希土類磁石(ネオジム(ネオジウム)磁石、サマコバ磁石)、フェライト磁石、アルニコ磁石、など磁石マグネット製品の特注製作・在庫販売

超伝導磁石の可能性と応用シリーズ(9)

【超伝導磁石のシリーズ最終回にあたり】

先月号まで8回に渡ってご紹介してきました“超伝導磁石の基礎と応用”については、今月号で最終となります。後半のシリーズで解説しましたように、特に応用面では超伝導コイルを利用した“電磁石”としての応用がほとんどであり、バルク体での“超伝導永久磁石”はまだ研究途上で、実用化されていません。将来はいずれこの超伝導永久磁石も実用化され、NeoMagの製品の一つとなるかもしれませんが、お仕事が永久磁石に関係していたり、永久磁石を使ってご自分の夢やアイデアを実現しようとしている読者の皆さんは、これからの超伝導永久磁石の研究の進展を注意深く見守っていてください。

さて、超伝導材料のお話は、今までは超伝導電磁石やそのコイルの線材として話題が中心でしたが、超伝導応用では最もスケールが大きく、熱心な実用化試験が行われている“超伝導送電ケーブル”を磁石とは関係ありませんが、最後にご紹介いたします。

1.超伝導送電ケーブルの開発とその役割

合金の超伝導線材の場合、臨界温度(Tc)が低温であるため液体ヘリウムでの冷却(-269℃)が不可欠で、且つその温度では熱的に不安定になりやすいので、送電ケーブルとしては万全の安全対策が必要でした。したがって、合金の線材では短い送電ケーブルの試験しかできませんでした。しかしながら、既にご紹介しましたように高温超伝導体の出現により、液体窒素冷却(-196℃)方式の超伝導送電ケーブルの可能性が浮上し、その実用化が計画されました。液体窒素は液体ヘリウムより安価であり、気化しにくく、ケーブルの冷却温度が高いので熱的安定度が相対的に優れています。

超伝導ケーブルは電力系統の中でも、まず短距離の都市間の幹線ラインで実用化が計画されています。大都市の電力ケーブルは幹線道路の下の地下鉄、水道管、ガス管、通信ケーブルなどのライフラインの近くをケーブル埋設管に挿入されて敷設されていますが、大都市の電力需要増加につれてケーブルの電流密度を上げなければならなくなっています。しかしながら、ケーブルを太くしないと発熱してしまうため、埋設管やケーブルを太くしなくても電流密度を上げて大電力を供給できる超伝導ケーブルが注目されているのです。

2.超伝導送電ケーブルの構造と構成

最近開発された高温超伝導ケーブルは、ビスマス系酸化物(Bi-Pb-Sr-Ca-Cu-O)高温超伝導体を銀で被覆したテープの多芯構成となっています。次図はこの高温超伝導体テープの構造です。

超伝導磁石の可能性と応用シリーズ-画像33

(典型的なビスマス系超伝導多芯線材テープの構造)

線材は幅約4mm、厚さ約0.25mmのテープ状ですが、超伝導電流が流れやすいように、超伝導体の方向を揃えて加工、作製されています。加工技術の進歩によって、銀と超伝導体の体積の割合はおおよそ1:1となってきました。テープ状の超伝導線材は、ケーブルの曲げにも強く、且つ電力の損失を軽減するために、円柱状のフォーマにらせん状に巻かれます。外側には絶縁層を介して超伝導線から発生する磁場を弱めるシールド層(超伝導体)があり、最後に保護層が被覆されています。この保護層までをケーブルコアといい、超伝導体の部分は約2%程度になります。通常の三相交流の送電ではケーブルコア3本を液体窒素を満たす1本の管にまとめて、全体のケーブルとなります。

超伝導磁石の可能性と応用シリーズ-画像34

(ビスマス系超伝導多芯線材電力ケーブルの構成)

最終的にケーブル全体に占める超伝導体の割合は0.5%まで下がりますが、ビスマス系超伝導線材の臨界電流は銅線の100倍あり、従来の銅ケーブルも厚い被覆やメンテナンスの隙間も多く、同じスペースであればビスマス系超伝導ケーブルなら銅ケーブルの3倍以上の高密度送電が可能です。

3.超伝導送電の実用化試験成

大都市の電力需要が増加してその供給不安が大きい米国では、世界に先駆けて高温超伝導ケーブルのテストラインが稼動しています。2000年のデトロイト変電所の120m長の送電試験開始を始め、米国では数件の試験ケーブルが敷設されています。日本でも2001年から電力中央研究所で100m長の高温超伝導ケーブルの送電試験が開始され、上記の三相交流用ケーブルが使われて、液体窒素温度でも2760Aという十分に高い電流密度を安定に得られています。

超伝導磁石の可能性と応用シリーズ-画像35

(超伝導ケーブル実用化に向けて、さらに開発が必要な技術)

実際の大都市の送電ケーブルを考えると、数キロメートル以上の長さが必要で、その接続技術や液体窒素の注入技術など、まだ多くの課題が残っています。しかしながら、エネルギーの効率利用の面からも超伝導ケーブルは有効であり、将来必ず世界の大都市のどこかで実用化が始まり、いずれ技術の進歩の積み重ねで、長距離送電にも利用される時代が来ると思われます。

以上で、超伝導シリーズは一旦終了させていただき、来月号からはまた新しいテーマでの話題をお届けする予定です。

(参考資料)

「トコトンやさしい超伝導の本」 下山淳一 日刊工業新聞社

「おもしろい磁石の話」 (社)未踏科学技術協会 日刊工業新聞社