです。出願日の差はわずか2週間。作り方は違っていましたが、先に出願した意義は大きかった。岡田社長との出会いがなければ間違いなく後れを取っていたでしょう。
発明したら工業化しようと、非常に多くの人をつけてもらいました。開発はとんとん拍子に進んで、わずか3年後の85年には量産を始めます。日本人の研究者は目標が明確になると世界一優秀だと、しみじみ実感しました。
(安原和枝)
[日経産業新聞2016年12月19日付]
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