夢の室温超電導の予兆か 世界で新物質相次ぐ

[日本経済新聞電子版2016年12月12日配信]
電気が抵抗なく流れ続ける超電導の研究で最近、新しい物質が相次いで見つかっている。かなり低温にしないと超電導にならないため、すぐに応用できるわけではないが、材料研究者は、大きなブレークスルーが起きそうな気配を感じている。冷却しなくても電気抵抗がゼロになる「室温超電導」の予兆かもしれない。
■「特殊状況下で冷やさなくても超電導現象」の発表も
超電導の新物質探索に挑む(茨城県つくば市の産業技術総合研究所)
「超高圧下で合成した高層ビルのように積み重ねたプラチナ層がセ氏零下270.4度で超電導になった」(北海道大学、物質・材料研究機構、九州工業大学、2016年7月29日)
「炭化ケイ素基板上のシート状の炭素分子、グラフェンが零下269度で超電導に」(東北大学と東京大学、2016年2月4日)
「鉄とセレンの高品質超薄膜をカリウムで覆い、零下223度前後で超電導化に成功」(東北大、2015年5月27日)
大学など材料研究の成果発表でこのところ新しい超電導物質を発見した話題が目立つ。2011年から新規超電導物質の探索を開始した産業技術総合研究所の永崎洋首席研究員は「停滞していた新物質探索が活気づいてきた。これまで見逃していた物質に新発見の芽が潜んでいるかもしれないと期待が膨らんでいる」と解説する。
ドイツのマックスプランク協会が2015年に発表した硫化水素で超電導を確認した報告は、世界の材料研究者の関心を呼んだ。「水素を金属状態にすると超電導になる」という理論的な予測があり、水素の代わりに硫化水素を150万気圧以上の超高圧装置の中に閉じ込めて金属状態にすることで実現を目指した。この実験では、超電導になる温度は零下70度と予想以上に高い結果が出たことが、特に注目された。
大阪大学の清水克哉教授はマックスプランク協会のグループなどと協力し、日本の放射光施設「SPring-8」を使って高圧下の硫化水素の結晶構造を詳しく調べた。水素2個の硫化水素が水素3個の硫化水素に変化し、超電導を起こす層を生み出していた。
レーザーを照射して冷却なしで超電導になったといわれる物質の原子モデル=独マックスプランク協会提供
試料の大きさが約30マイクロ(マイクロは100万分の1)メートルと小さく、超高圧下から出すと超電導状態は壊れてしまう。すぐに工業応用はできない。しかし清水教授は「重要なマイルストーンといえる。通常の圧力でも室温超電導になる物質の発見や合成につながっていく研究だ」ととらえている。
マックスプランク協会の別のグループは2014年、冷却しなくても超電導になる現象を観察したと発表した。極低温で超電導になるイットリウム・バリウム・銅の酸化物の単結晶に、強力なレーザーを照射して0.2ピコ(ピコは1兆分の1)秒という極めて短時間での出来事だ。
特殊な装置を用いた観察で他の研究機関で再現できないため、この報告の真偽はまだ定まっていない。しかしレーザーを照射したり高圧下で合成したりと、これまでになかった研究手法の導入で、多くの研究者が「室温超電導にたどり着く手掛かりが得られるのではないか」と感じているようだ。
■「室温」実現すればノーベル賞級の成果
産総研もこの2~3年で数種類の新しい超電導物質を合成した。昨年発見したストロンチウムやナトリウム、ビスマスからできた結晶は零下264度で超電導になった。伊予彰上級主任研究員は「過去の実験結果や物性理論の専門家の意見をもとに4~6種類の元素を選んで作る。経験を重ね、100回試せば1個は超電導の新物質が出てくるようになった」と話す。
超電導研究の主なできごと
1911年 オランダの物理学者、K.オネスが水銀を冷やし超電導を発見
1957年 超電導の仕組みを説明する「BCS」理論が提唱される
1986年 IBMチューリヒ研究所が、酸化物の超電導体を発見
2001年 青山学院大学で、ホウ化マグネシウムの超電導体発見
2008年 東京工業大学で、鉄系超電導体発見
様々な種類の超電導物質を分析し、共通する特徴のなかに、室温超電導に向けたヒントが隠されているのではないか。世界で新物質探索の動きが活発になっている理由だ。
1911年に水銀を極低温に冷やして超電導になる現象が発見されてから100年以上が過ぎ、超電導研究は最も加工しやすい金属系の超電導物質を軸に理論と実験、産業応用の3つの柱が連動し発展を遂げてきた。最先端の高速コンピューターや高精度な医療診断装置などに組み込まれ、リニア新幹線での実用化も間近に迫る。
金属以外の物質では酸化物による高温超電導体の発見(1986年)や鉄系超電導体の発見(2008年)などが大きな話題となった。しかし、産業応用はもう少し先になりそうだ。酸化物や鉄系の超電導になる仕組みはよく分からず、理論面の研究の進展も欠かせない。
最近の新物質の発見は、鉄系に続く新たな鉱脈探索の成果が出始めた結果といえる。この先に室温超電導につながる道があるかもしれない。実現すれば、社会に及ぼす影響は計り知れない。超電導研究が長い東北大学の小池洋二教授は「新物質を探索する研究者が増えている。突如、どこかの研究機関で発見、という日は近いかもしれない」と強調する。
物質探索の研究は冒険的な要素も大きい。室温超電導ともなればノーベル賞も夢ではないだろう。過去の発見史から見ると、予期しない研究者がなし遂げる可能性も高い。小池教授は、中国や欧州の研究の動向を気にしながら「日本では研究費が減少し、物質探索の研究が難しくなっている。支援が必要だ」と訴えている。
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セルラー通信が起こす革新 – スマートメーターが真にスマートになるとき

[マイナビニュース2016年12月22日配信]
<1> 広がるスマートメーターの活用
スマートメーターは、エネルギーの消費抑制とコスト削減を実現するために世界的に欠かせないツールとなってきています。国内外での傾向として、行政、エネルギー事業者、システムインテグレーター、デザインハウス、OEMメーカーなど複数のステークホルダーが、住宅地や商業・工業地域で電気・ガス・水道といった公共事業にこの新しいテレメトリシステムを展開しています。
このような変化は電力業界から始まりました。従来の検針員による赤外線通信などによる自動検針(Automated Meter Reading:AMR)から、いわゆるスマート検針(Advanced Metering Infrastructure:AMI)への転換が急速に進んでおり、これにより、時間帯によって変動する料金プランの提供などが可能になりました。現在、そうしたスマートメーターの応用範囲は、ガス・水道のメーターや自動配電、さらには電子制御サーモスタット(PCT)などのホームエリア・ネットワーク(HAN)上の機器の遠隔監視など、テレメトリの分野にまで広がっています。
