[ネオジム磁石発明への道] 佐川真人氏(11)


[日本経済新聞電子版2016年12月22日配信]
ネオジム磁石は「愚か故の発明」 非常識こそ出発点
仕事人秘録 大同特殊鋼顧問・佐川真人氏
サラリーマン時代に電気自動車(EV)や風力発電などの普及に貢献する最強の磁石「ネオジム磁石」を発明した佐川真人氏(73)の「仕事人秘録」。最終回は挫折から成功をつかんだ経験を踏まえ、若い研究者にエールを送ります。
世界を一変させた発明。出発点となった仮説の間違いが後に判明する。
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佐川さんの手をはさんで引き付け合うネオジム磁石(京都市西京区)
鉄を主成分とする最強磁石のひらめきとなったのは「磁石になるには鉄と鉄の原子間距離が近すぎる」という論理でした(「ネオジム磁石のヒント得る 『鉄の壁』克服へ実験」参照)。そこで、原子半径の小さな原子をレアアースと鉄の化合物に入れれば鉄の原子間距離が広がるだろうと仮説を立てて、「ネ オジム+鉄+ボロン」という組み合わせにたどり着きます。しかし、ネオジム磁石発明後に結晶構造を解明すると、原子間距離は広がっていませんでした。明らかにしたのは第13代大阪大総長の金森順次郎氏です。
ボロンと鉄の電子が化学反応を起こし、ボロン付きの鉄がコバルトとほぼ同じ状態に変わっていたのです。これが「鉄のコバルト化」という現象です。私も実験を始めて間もなく、原子間距離は広がっていないようだとは気づいていました。けれど、磁気特性が改良されていたのでやり続けたのです。
私が磁石研究を始めた70年代、磁石研究者は「最強磁石はコバルトが主成分であることが必須条件」という常識を信じて疑いませんでした。私はビギナーでしたので固定観念から離れやすかったのだと思います。従来の常識から離れた所で研究が始まることを私は「ニュークリエーション」と呼んでいます。そこを核として新分野の研究が発展するのです。
2012年、社会と学術に貢献した科学者を表彰する日本国際賞を受賞。ノーベル賞に期待がかかる。
小学生の時からの夢であるノーベル賞ですが(「『科学者になりノーベル賞とる』 小学1~2年で宣言」参照)、選ばれるかどうかは時の運です。受賞の有無にかかわらず、ネオジム磁石の発明は歴史に残りますから、研究者としては満足です。しかし、今も同窓会を年1回開いて激励してくれる高校時代の同級生や、多くの研究者仲間、家族らの期待に応えたいという思いは持ち続けています。
私の好きな言葉に米アップル創業者のスティーブ・ジョブズ氏の「Stay hungry,Stay foolish(貪欲であれ、愚かであれ)」があります。誰もやらなかった非常識な研究でネオジム磁石は誕生しました。しかも立てた仮説は間違っていた。愚かであるが故に歴史的な発明にたどりついたのです。
私は決して天才肌の研究者ではありません。ただコツコツとやり続けました。原動力は悔しさです。東北大院で材料科学者の夢に挫折し(「材料科学者めざし大学院へ 博士修了も『第一の挫折』」参照)、富士通に入社。学会で東北大院時代の知り合いに会っても相手にされなかった。その悔しさがネオジム磁石の発明に導いてくれたのだと思います。
若い研究者の方には会社が認めた公式テーマと、自分が情熱を持てる非公式テーマの研究を同時に進行させることをお勧めします。テーマは社会の潜在ニーズに基づいて選びます。ギャンブルで一山を当てにいく気持ちで、ぜひ次の「ニュークリエーション」を生み出してほしいです。
(安原和枝)
=この項おわり
[日経産業新聞2016年12月22日付]
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