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超伝導磁石の可能性と応用シリーズ(5)

【超伝導永久磁石の可能性】

今回は、超伝導永久磁石についての将来展望についてお伝えします。超伝導体が永久磁石になれば、現在のネオジム磁石を凌駕(りょうが)するような超強力永久磁石の出現が期待できますが、クリアしなければならない実用上の技術課題も多く、これらの状況について解説いたします。

1.超伝導体の磁化過程

前号で、下部臨界磁場Hc1と上部臨界磁場Hc2を有する第2種超伝導体が実用的な超伝導電磁石線材になることをお話しましたが、このことは超伝導永久磁石にも当てはまります。

前号にも記述しましたが、第2種超伝導体に磁束が侵入する様子のモデル図を下に示しました。このモデル図でわかるように、外部からの磁束は超伝導体の外側から次第に内部へ侵入します。したがって、侵入途中では、超伝導体の外側の磁束密度が大ですが、逆に外部磁場をゼロに戻すと外側から磁束がはずれてゆき、超伝導体内部には大きな磁束密度が残り易くなります。

超伝導磁石の可能性と応用シリーズ-画像14

この残った磁束が永久磁石の役目を果たしますので、Hc2の値が大きいほど、大きな外部磁場を印加しても超伝導状態は失われません。大きな外部磁場を印加してなるべく多くの磁束を侵入させ、侵入した磁束が逃げ出さないようにピン止めすれば、外部磁場をゼロに戻したときの超伝導体の残留磁束密度は大きなものとなり、これによって超伝導永久磁石が得られることになります。

2.侵入した磁束のピン止め

侵入した磁束線は量子化磁束線と呼ばれ、右図のようにその磁束線の周囲は糸状の常伝導部で、その部分に磁束線が保持される形となります。結局Hc1~Hc2の間ではマトリックスの超伝導体と糸状の常伝導体の混合状態になっています。次に、侵入した磁束を永久磁石として利用するためには、一度侵入した磁束をふたたび逃げ出さないようにする工夫が必要です。

実はこのために不純物が活躍しています。量子化磁束の中心では常伝導状態ですが、超伝導ではない量子化磁束と同じ大きさの小さい不純物が近くにあると、量子化磁束はこの不純物の位置にピン止めされて動きにくくなります。そのためには超伝導体中に異相を分散させるなど組織調整が有効で、例えば前図のように、溶融した超伝導体のYBCO(1-2-3相)に非超伝導相(不純物異相)であるYBCO(2-1-1相)を分散させ、融体を急冷させる方式などが考え出されています。

超伝導磁石の可能性と応用シリーズ-画像15

3.超伝導永久磁石の磁化曲線

(1)超伝導磁石でピン止め効果のない場合

超伝導磁石でピン止めのない場合は右図に示すような挙動となります。すなわち外部磁場がゼロからHc1の間は、反磁性である負の磁化が直線的に増加しHc1で負の最大値となります。Hc1~Hc2では外部磁場が侵入し始めて負の磁化は次第に減少し、Hc2に達すると磁化ゼロとなり超伝導は破壊されます。破壊前(Hc2に達する前)に外部磁場を減少すると、可逆的に同じ曲線上を元に戻り残留磁化を示しません。この点は軟(ソフト)磁性体に類似しています。

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(2)超伝導磁石でピン止め効果が大きい場合

右図はピン止めの大きな超伝導磁石の磁化曲線です。図中の点線部分はピン止め効果のない場合の磁化曲線を参照のために付記しました。この場合、外部磁場をゼロから大きくしてゆくと、OP'Pのように磁化は反磁性の負で増加します。図ではHc1より大きな磁場なで負の磁化が増加しているが、これはピン止め効果が大きいためにHc1が上昇したからです。

さらに外部磁場を強くすると、正の磁束が多く入り込んでピン止めされ、したがって超伝導体全体としては負の磁化が曲線PQのように減少します。そして Hc2に達すると超伝導は破壊されますが、ここではその手前のQ点より外部磁場を減少した場合は可逆的には戻らず、QRSの線に沿って正の磁化が増加します。これは正の方向にピン止めされた磁束によるもので、外部磁場をゼロに戻しても、S点で示した残留磁化が残ることになります。この残留磁化が大きいほど、超伝導体は優れた永久磁石になります。

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(3)超伝導永久磁石のヒステリシスループ

前述の磁化曲線の挙動は+H側の第1、第4象限についてでしたが、全象限を表せば、下左図のようにヒステリシスループ(履歴曲線)となります。これを通常の永久磁石のヒステリシスループ(下右図)と対比すれば、超伝導永久磁石でも保磁力、残留磁束密度に相当するものが存在することになります。

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4.超伝導永久磁石の着磁と磁気特性

超伝導永久磁石を着磁する方法は以下の3通りがあります。

  • 試料を臨界温度Tc以下に冷却してからパルス磁場を印加する。
  • 試料を臨界温度Tc以下に冷却してから静磁場(直流磁場)を印加する。
  • 上部臨界磁場Hc2以下の磁場中でTc以下に冷却する。

また、現在まで種々の超伝導体の永久磁石としての磁気特性が調べられていますが、熱エネルギーや熱雑音の障害やピン止め効果が不十分なために、必ずしも満足すべき性能が得られているわけではありません。前述の高温超伝導体であるYBCO系を例にとると、液体窒素温度に冷却した状態でBrが0.5T程度、さらに低温度に冷却して1T程度が報告されているに過ぎません。

5.超伝導永久磁石の今後の課題

現在では、Tcが160K(-113℃)の物質も発見されて、温度という障壁はかなり低くなってきていますが、実用上は依然としてその壁は厚く、特に永久磁石はバルクで利用されるために特殊用途以外はまだ難しい状況です。実用的な永久磁石超伝導体の条件は、

  • 室温以上の臨界温度Tcを有する物質であること。
  • 第2種超伝導体であり、大きな値の上部臨界磁場Hc2を有すること。
  • 効率的で安定したピン止め技術を開発すること。
  • 資源的な制約が少ないこと。

などの厳しい条件をクリアすることが必要となります。

どうやら、超伝導体の永久磁石は有望とはいうものの、画期的な高温超伝導物質の出現を待たざるを得ないのが現実のようです。

以上、今回までは超伝導の物性、磁性、材料などの基礎的な解説をしてまいりましたが、次回からは超伝導の応用についての話題を中心にご紹介してゆきたいと思います。

(参考資料)

「トコトンやさしい超伝導の本」 下山淳一 日刊工業新聞社

「おもしろい磁石の話」 (社)未踏科学技術協会 日刊工業新聞社