スマートメーターの仕組み。検針員が個別に家々を訪問しなくても、通信により、利用状況のデータを事業者に送信することを可能とする
通信技術の進化と相まって、自動請求やエンドユーザーの使用状況データの生成、そしてメーター機器の改ざんによる不正使用の排除と収益の確保など、消費者と事業者の双方にメリットがもたらされています。また、この技術革新により、業界に新たな可能性がもたらされ、メーター市場のバリューチェーン全体が急速に変わりつつあります。
スマートメーターの導入がもたらすメリットの例
現在、スマートメーターは、電気事業者が停電対策やグリッド電圧の最適化を実装するために使用されたり、水道事業者が水道網の漏水対策を強化するために活用したり、ガス事業者が新しい供給方式を導入する際に使われたりしています。これらの改善は、エネルギー配分の全体的な改善、資源の無駄の削減、高精度なネットワーク配電の制御につながります。つまり、事業者の運用コストが削減され、消費者に還元されるということにつながります。ABIリサーチによると、2020年までに世界中で導入されるスマートメーターの数は、電気メーターが7億8000万台、ガスメーターが1億5000万台、水道メーターが9000万台に達する見込みです。これは大きな市場機会となりますが、実際に実装する際には、各国のエネルギー規制当局による指示に則り、どの通信技術を選択するか、熟考が必要となります。
スマートメーターを実現するためには、なんらかの通信モジュールを搭載する必要がある
 
<2> スマートメーターをワイヤレスで接続する際に必要な前提知識
セルラーによる通信 – 継続的な革新がスマートメーターを産業向けIoTに変える
これまでメーターシステムには、電力線通信(PLC)や各社独自の通信規格、ライセンスの不要なRF帯を使用する無線技術が使用されてきましたが、近年、新しく批准されたセルラー規格が世界的に注目を集めつつあります。
これは各政府がオープンな仕様に基づく技術の使用を義務付けた結果です。事業者も既存のセルラー網を活用することで、大規模に展開する際の総所有コスト(TCO)を削減したいと考えるようになってきています。実際に、独自ネットワークの設計と展開に新たな投資を行わないことで、設備投資(CAPEX)と運用費(OPEX)を削減することができます。これにより、事業者は、プライベート・ネットワークを独自に設計・設置し、その運用や保守にリソースを割く必要がなくなり、中核事業に集中することができます。
オープンなセルラー規格は、特に複数のサービスを提供する事業者に対し、相互運用性、カバレッジエリア、データ通信量、その他の分野で付加価値をもたらします。たとえば、AMIのプラットフォームは、電気・ガス・水道といった複数のメーターシステムを運用する事業者によって利活用されます。また、ゴミの回収、スマートパーキング、都市の環境監視など、自治体で採用されている自動遠隔監視システムとスマートメーターを複数組み合わせる場合にも、同じことが言えます。
このような事案では、独自の無線技術を選択することは、エンジニアに困難を課すことになります。一方で、セルラー通信を採用する場合は、その規格がオープンな仕様に基づくため、スマートメーター機器各種や複数のOEMメーカー間で相互運用性が担保されるという本質的なメリットがあります。したがって、セルラー技術は、ネットワーク設計における複雑な手間の軽減につながり、無線信号の衝突や干渉の回避によるサービス品質を確保するのに有効です。
スマートメーターを設計する上でもう1つ重要なのはセキュリティです。事業者が独自の複雑なネットワークを長期にわたって運用しなくてはならない点を考慮すると、日々進化・多様化していくサイバー攻撃に対応できる、柔軟なセキュリティ対策が求められます。
「どんなシステムも完全に安全だなんて信じない」。1983年のSF映画「ウォー・ゲーム(WarGames)」で主人公が述べたセリフです。これはもはや、SF小説や映画の中だけの話ではありません。今後何百万台ものスマートメーターが導入されて、運用開始から10年、15年以上が経った時、スマートメーターがハッキングされるという最悪の状況を想像することは難しくありません。故障やスマートメーターのファームウェアに対する悪意のある攻撃は、何百万台もの機器を同時にダウンさせ、広範囲にわたって、全国の供給網に大規模な被害を引き起こす可能性があります。
したがって、AMIでは長期にわたってセキュリティを保証する必要があり、そのために、スマートメーター機器ではファームウェア(スマートメーターを制御する組み込みソフトウェア)の無線アップデート(Over-the-air:OTA)ができる事が必須です。ファームウェアが壊れた場合や、安全でなくなった場合は、新しいファームウェアをワイヤレス接続で送信できる必要があります。ワイヤレス接続により、エンジニアを現場に派遣する必要はなくなります。
真のスマートメーターを実現するためにはセキュリティを担保する必要がある
エンジニアの派遣はメンテナンスコストの増大につながるだけでなく、セキュリティ侵害が起こり、数百万台のメーターのアップデートが必要な場合は対応が追い付かず、現実的ではありません。
低帯域幅を利用する省電力無線ネットワークのほとんどは、1日に数百バイトの情報をそれぞれの機器に送信できる程度のダウンリンクレートしか持ち合わせていないので、OTAによるファームウェア・アップグレードは困難です。
<3> 進化し続けるIoT向けセルラー通信規格
一方、もともと携帯電話用に開発され、現在ではセルラーによるM2M技術でもサポートされている、無線ファームウェア・アップグレード(FOTA:Firmware On-the-air)機能を使えば、キャリア・ネットワークを介して効率的にモジュールのファームウェアを更新することができます。
これらのメリットにより、セルラー技術は大規模な展開が進んでおり、メーター・システムにおいては、エンドツーエンドのネットワークを提供しています。住宅および商業ネットワークの大部分では2G汎用パケット無線サービス(GPRS)ソリューションを使用して展開されており、産業用スマートメーターは主に3G技術に基づいています。
