「振動発電」一円玉大で1mW 無線IoTへの応用視野


[日本経済新聞電子版2017年2月28日配信]

一円玉ほどの大きさで、身近にある振動から、従来よりも1桁大きな1mWの電力を発生する。このような振動発電デバイスを、空調・冷熱分野の制御機器などを手掛ける鷺宮製作所、東京大学、静岡大学が共同開発した(図1)。

図1 開発した一円玉大(20mm角)の振動発電デバイス

内蔵する0.4gの重りに周波数500Hz、加速度0.996Grms(rmsは実効値)の振動を加え、1.01mWrmsを発電することを確認した(図2)。2018年の実地試験、2020年の量産化を目標にする。

図2 1G弱の振動から1mW強を発電。開発した振動発電デバイスの発電特性と構造の模式図。発電特性は、周波数500Hzの振動を、加速度を変えて測定した(図:鷺宮製作所など)

さらに発電能力を高めた次世代技術の開発も進めており、2020年に同一寸法で10mWを実現させ、2020年代の実用化を目指す。

■無線信号を30m飛ばせる

開発した振動発電デバイスはエレクトレットを使う。エレクトレットとは、永久磁石が磁場を帯びているのと同様に、永久分極により電場を帯びた材料である。永久磁石を動かし電磁誘導で発電するように、エレクトレットを動かし静電誘導の原理で発電機を構成できる。

今回、重りを含む数ミリ大の構造体で回路を作った。2つのくし歯形構造体を対向させ、振動で動くことにより生じるクーロン力の変化で各構造体内部の電子が移動(電流が発生)するようにしている。

同様の原理による開発成果は過去にあったが、得られる電力が数十μWにとどまっていた。大きな潜在需要があるとみられる無線IoT(モノのインターネット化)端末の電池を代替するには、多くの用途で十分ではない。

1mW級にできれば、工場内のモーターなどの回転機器による振動、道路高架の振動などをエネルギー源にした電池レスのIoT端末への応用が視野に入る。1mWあれば数百MHz帯を搬送波に使うサブGHzなどの無線通信で電波を30m飛ばせる計算だ(図3)。

図3 10mW級が視野に。エレクトレットによる振動発電技術の進化を示した。従来技術では、既存の研究発表成果を対数グラフ上に直線で外挿している。今回の技術は同じ傾きで10倍、次世代技術は同じ傾きでさらに10倍の発電能力になるようにシフトさせた。今回の技術で2020年の開発目標としていた能力を既に達成した。研究を統括している年吉洋氏(東京大学 生産技術研究所 教授)は、イオン液体による次世代技術で2020年に10mW以上の実現も十分可能とみている(図:東京大学など)

振動発電には、圧電材料を使う方式、電磁誘導を使う方式、これらを併用した方式がある。これらは、やはり発電能力が十分ではないか、身近にはないような強い振動を与えなければ発電しないなどの課題がある。

■カリウムイオンで分極を高密度に

今回、静電誘導での発電効率を高めるため大きく2つの技術を導入した。

1つは、エレクトレット表面の電荷密度を高める技術。採用したのは、K+(カリウムイオン)を使う手法である。KOH(水酸化カリウム)を数百℃でガス化してくし歯形構造体を形成後のウエハーに触れさせ、構造体には数百Vの電圧をかけて分極を生じさせる。冷却させると、高い密度の分極が保持される。

もう1つは、構造体と隙間をそれぞれできるだけ小さくする技術。MEMS(微小電子機械システム)を使い、面積当たりのくし歯形構造を多数にするとともに、構造体の動きに伴うクーロン力の変化が大きくなるようにしている。試作デバイスの1つは、1283対の櫛歯形構造体を数μmのギャップで形成した。

実使用環境でより多くの発電が可能なように、幅広い周波数の振動を電力に変換するための工夫もしている。

MEMSによる構造体には、一般には固有の共振周波数があるため、共振周波数以外の周波数の振動からは大きな電力が得られない。従って実使用時の発電量は大きくならないことがある。そこでQ値を低くして効率特性が周波数に依存しにくい系を形成した。具体的には、エレクトレットの電荷を製造段階で構造体に蓄積する工程において、印加電圧を高めることによってQ値を大幅に低下させられることを確認した。

エレクトレット材料には熱に弱いというイメージが定着しているが、今回の材料は静電力が1dB低下するまでの期間が65℃で8年、室温で400年以上という加速試験の結果が得られている。

■10mW級はイオン液体で

さらに10mW級の発電を可能とする研究も進めている。今回のエレクトレットによる永久分極を利用し、イオン液体による電気二重層を形成する。イオン液体とは、陰イオン(アニオン)と陽イオン(カチオン)から成る塩の一種で、常温で液体として存在する。

イオン液体による電気二重層によって電極のギャップよりもはるかに短い距離で電荷が向かい合うようにでき、電極の移動で得られる電力を高めやすくなる。

(日経エレクトロニクス 三宅常之)[日経エレクトロニクス2017年2月号の記事を再構成]

Category: その他, 技術, 開発. Bookmark the permalink.