前回もお話をしましたように、あらゆる形の永久磁石の中では磁化と反対方向の磁場、つまり「反磁場」が必ず発生し、磁石の外側に現れる磁化(磁力線)を妨げ、その反磁場の大きさは永久磁石の形状によって左右されます。そして、磁石形状が磁化方向に厚い寸法ほど反磁場は小さくなり、反対に磁化方向に対して相対的に薄い寸法になるほど反磁場は大きくなります。
したがって、ネオジム磁石のような永久磁石の表面磁束密度や空間磁束密度をホール素子などにより詳しく測定すると、極面上の場所により数値が異なっていて、さらに、その傾向は磁石の形状によっても左右されることがわかります。
<表面磁束密度と空間磁束密度>
磁石の磁力(強さ)を表す尺度の一つとして、「磁束密度(Magnetic Flux Density)」という物理量があります。この磁束密度は、磁石の磁極から出る磁力線に垂直な単位面積あたりの磁束(磁力線)の数で表し、SI単位ではテスラ[T]または[Wb(ウェーバー)/m2]であり、CGS単位ではガウス[G]または[Mx(マクスウェル)/cm2]となります。このうち、磁石の磁極表面(ギャップ距離ゼロ)の磁束密度を「表面磁束密度(Surface Magnetic Flux Density)」といい、磁極からギャップ距離のある空間点での磁束密度を「空間磁束密度(Gap Magnetic Flux Density)」と呼んでいます。
表面磁束密度の値は、(1)永久磁石の残留磁束密度Br、(2)永久磁石の形状(パーミアンス係数)、(3)減磁曲線(J-H曲線)の角型性、(4)減磁曲線(B-H曲線)の直線性、等によって変わってきます。磁化方向の厚みが薄い磁石はパーミアンス係数が小さく、反磁場の影響が大となるのでBrの値が同じでも表面磁束密度の値は小さくなります。
空間磁束密度の値も表面磁束密度と同様に、磁石のBr、形状、減磁曲線の形状等によって左右されますが、磁石(磁極)表面からの距離によって大きく異なってきます。
テスラメーター(ガウスメーター)による磁束密度測定例
<磁束密度測定の注意点>
ここで永久磁石の磁束密度の実際の測定や測定データを利用する際の注意点をあげてみましょう。次の図は“厚み(高さ)方向着磁製品”の場合、表面磁束密度の測定値の傾向を模式的に表した図になります。
厚み(高さ)方向着磁の測定値の傾向 | 磁石中央部と端部での反磁場の違い |
図に示したように、厚み方向着磁製品の測定の場合は、永久磁石の磁束密度はN極面、S極面にかかわらず測定面の磁石端部が最も高い値となり、磁石中央部が最も低い値となります。このような傾向は磁石が薄くなるほど(パーミアンス係数が小さくなるほど)顕著になります。また、厚み方向着磁製品であれば、円柱型、角型、リング型、C型の形状にかかわらず同様な傾向になります。
この原因は、磁石の中央部になるにしたがって磁石の中で反対磁極へのショートパスする反磁場が大きくなり、見かけ上のパーミアンス係数が低くなるためです。一方、端部(エッジ部)は磁束が磁石の外側から反対磁極に流れやすくなり、反磁場が小さくなって見かけ上のパーミアンス係数が大きくなるためです。
なお、ネオマグの各磁石の表面磁束密度のデータは“磁石中央部の最も低い値を測定または近似計算した結果”を使用しています。
<ネオジム磁石の形状と表面・空間磁束密度>
次のグラフは横軸に磁石の厚みまたは高さ、縦軸に磁束密度をとって、「ネオジム磁石N50」磁石と測定点の「ギャップ距離X=0mmの表面磁束密度」および「ギャップ距離X=5mmの空間磁束密度」と「パーミアンス係数」との関係を示したものです。
ごらんのように、磁石が厚くなる、すなわちパーミアンス係数が大きくなるにしたがってある程度の厚さまで表面磁束密度も空間磁束密度も急激に増加してゆきます。
そして、パーミアンス係数が3あたりから徐々に磁束密度の増加量が減って飽和してゆきます。
ネオジム磁石の形状と表面・空間磁束密度の関係
このことは、磁石の厚み(高さ)が大きいほど磁束密度は大きくなりますが、ある大きさ以上になりますと磁束密度の増加は期待できなくなるということを意味しています。
また、空間磁束密度は同じ材質、同じ距離でも磁石の形状によって変わってきます。さらに、測定位置と磁石との距離の二乗にほぼ反比例しますので、距離が大きくなるにつれて磁束密度は急速に低下してゆきます。
なお、磁石の裏側に鉄板などの「ヨーク材」をつけますと、磁石の厚みが2倍になったと同じ効果を得ることができます。
これらのことから、材質や直径などの寸法が決まっていてもう少し磁束密度が欲しいという場合は、
(1)磁石の厚みが薄ければ磁石を厚いものにする
(2)薄い磁石を複数個重ねて厚い磁石として使用する
(3)鉄板を「バックヨーク」として磁石につける
などの対策で解決できることがあります。