事業者が近距離無線プロトコル(ワイヤレスM.Bus 169MHzや自社技術の低消費電力広域無線技術など)をベースとしたポイント・ツー・マルチポイント・ソリューションを導入した場合でも、ローカルのHANにあるデータ収集機から、事業者のデータ管理システムへ接続する際には、セルラー通信が使用されます。
また、セルラー通信は、スマートメーター・ゲートウェイと呼ばれるスマートメーターの通信ハブにも採用されています。これは、AMIの形態の1つで、住宅や商業ビル、マンションの電気メーターまたは独立したゲートウェイ機器と、事業者のバックホールMDMにセルラー通信を介して接続することができ、多くの欧州諸国や日本で展開または計画されている技術です。ゲートウェイ機器は、ISMワイヤレスRF(欧州のW.Mbus 868、日本のWi-Sun 920Mhz、およびZigbee)経由で、家庭内の他のメーターやシステムとの接続に使用されます。
コスト効率が高く、データの転送速度も十分なため、世界中のスマートメーターには2Gおよび3G接続が一般的に使用されてきました。しかし、将来の展開を見据え、事業者のエコシステムはすでに4G LTE接続に移行中です。この移行は2つの要因によるものです。第一の要因は、LTE技術によって提供される製品およびインフラストラクチャの運用期間の長期化です。第二の要因は、AMI向けに帯域幅、遅延および消費電力性能が最適化された、Cat 1、Cat M1、NB-IoTといった新しいLTEの仕様の登場です。
まとめ
実証済みのセルラー通信用モジュールがあれば、製品化までの期間を短縮し、メーター市場における革新的なソリューションを生み出すことが可能になります。LTE Cat 1、Cat M1、NB-IoTは、今後さらにエキサイティングな展開を遂げるでしょう。スマートメーターも同時に進化し、複数の新しいカテゴリのスマートIoTセンサ間で効率的なワイヤレス接続ができるようになるでしょう。これにより事業者は、従来のインフラコストやタイムラインと比較し、より低コストで、より早いペースで新しいビジネスモデルの実証実験ができるようになります。
u-bloxでも、ガス・水道およびスタンドアロン型の電気メーター機器に使用する2G対応モジュールや3G対応モジュール、スマートゲートウェイシステム向けのCat 1/Cat M1対応モジュールといった、スマートメーター・システムをグローバルに実現するセルラー・モジュールの提供を進めてきました。こうしたモジュールは、過酷な温度/湿度/振動のある環境下での動作など、産業用途で必要とされる堅牢性を満たすATEX認定セルラー製品やISO16785に基づいた製造なども提供するなど、高い品質と信頼性の実現に取り組んできたほか、NB-IoTといった先端技術への対応も進めることで、スマートメーターのネットワークやグリッドの設計・運用・保守の簡素化、ならびにスマートメーター導入のTCO削減などへの貢献を目指しています。
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メタンハイドレート開発、政府が民間参入後押し タスクフォース設立へ

[日刊工業新聞電子版2017年1月12日配信]
日本は13年に愛知県と三重県沖合の海底で、世界初となるメタンハイドレートからのガス産出に成功した(石油天然ガス・金属鉱物資源機構提供)
政府がメタンハイドレート開発の民間参入を促進する新たなタスクフォース(特別作業班)の設立に向けて動き出す。造船所や舶用機器、海運などの海事産業が国家プロジェクトに参画する機会を増やし、雇用の裾野を広げる。現状は、坑内機器やライザー(海底から浮体設備までのパイプ)、出砂対策装置などの主要機器を海外企業に頼っている。情報交換や共同技術検討などを通し、官民一体で国産技術の確立を目指す方針だ。
造船大手のジャパンマリンユナイテッド(JMU、東京都港区)などがタスクフォースの設立を要請していた。海洋政策の重要事項を審議する政府の総合海洋政策本部に設置された産学官の有識者会議で設立を検討する。
メタンハイドレートは、水分子がメタン分子に取り込まれた氷状の物質で、将来の国産エネルギー資源として期待される。研究段階ながら日本周辺海域に大量に存在することが明らかになっており、海洋基本計画では「平成30年(2018年)代後半に民間企業が主導する商業化のためのプロジェクトの開始」を掲げている。
JMUの案では、海洋政策本部に経済産業省や国土交通省、文部科学省が関与する「ナショナルPJT活用・海洋産業振興チーム」を新設。その下に造船所などが参画する新タスクフォースを置き、産業化までのロードマップ策定に関与できるようにする。
海洋資源開発はプロジェクトリスクが大きく、技術実績の乏しい日系メーカーには参入障壁が高い。
14年には、砂層型メタンハイドレート開発の海洋産出試験に参画することを目指し、石油・天然ガス開発企業、エンジニアリング企業などが参画する日本メタンハイドレート調査(東京都千代田区)が設立されたが、造船会社は含まれていない。
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[NASA] 木星トロヤ群と金属の小惑星に探査機打ち上げへ(その1)

[マイナビニュース2017年1月06日配信]
1 どこからやってきた? 木星トロヤ群小惑星の謎の解明を目指す「ルーシー」
鳥嶋真也
米国航空宇宙局(NASA)は1月5日(日本時間)、月・惑星探査計画「ディスカヴァリー計画」において、次に実施するミッションとして、木星トロヤ群小惑星を探査する「ルーシー」と、小惑星帯にある鉄やニッケルでできたM型小惑星「プシューケー」を探査する「サイキ」の2つを選定した、と発表した。
ルーシーは2021年10月に打ち上げ予定で、2027年に木星トロヤ群に到着。約6年かけて6つの小惑星に接近して探査する。一方のサイキは2023年10月に打ち上げ予定で、2030年にプシューケーに到着。周回軌道に入って探査を行う。
木星トロヤ群小惑星も、M型小惑星も、これまで地上や宇宙から望遠鏡で観測されたことしかなく、探査機が訪れて探査をするのは初めてとなる。この人類未踏の地に挑むのはどんな探査機なのか、またこれらの天体を探査する意義は何なのかについて見ていきたい。
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ディスカヴァリー計画
