海底地殻が陸上と逆変動…解明進む「粘弾性緩和」現象


[日刊工業新聞電子版2017年5月03日配信]

防災・減災対策に貢献も

政府の地震調査委員会(平田直委員長=東京大学地震研究所教授)は3月の会見で、海底の地殻が陸上とは逆の方向に動いた様子を海上保安庁が詳細に観測したと紹介した。その原因の正体は「粘弾性緩和」と呼ばれる現象。こうした知見を基に地震のメカニズムに対する理解が進めば、防災や減災に役立つ可能性がある。(福沢尚季)

【科学的な驚き】

地球表層部の「地殻」よりも深い場所にあるマントルには、水あめのように非常にゆっくりと流動する性質(粘弾性)がある。2011年3月の東日本大震災で発生した大きな変動が、震源周辺のマントル内での流動を引き起こしたことが粘弾性緩和現象の原因とされる。

東日本大震災の発生後、陸と海のプレートの境界のうち、上の部分は東に、下の部分は西に動いた。地震調査委の平田委員長は、「プレートの底にあるマントルに力が加わり、地震時の動きを後から追いかけるように働くのが粘弾性緩和であり、非常に長い時間をかけて進む現象だ」と解説。さらに「地震時は海底も地上と同じく東に動いたが、しばらくしてから逆の西向きに動いた。科学的に驚いた」と振り返る。

【年間10cm動く】

海上保安庁による海底地殻変動観測によると、宮城県沖周辺の海底で、おおむね西向きに最大で年間10センチメートルの地殻変動が継続していることが分かった。

陸上の地殻変動観測には、米国の全地球測位システム(GPS)などを応用する。だが、GPS衛星の電波が届かない海底の観測には使えない。そこで海上保安庁などは、GPSで測量船の位置を決めた上で、海底に設置している装置「トランスポンダー」(電波中継器)を使っている。

トランスポンダーは船からの音波を受け取ると、そのまま船に返信する。それによって、トランスポンダーと測量船の間の距離を音波で測定する。

観測点は大学のものも含めると、日本全体で約60点ある。そのうち24点を海上保安庁が所有している。

こういった観測手法は米国の研究機関のアイデアが発端だった。日本では2000年に観測が始まったが、「二つの観測を同時に行うのは技術的なハードルが高い」(海上保安庁海洋情報部技術・国際課の石川直史火山調査官)ことから、本格的に観測しているのは日本だけになった。

【リアルタイム観測】

一方、国土地理院が行う陸上の地殻観測は、リアルタイム観測だ。さらに、位置精度が数ミリメートル程度と高い。これに対し、海では観測の度に測量船が出航する必要がある。また精度は2センチ~3センチメートル程度と、陸上の観測に比べて低いのが課題だ。

そこで期待されているのが、準天頂衛星「みちびき」だ。みちびきは米国に頼らない日本版のGPSを構築すべく、既に初号機が打ち上げられた。2号機を6月1日に打ち上げ、23年度には7機体制が整う。

みちびきを使う日本版GPSは位置の精度が数センチメートル程度と、GPSの約10メートル、欧州の「ガリレオ」の約1メートルよりも高い。海上保安庁の石川直史火山調査官は、「海上測位について、リアルタイム観測に向けた研究は大学が中心に行っている。そういった観測にみちびきが使える可能性がある」と期待する。

粘弾性緩和について平田委員長は「防災上どういった重要性があるかは今後の課題だ」とする。また、海上保安庁の石川火山調査官は「粘弾性緩和によって、今まで地震が起きなかった場所で地震が起こったり、その逆の現象が起こったりする可能性がある。我々の観測結果をきっかけに研究が進み、防災に役立てられれば」と力を込める。今後も観測を積み重ねることによる、新たな知見の獲得が期待されている。

≪震源付近、今も地殻変動−東日本大震災後「逆向き」観測≫

東日本大震災の発生後、震源付近では大規模な地殻変動が継続して観測されている。その要因として、粘弾性緩和が重要な役割を果たしていることは14年に明らかになった。突き止めたのは、東北大学災害科学国際研究所の日野亮太教授と同大大学院理学研究科の三浦哲教授らだ。

東日本大震災が発生した11年3月に東南東方向へ31メートルの水平変動を観測した地点で、同年8、10月、12年7月にも地殻変動観測を実施。その結果、地震後は逆向きの西北西へ移動していることが分かった。

一方、地震後の地殻変動による陸上の動きは、地震時と同じ東南東方向だった。

そのほか数値シミュレーションを使った研究なども実施。その結果、東日本大震災の発生直後から、粘弾性緩和が地殻変動の大きな要因となっていることを示した。

Category: その他. Bookmark the permalink.