[ネオジム磁石発明への道] 佐川真人氏(9)


[日本経済新聞電子版2016年12月20日配信]
ネオジム磁石発明の手柄に葛藤 5年半で会社に別れ
仕事人秘録 大同特殊鋼顧問・佐川真人氏
サラリーマン時代に電気自動車(EV)や風力発電などの普及に貢献する最強の磁石「ネオジム磁石」を発明した佐川真人氏(73)の「仕事人秘録」。論文発表や特許出願、量産も順調に進みましたが、住友特殊金属(現・日立金属)を退社し、ベンチャー企業設立の道を選びます。
1982年に発明してから3年、85年には量産が始まった。(前回「世界最強ネオジム磁石、旧住友特殊金属で実現・量産」参照)
ネオジム磁石の生産量は85年は年間200トンでしたが86年は同400トン、87年は同800トンと生産量が増え、倍々ゲームのようでした。主な用途はコンピューターのハードディスク装置(HDD)などの電子機器です。特に重宝されたのがHDDの磁気ヘッドを動かす駆動装置(アクチュエーター)でした。
サマリウム・コバルト磁石(「なぜコバルトなのか 『鉄で最強磁石』生んだ疑問」参照)の2倍の磁力があるネオジム磁石の誕生でHDDの磁気記録の高速化が可能になりました。エアコン圧縮機のモーター向けにも使われています。HDDの大容量化、エアコンの小型化・省電力化はネオジム磁石が支えたと言われています。
ネオジム磁石の論文発表や特許出願ではトップネームを独占しないように気を配りました。複数の著者がいる論文では著者名の順番はとても重要な意味を持ちます。トップネームとは最初に書かれた名前を指し、その人が論文や特許の責任者になります。自分がトップネームになるとやる気が出ますから、責任を持って分担作業をしてくれた人たちの名前がトップになるよう配慮しました。
最初の論文だけはトップネームをとられないように戦々恐々。この時の葛藤が尾を引き会社を去ることになる。
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インターメタリックスを設立後、オフィスで磁石研究者の訪問を受ける(1989年5月、京都市)
トップネームを「とられる」と言うと物騒な印象を受けるかもしれませんが、実際にはよく聞きます。有名な話だと、ある磁石メーカーが発表したサマリウム・コバルト磁石の改良成果を書いた論文です。新入社員の発案だったのですが、最初に発表した論文のトップネームは上司の名前だった。それ以降、そのアイデアは上司が発案したものとして業界で扱われるようになったのです。住友特殊金属にも著名な磁石研究者がいましたから、私自身も「この人にとられたら……」と感じたことは少なくなかった。
結局とられることはなかったのですが、トップネームを巡って、関係のしこりは残りました。
社内の人間関係の葛藤の末、在籍5年半で住友特殊金属を去ることを決断します。当時は会長に退いていた岡田典重さんには驚かれましたが、温かい目で送り出してもらいました。岡田さんは「ネオジム磁石の発明がなければ会社はつぶれていた」(「転職目前、ネオジム磁石誕生 ひとりぼっちの実験室で」参照)と言い、私の退職後も20年以上にわたり研究を支援してくれました。住友特殊金属は2004年に日立金属に子会社化され、今は完全に吸収合併されました。経営には紆余曲折があったと思いますが、歴代社長は岡田さんの思いを引き継いで支援を続けてくれたのです。
1988年2月、住友特殊金属を辞めてインターメタリックス(京都市)というベンチャー企業を設立します。ネオジム磁石の発展をテーマに企業コンサルタントを主業務にしました。設立後15年間で地球を100周するくらい世界中を飛び回りました。
(安原和枝)
[日経産業新聞2016年12月20日付]
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