ディスカヴァリー計画はNASAの宇宙科学プログラムのひとつで、定期的にNASA内部や大学などから提案を集め、そのなかから優れたものを選び、実際に開発、打ち上げ、運用を実施する。計画は1992年に始まり、世界初の小惑星探査をなしとげた「ニア・シューメイカー」や、火星探査ローヴァーの「マーズ・パスファインダー」、彗星のかけらを持ち帰った「スターダスト」、彗星に弾丸を撃ち込んで探査した「ディープ・インパクト」など、これまで12機が同計画のなかで実施されている。
ディスカヴァリー計画のコンセプトは、1992年当時のNASA長官ゴールディン氏の掲げた「faster, better,cheaper (より早く、より良く、より安く)」という方針が根底にある。
当時、惑星探査機は大規模のものが多く、大きな成果が期待できる一方で、開発が長引き打ち上げ数や機会が少なくなったり、最新の機器が搭載できなかったり、参加できる科学者が限られていたりといった弊害も抱えていた。
そこで小規模な探査計画を数年おきに連続して立ち上げ、その時その時の科学者の要求に応じて、さまざまな天体へ続々と探査機を送り込み、常に最新の成果を得られるようにし、なおかつ小規模なのでコストも安価に済む、という考えからディスカヴァリー計画が立ち上げられた。もっとも、小規模でコストが安いとは言っても、1ミッションあたりの予算は400~500億円ほどで、今回は4億5000ドルとされる。他国、とくに日本からすれば十分潤沢な額である。さらにNASAにはディスカヴァリー計画よりも予算規模の大きなプログラムもある。
今回のディスカヴァリー計画の選定にあたっては、まず20を超える提案があり、そのなかからルーシーとサイキのほか、赤外線望遠鏡を使って地球に衝突する可能性のある小惑星を見つける「NEOCam」、金星を周回しながら地表を詳細に観測する「ヴェリタス」(VERITAS)、金星の大気に突入し、降下しながら大気を観測する「ダヴィンチ」(DAVINCI)の5つが候補に残り、そして今回、最終的にルーシーとサイキが選ばれた。
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人類未踏の世界、木星トロヤ群小惑星
ルーシーが目指すのは木星のトロヤ群というところにある複数の小惑星である。トロヤ群は木星の公転軌道上の”前”と”後ろ”、違う言い方をすれば太陽と木星と正三角形をなす2つの場所のこと。より専門的な言葉でいうと、太陽・木星系のラグランジュ点のL4とL5を指す。
ここは太陽の重力と木星の重力、そして物体にかかる遠心力の3つの力が釣り合うため、小惑星などが安定して存在し続けることができる。実際、木星のトロヤ群にはこれまでに発見されているだけでも、実に6000個を超える小惑星があることがわかっている。
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しかし、この木星トロヤ群小惑星がどうやってできたのかは、まだ謎につつまれている。今から約46億年前に太陽系ができた際、木星やその衛星になりきれなかった残骸がその正体だとかつては考えられていた。ところが2005年に、エッジワース・カイパーベルト天体(EKBO)という、木星より、さらに海王星よりも外側にある天体がやってきて、現在の木星トロヤ群小惑星の位置に収まった、という説が唱えられ始めた。
一方、火星と木星とのあいだの小惑星帯(メインベルト)にある小惑星は、木星の重力の影響で惑星になれなかった残骸と考えられている。そこで小惑星帯の小惑星と、木星トロヤ群にある小惑星とを比べることで、木星トロヤ群小惑星が本当にEKBOからやってきたものなのかどうか、そして太陽系ができたころの姿はどのようなものだったのかを知ることができると考えられている(詳細は『この宇宙に帆を広げて – JAXAの「宇宙帆船」が赴くは木星トロヤ群小惑星 (1) 「木星トロヤ群小惑星」の素顔を明らかにするミッション』をご参照ください)。
ルーシーが解き明かす太陽系の起源
これまで木星トロヤ群は、地上や宇宙から望遠鏡で観測されたことしかなく、ただの1機も探査機が訪れたことはない。その未踏の世界に、ルーシーが初めて訪れる。
ルーシーはNASAと米国の研究機関サウスウエスト研究所(SwRI)が主導するミッションで、その名前は1974年に発見された、約318万年前に生きていたとされる1人のアウストラロピテクスの化石「ルーシー」にちなんでいる。今ではルーシーよりもさらに古い時代に生きていた人の化石が発見されているが、人類の進化の歴史を紐解くにあたって大きな手がかりとなった。探査機のルーシーも同じように、太陽系の誕生の歴史を解明するための手がかりをつかむことを目指している。
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打ち上げは2021年10月の予定で、まず2025年4月に火星と木星のあいだの小惑星帯にある小惑星「ドナルドジョハンソン」を探査する。小惑星帯は本来の目的地ではないものの、木星圏までの航路の途中でちょうど通過するため、観測しない手はないといったところだろうか。この天体は直径3.9kmで、表面の岩石の中に有機物などを多く含むと考えられている「C型小惑星」と推定されている。
ちなみにドナルドジョハンソンという名前は、化石人類のルーシーの発見者であるドナルド・ジョハンソン氏にちなんでいる。よくできた話だが、もちろんこれは仕組まれたもので、2015年に、当時まだ愛称のなかった「1981 EQ5」という小惑星をルーシーがちょうど通過し観測できることがわかり、それならばと、後付けでドナルドジョハンソンと名付けたのである。
ドナルドジョハンソンを通過後、さらに航行を続け、2027年8月に木星圏に到達する。そしてまず、木星前方のトロヤ群(L4)にある小惑星「エウリュバテース」を探査する。エウリュバテースは直径64kmのC型小惑星と推定されている。
続いて同年9月には「1999 WB2」を探査する。この星は直径21kmで、有機物を含む、ただしC型よりもさらに原始的な「P型小惑星」と考えられている。
2028年4月には「レウコス」を通過。レウコスは直径34kmで、P型小惑星のように、有機物を含むもC型よりもさらに原始的で、またトロヤ群小惑星の大部分を占めると考えられている「D型小惑星」とみられている。さらに同年11月には「オルス」を探査する。オルスは直径51kmのD型小惑星と考えられて いる。
そして、ミッションの締めくくりとして、2033年3月には木星後方のトロヤ群(L5)にある「パトロクロス」を訪れる。パトロクロスは直径113kmのP型小惑星で、また直径104kmのP型小惑星「メノイティオス」と共に公転している、二重小惑星であると考えられている。
打ち上げからミッション終了まで約12年、木星トロヤ群の探査だけでも約6年という長期のミッションになる。
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これらはすべてフライバイ観測と呼ばれる、観測対象の天体のそばを通過する瞬間を狙って、その天体にカメラやセンサを向ける、というやり方で観測する。多くの惑星探査機のように周回軌道に乗ってじっくり観測するようなことはできないが、そのぶん必要なエネルギーが少なく済むため探査機を小規模にでき、また複数の天体を観測できるという利点もある。
ルーシーの機体や観測機器は、2015年に冥王星を探査し現在は別の天体に向けて航行中の探査機「ニュー・ホライズンズ」や、現在小惑星「ベンヌ」に向けて航行中の探査機「OSIRIS-REx」の技術を活用して造られる。たとえばカメラはニュー・ホライズンズに搭載されているものを改良したもの、熱放射分光計はOSIRIS-RExに搭載されているものと同型のものを搭載し、開発・運用メンバーも参加するという。
最も異なるのは電源で、ニュー・ホライズンズはプルトニウム238が崩壊するときに出る熱を利用して発電する放射性同位体熱電気転換器(RTG)を搭載しているが、ルーシーは巨大な円形の太陽電池をもつ。ニュー・ホライズンズが訪れた冥王星は太陽の光がとても弱いためRTGを使わざるを得なかったが、木星では冥王星ほど太陽光が弱くはなく、しかしそれでも探査機を動かすためには巨大な太陽電池が必要、という事情がある。
ルーシーの主任研究員を務めるHarold F. Levison氏は「ルーシーによる木星トロヤ群小惑星の探査はとてもユニークな機会です。トロヤ群小惑星は、太陽系のなかの外惑星をつくった原料の残りであり、また太陽系の歴史を解き明かす重要な鍵を握っていると考えられています。人類の祖先の化石であるルーシーのように、探査機ルーシーも太陽系の起源の理解において、革命をもたらしてくれるでしょう」と語る。
そしてNASAはルーシーと同時に、小惑星帯にある鉄やニッケルでできたM型小惑星「プシューケー」を探査する「サイキ」も選定した。M型小惑星もまた、まだ探査機が訪れたことのない未踏の地である。
(第2回に続く)
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[産総研] 少量ウイルスを磁気微粒子で正確に検出

[日本経済新聞電子版2016年12月27日配信]
産業技術総合研究所は不純物を含む試料中のごく少量のウイルスを、正確に検出できるバイオセンサーを開発した。検出したいウイルスに磁気微粒子などをくっつけ、磁石と「近接場光」という特殊な光を使い、ウイルスの動きを判別する。企業との協力を模索し、2~3年後に小型システムの実用化をめざす。
これまで少量のウイルスの検出には、遺伝子を増幅させるPCR法が使われることが多かったが、ホコリなどがないきれいな環境でしか使えず、検出に時間がかかっていた。抗原抗体反応を利用した従来の測定法は、不純物が検出精度を下げるという課題があった。
産総研のバイオセンサーは、検出対象のウイルスやたんぱく質などのバイオ物質を、意図的に動かすことで見つける。下水の二次処理水など不純物が多い試料中でも、15分程度で低濃度のバイオ物質を検出できる。
実験で、都市下水の二次処理水200マイクロ(マイクロは100万分の1)リットル中に研究用につくったウイルス粒子を約80個混ぜたところ、同センサーで高感度に識別できた。2017年春をめどに、片手で持ち運べる小型システムの試作機を製作する。
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「地上の太陽」 35年に本格稼働

[日本経済新聞電子版2016年12月30日配信]
国際熱核融合炉の新計画 安全・無限…新エネへ前進
太陽と同じ「核融合」と呼ばれる反応を地上で再現し、エネルギーを取り出す国際的な大型実験施設の建設が、軌道に乗り始めた。国際熱核融合実験炉(ITER)計画と呼ばれ、総投資額は約200億ユーロ(約2兆4000億円)。11月には2035年の本格稼働を目指す新計画がまとまった。技術的な課題も多いが、将来のエネルギー供給の切り札になる可能性を秘める。
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ほぼ完成した組み立て棟
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調整作業が始まっている電磁石用コイルの製作棟
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ITER計画には日本、米国、欧州連合(EU)、中国、韓国、ロシア、インドが参加。オーストラリアも協力する。管理運営を担うITER機構本部と、実際に核融合の実験を進めるための中核施設は南仏プロバンス地方のサンポール・レ・デュランス(カダラッシュ)にある。
核融合には原子番号が同じ水素だが、普通の水素とは違い原子核に中性子を持つ重水素と三重水素を使う。約1億5000万度の高温にすると、重水素などの原子はプラスの電気をもつ原子核とマイナスの電子に分かれ、高速で飛び交うプラズマと呼ばれる状態になる。原子核は秒速1000キロメートル以上のスピードで激しくぶつかり合い、融合する。このときに発生する大きなエネルギーを熱として発電などに有効利用するのが目標だ。
原料、海水から
出力100万キロワットの石炭火力発電所は燃料として年間270万トンの石炭が必要だが、ITER機構によると同等の出力の核融合炉なら重水素、三重水素合わせて250キログラムしかいらない。原料の重水素や、三重水素を作るのに必要なリチウムは海水中に無尽蔵にある。
また原子力発電の「核分裂」と異なり、長期間、有害な放射線を出し続ける放射性廃棄物を出さない。中性子のエネルギーの大部分は熱に変換され、安全性は確保しやすいという。
一方で課題も多い。高温プラズマを強力な磁石を使って閉じ込め、制御しなければならないが、出力を上げようとすれば制御は難しくなる。磁石は巨大な超電導コイルに電流を流す電磁石を使うため、それ自体に多くのエネルギーを消費する。緻密な工学設計、プラズマ技術、そして巨額投資が必要だ。
費用総額200億ユーロ
ITER計画は当初の見通しが甘く、参加国が資金の代わりに実験炉に必要な設備を作って「物納」するスケジュールなども明確でなかった。作業の詳細が徐々に固まり、各国との情報交換も進んだため「ようやくきちんとコストの見積もりを出せるようになった」(ITER機構長のベルナール・ビゴさん)。
今年11月のITER理事会は、建設費は07年の機構発足から25年までが約69億ユーロ、26~35年は約46億ユーロとした。参加国が物納する部分の費用と、25年末以降の実験費用を加えると35年までに総額約200億ユーロに達し、当初計画を50億ユーロほど上回る見通しだ。
11月下旬、訪れたカダラッシュのITER建設現場では約1500人が働き、作業用車両が頻繁に行き来していた。機構長室からは工事現場が一望でき「基礎工事は終わった。実験炉のアセンブリー(組み立て)棟もほぼ完成し、来春から使える」とビゴさんは胸を張る。
黒くそびえたつ組み立て棟の天井の高さは約60メートルあり、内部に巨大構造物を持ち上げて移動できる大型クレーンが備え付けられている。核融合炉を作るための電磁石やその収納容器を動かし、炉を組み立てる予定だ。
電磁石用のコイルは専用の製作棟で、ニオブチタン合金でできた超電導線材を多数束ねて作る。実際に使う際にはセ氏零下269度の液体ヘリウムをコイル内に流して冷却する。また、プラズマを発生させる容器は真空状態を保つ必要がある。構造物の位置のずれや隙間は、絶対に避けなければならない。1500トンもある構造物をミリメートル単位の誤差で設置しなければならず、高度なエンジニアリング力が求められる。
電磁石は組み立て棟に連なるトカマク棟の地下に設置する。ITERはトカマク型と呼ぶタイプの核融合炉を採用するため、心臓部となる建物をこう名付けた。わずかな揺れも核融合反応の妨げになるのでバネのような免震器具を493個設置し、総重量約30万トンの建物を支える。地震はまず起きない地域だが、念には念を入れた。
11月の理事会は、装置を稼働して最初にプラズマを発生させる時期を当初計画に比べ約7年遅れの25年12月、核融合反応を起こす本格稼働は約9年遅れの35年とする案を了承した。ビゴさんは「プレッシャーは大きいが、それはすべての参加国の人たちも同じだろう」と覚悟を決めるように語った。
(編集委員 安藤淳)
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[ネオジム磁石発明への道] 佐川真人氏(11)

[日本経済新聞電子版2016年12月22日配信]
ネオジム磁石は「愚か故の発明」 非常識こそ出発点
仕事人秘録 大同特殊鋼顧問・佐川真人氏
サラリーマン時代に電気自動車(EV)や風力発電などの普及に貢献する最強の磁石「ネオジム磁石」を発明した佐川真人氏(73)の「仕事人秘録」。最終回は挫折から成功をつかんだ経験を踏まえ、若い研究者にエールを送ります。
世界を一変させた発明。出発点となった仮説の間違いが後に判明する。
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佐川さんの手をはさんで引き付け合うネオジム磁石(京都市西京区)
鉄を主成分とする最強磁石のひらめきとなったのは「磁石になるには鉄と鉄の原子間距離が近すぎる」という論理でした(「ネオジム磁石のヒント得る 『鉄の壁』克服へ実験」参照)。そこで、原子半径の小さな原子をレアアースと鉄の化合物に入れれば鉄の原子間距離が広がるだろうと仮説を立てて、「ネ オジム+鉄+ボロン」という組み合わせにたどり着きます。しかし、ネオジム磁石発明後に結晶構造を解明すると、原子間距離は広がっていませんでした。明らかにしたのは第13代大阪大総長の金森順次郎氏です。
ボロンと鉄の電子が化学反応を起こし、ボロン付きの鉄がコバルトとほぼ同じ状態に変わっていたのです。これが「鉄のコバルト化」という現象です。私も実験を始めて間もなく、原子間距離は広がっていないようだとは気づいていました。けれど、磁気特性が改良されていたのでやり続けたのです。
私が磁石研究を始めた70年代、磁石研究者は「最強磁石はコバルトが主成分であることが必須条件」という常識を信じて疑いませんでした。私はビギナーでしたので固定観念から離れやすかったのだと思います。従来の常識から離れた所で研究が始まることを私は「ニュークリエーション」と呼んでいます。そこを核として新分野の研究が発展するのです。
2012年、社会と学術に貢献した科学者を表彰する日本国際賞を受賞。ノーベル賞に期待がかかる。
小学生の時からの夢であるノーベル賞ですが(「『科学者になりノーベル賞とる』 小学1~2年で宣言」参照)、選ばれるかどうかは時の運です。受賞の有無にかかわらず、ネオジム磁石の発明は歴史に残りますから、研究者としては満足です。しかし、今も同窓会を年1回開いて激励してくれる高校時代の同級生や、多くの研究者仲間、家族らの期待に応えたいという思いは持ち続けています。
私の好きな言葉に米アップル創業者のスティーブ・ジョブズ氏の「Stay hungry,Stay foolish(貪欲であれ、愚かであれ)」があります。誰もやらなかった非常識な研究でネオジム磁石は誕生しました。しかも立てた仮説は間違っていた。愚かであるが故に歴史的な発明にたどりついたのです。
私は決して天才肌の研究者ではありません。ただコツコツとやり続けました。原動力は悔しさです。東北大院で材料科学者の夢に挫折し(「材料科学者めざし大学院へ 博士修了も『第一の挫折』」参照)、富士通に入社。学会で東北大院時代の知り合いに会っても相手にされなかった。その悔しさがネオジム磁石の発明に導いてくれたのだと思います。
若い研究者の方には会社が認めた公式テーマと、自分が情熱を持てる非公式テーマの研究を同時に進行させることをお勧めします。テーマは社会の潜在ニーズに基づいて選びます。ギャンブルで一山を当てにいく気持ちで、ぜひ次の「ニュークリエーション」を生み出してほしいです。
(安原和枝)
=この項おわり
[日経産業新聞2016年12月22日付]
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東北大、スピントロニクス素子を使った人工知能の基本動作の実証に成功

[マイナビニュース2016年12月19日配信]
東北大学は12月19日、磁石材料から構成されるミクロなスピントロニクス素子を使った人工知能の基本動作の実証に成功したと発表した。
同成果は、東北大学電気通信研究所附属ナノ・スピン実験施設 大野英男教授、佐藤茂雄教授、深見俊輔准教授、秋間学尚助教、同ブレインウェア実験施設 堀尾喜彦教授らの研究グループによるもので、12月20日付けの応用物理学会誌「Applied Physics Express」オンライン版に掲載される。
高速・小型・低消費電力性を兼ね備えた人工知能を実現するためには、脳の情報処理様式により近いかたちで、生体におけるシナプスの役割を単独で果たす固体素子を用いることが有効となる。この人工シナプス素子には、生体のシナプスと同じくアナログ的に状態を変化させることができ、その状態を長時間に渡って保持し、かつ無制限に更新できることが望まれる。
同研究グループはこれまでに、磁石材料から構成され、上述のような特徴を有するスピントロニクス素子を開発しており、今回、同スピントロニクス素子を用いて、人工知能の基本動作の原理実証に取り組んだ。
まず、アナログ的に振る舞うスピントロニクス素子36個とFPGAを組み合わせ、人工神経回路網(ニューラルネットワーク)を構築した。これまでに開発が行われてきたスピントロニクス素子では「0」、「1」の2状態しか記憶できなかったのに対して、今回用いたスピントロニクス素子は「0」から「1」までの連続的な値を記憶することができ、人工神経回路網においてはシナプスの役割を果たす。
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人工神経回路網のブロック図。パソコンとFPGA、スピントロニクス素子から構成される
次に、この人工神経回路網を用い、3×3ブロックにおける「I」「C」「T」の3つのパターンのいずれかから1ブロックを反転させたパターンを人工神経回路網に与え、そのもととなったパターンを想起するという、現在のコンピュータが苦手とする「連想記憶」の試験を行った。
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3×3ブロックにおける「I」「C」「T」の3つのパターン
ここではシナプスであるスピントロニクス素子の状態がある一定の法則に基づいてアナログ的に書き換えられることで学習が行われ、人工神経回路網が正解を導くが、多数回の試行の結果、同スピントロニクス素子は期待どおりの学習機能を有しており、正解パターンの想起に寄与することが確認された。
同研究グループは、今回の成果について、高速・小型・低消費電力性を兼ね備えた人工知能が実現可能となり、人工知能の適用領域が顔・音声認識、ウェアラブル端末、センサーネット、介護ロボットなど、社会のさまざまな分野へと拡大していくことが期待されると説明している。
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公差って何?これだけは知っておきたい3D CAD知識(その8)

[マイナビニュース2016年12月21日配信]
そろそろ「公差」について説明しましょう
草野多恵
「公差」は「ある程度ずれても良いよ」という数値
こんにちは。本連載「公差って何?これだけは知っておきたい3D CAD知識」はこれが年内最後の掲載となります。
今回はようやくこの連載タイトルにある「公差」についてお話していきたいと思います。
「公差」と言っても、あらゆる意味合いの公差があり、その用途もさまざまです。そして掘り下げれば掘り下げるほど、底が見えないぐらい奥深いものです。そこでまずは「そもそも」のお話をしていこうと思います。
例えばこのような部品を作るとします。
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この部品の幅寸法は、100mmとなっています。つまり幅はこの大きさに加工してください、という設計からの指示です。この数値はCAD上では”100.000(∞)mm”といった理論的に正確な数値で描かれています。
しかし、実際加工するにあたり、厳密に100.000…mmに仕上げることは不可能です。頑張れば限りなく近付けることはできますが、近付けようとすればするほど手間がかかり、困難です。ということは、この部品を作るためには非常にコストがかさむということになり、現実的ではなくなります。そこで通常は「ある程度ずれてもいいですよ」という意味の許容差を設けることになっています。これを「公差」と呼びます。
では、その公差はどの程度の数値を設定すればよいのでしょう?実はちゃんと決まりがあるのです。
日本には「日本工業規格」通称JISと呼ばれるものが制定されており、製造物はこの規格に準拠して作ることになっています。このJISは、工業標準化法に基づき制定される国家規格です。製造者が各々個別の判断でものを作ることによる秩序の崩壊を防ぐために国レベルの規格を制定し、これを全国的に「統一」または「単純化」することを目的として制定されています。なお、国際的にはISO(International Organization for Standardization: 国際標準化機構)と呼ばれる国際規格がありますが、JISはこのISOにも準拠するようになっています。(日本工業標準調査会(JISC)HPより引用。JISCは経済産業省に設置されている審議会で、工業標準化法に基づいて工業標準化に関する調査審議を行っています。)
このJISの中で、定義されているものの1つが公差の設定基準です。公差と言ってもあらゆる定義方法があり、その中で最も基本的なものは、「普通公差」です。JIS規格は項目ごとに記号番号が振られており、普通公差は JIS B 0405 に定められています。寸法値や求める精度により、設定する公差が定められているのです。ここでは詳細は省きますが、例えば図の部品の幅寸法は100mmなので、この長さの公差値は中程度の精度の場合、±0.3と定められています。つまり、99.7mmから100.3mmの範囲で仕上げればOKということです。
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次に、この図を見てください。高さ寸法60の後ろに小さい文字で数値が記載されています。幅寸法100に対しては、何も記載されていません。
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これは、100に対しては「普通公差を適用してください」という意味になります。普通公差でよい寸法には特に何も記載しません。
そして、60に対しては「添えてある数値の公差で加工してください」という意味になります。つまりこの場合、上限が0、下限が-0.3、つまり59.7mmから60.0mmの間に収めなければならないということです。
このように、普通公差とは異なる値の公差を設定したい場合は、個別の寸法値に対して公差を添えることで指示をします。この場合の設定する値は、その部品の機能に応じて設計者の判断で設定します。この60mm幅の場合はプラス方向に膨らんでは困るという判断で、プラス方向には大きくならないように制限する数値を設定したということになりますね。
では今度は、穴の寸法に注目してみましょう。
個別の公差値以外に”H7″と記号が記載されています。これは「はめあい」というものを示す記号です。俗に「インロー」と呼ぶはめあい部、つまり凸と凹を組み合わせる箇所の公差を厳密に定義する場合に使用します。例えば軸を穴に入れる箇所や、蓋と入れ物の嵌合部などに使用します。
ある部品の穴に別の部品の軸を入れる場合に、その軸は回っても良いのか、軸を入れたら固定状態にすべきものなのか、を考慮してはめあい公差を設定します。回っても良いのであれば多少緩めにする必要がありますし、固定にしたい場合は隙間が無いぐらいきっちりと嵌め合わせなければなりません。このような条件ごとの公差値が、JISによって詳細に設定されています。
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はめあい公差については次回に詳しくお話していきたいと思います。
どのような公差を設定するにしても、その公差値の判断基準は製品の性質によるので設計者の判断になります。限りなく基準寸法に近付けるのが理想ですが、あまりに精度を追い過ぎると加工に時間がかかります。機械では設定しきれない場合は手作業で仕上げるということもあります。その際、例えばちょっとしたミスで削り過ぎてしまうとやり直しができないので、改めて同じ材料を手配して作り直しということにもなりかねず、材料費がさらにかさむことになります。したがって、許容できる範囲で可能な限り広く公差を設定した方が良いということになります。
なお、今回ご紹介している公差のお話は「金属の除去加工(metal removal)又は板金成形(forming from sheet metal)によって制作した部品の寸法に適用する(JIS B 0405)」というものですので、例えば樹脂材料を使って3Dプリンタで作るものに関しては適用外です。
そもそも大半の、特に個人でも購入できるレベルの3Dプリンタは、精密な精度を出すことは困難ですので、3Dプリンターで製作することが前提であるにも関わらず、ある程度の精度を出したい場合はモデリングの際のサイズを調整するのが一般的です。業務用の金属材料を使用する3Dプリンタは、プリント後に仕上げ加工をする工程用のマシンと一体になっている機種が大半で、JIS規格に適合する詳細な精度を出すことは可能になっています。
では年内の連載はこれでで終了です。年明けにまた再開しますので、お楽しみに!ではちょっと早いですが、みなさま良いお年をお迎えください。
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[ネオジム磁石発明への道] 佐川真人氏(10)

[日本経済新聞電子版2016年12月21日配信]
磁石原料レアアース、中国の供給リスクにらみ新製法
仕事人秘録 大同特殊鋼顧問・佐川真人氏
サラリーマン時代に電気自動車(EV)や風力発電などの普及に貢献する最強の磁石「ネオジム磁石」を発明した佐川真人氏(73)の「仕事人秘録」。ネオジム磁石の生産コストや磁気特性を改良する研究はいまも続いています。
1988年にインターメタリックス(IM、京都市)を設立、世界を飛び回った(前回「ネオジム磁石発明の手柄に葛藤 5年半で会社に別れ」参照)。
主要な業務は、ネオジム磁石の発展をテーマに磁石製造会社やレアアース原料メーカーの研究開発を指導することでした。既存のノウハウなど住友特殊金属の秘密情報を漏らさないことを条件に、住友特殊金属の許可もとって、フランスの磁石製造大手ユジマグなど複数の会社と契約しました。しかし、思うような成果は得られませんでした。
転機は2000年。堀場製作所創業者の堀場雅夫氏らベンチャー経営の先輩らが優れた事業を支援する「京都市ベンチャー企業目利き委員会」に私の研究が選ばれたのです。テーマはジスプロシウム(「世界最強ネオジム磁石、旧住友特殊金属で実現・量産」参照)がなくても耐熱性が高いネオジム磁石の開発です。ジスプロシウムは中国の一地域に偏在しているため、資源供給リスクを当時から意識していました。中小企業基盤整備機構が運営する京大桂ベンチャープラザ(京都市)に02年に入居し、研究に専念しました。
研究の結果、「プレス・レス・プロセス(PLP法)」という、磁石の製造工程からプレス工程を省く新製法を工業化しました。磁石はプレス機でつくると磁石のブロックをつくった後に切り分ける作業が発生します。その時に切りくずが出るのですが、最初から目的の形の磁石をつくれば無駄をなくせます。しかもプレス機で圧縮する際に酸素などの不純物も混入しなくなり磁気特性も向上しました。
PLP法の長所は従来のプレス法と異なり、どんなに微細な粉末でも成型して磁石をつくれることです。磁石の粒径が小さくなると保磁力が上がるのですが、粒径を小さくするほど耐熱性が上がりジスプロシウムの使用量が減ります。この考えは昔から知られていましたが、PLP法により工業化の道が開けました。
10年秋に発生した尖閣諸島問題を端緒に中国がジスプロシウムの輸出を停止したことで、脱ジスプロシウムの磁石開発が加速する。
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インターメタリックス時代から研究拠点にしている京大桂ベンチャープラザ
PLP法をはじめとした技術にも三菱商事、大同特殊鋼、米モリコープの3社が出資し、磁石製造会社のインターメタリックス・ジャパン(IMJ、岐阜県中津川市)を設立。13年からPLP法によるネオジム磁石の量産を始めました。研究が実を結んだのを機に私は「ネオジム+鉄+ボロン」にちなんだNDFEBという名のベンチャー企業を設立し、京大桂ベンチャープラザで研究を続けています。
今はIMとIMJはともに大同特殊鋼の全額出資になり、私は今年10月に顧問に迎えられました。世界一の磁石メーカーへの階段を上ろうとする大同特殊鋼をこれからも応援したいと思っています。
私自身はNDFEBで生産コストや磁気特性など全てに優れた製法を開発中です。電気自動車や産業ロボットなどの駆動モーターに使うネオジム磁石の生産は年10万トンを超え、年10%のペースで増えています。全ての生産を私の製法に塗りかえるのが夢です。
(安原和枝)
[日経産業新聞2016年12月21日付]
カテゴリー: その他, ネオジム | [ネオジム磁石発明への道] 佐川真人氏(10) はコメントを受け付けていません。