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電池の基礎シリーズ(7)

先月まで、(1)鉛蓄電池、(2)ニッケルカドミウム電池、(3)ニッケル水素電池、(4)リチウムイオン電池の順に勉強してきました。近い将来の効率的なエネルギーシステムとして、スマートグリッド(次世代電力網)など太陽光や風力で発電された電気を蓄え、電力系統を安定させるためのシステムが注目されています。これらのシステムには大型蓄電池(二次電池)が不可欠であり、開発競争の主役は従来の鉛蓄電池に代わって高効率の新型電池に移っています。今月は、大容量蓄電池の中で、実用化で先行しているナトリウム硫黄(NAS)電池について調査してみました。普段目にする一般的な蓄電池ではありませんが、近い将来、重要な役割を果たすかもしれません。

(5) ナトリウム硫黄電池(NAS電池)

<原理と構造>

ナトリウム硫黄電池(NAS電池:日本ガイシの登録商標)は、ナトリウムを負極、硫黄を正極の活物質に使う二次電池です。1960年代に米国の自動車会社から、その原理が発表されたことが開発の始まりです。欧米や日本で自動車用あるいは負荷平準化用の蓄電池として幾つもの開発プロジェクトが立ち上がりました。製品化された現状では、大型で、高温で運転する必要があることから、据置き用の大電力貯蔵用電池として利用されています。イオン伝導性の特殊なセラミックスを固体電解質として使うことも大きな特徴です。

NAS電池は、電池全体を高温(300℃程度)にして、正負両極の活物質が溶融している状態で運転します。両極の間は、ベータアルミナというナトリウム伝導性のセラミックスで隔てられています。ベータアルミナは多結晶焼結体で、個々の結晶構造の中にナトリウムイオン伝導層を持っています。この伝導層は、ナトリウム原子も電子も通しませんが、ナトリウムイオンは自由に移動することができます。NAS電池は、次の反応で約2Vの電圧が得られます。

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<ナトリウム硫黄電池の特徴>

NAS電池には、次のような特徴があります。

  • 原材料に資源上の制約が少ない。
  • 単電池の容量が大きくできます。電池システムとして定格出力で6時間以上の放電能力があり、MW級の大規模電力貯蔵が可能です。
  • 従来の鉛蓄電池の約3倍の高いエネルギー密度を持ちます。
  • 単電池ごとの容量や抵抗のばらつきが小さく、また自己放電がないことから、単電池を直並列に接続した大規模化か容易です。単電池ごとのばらつきを緩和するためのバランス回路やフロート充電も不要です。
  • 毎日の深い充放電運転に対し耐久性が高く、部分充放電でも劣化が促進しません。
  • 補機や稼働部品が少なく保守が容易です。
  • 約300℃の電池運転温度を維持するためヒータが必要です。反面、周囲温度の影響はほとんど受けません。
  • ナトリウムと硫黄は消防法に定める危険物であり、所定の手続きが必要ですが、安全認定制度があり、それに合格した電池は要件が緩和されています。

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<ナトリウム硫黄電池の用途>

NAS電池は、据え置き、大容量蓄電池として次のようないろいろな使われ方をしています。

(1)負荷平準化

夜の負荷が小さく発電能力に余裕のあるときに電池に電力を貯めて(充電して)おき、昼の負荷が大きなときに貯めておいた電力を取り出して使う(放電する)。昼夜通して見ると、電力負荷のカーブは山が削られ谷が埋められるので、全体として均された形になります(次図)。

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(2)非常電源機能と瞬低対策機能

普段は負荷平準化を行いながら、停電の際には特定設備に電力を供給できるようにしたのが非常電源兼用システムです。上下水道などのライフライン施設や、停電で長時間工程が停まると困るような工場で採用されています。

雷などで、照明が一瞬暗くなることがあります。これが瞬低(瞬時電圧低下)です。照明が瞬くだけならまだよいのですが、モータが止まったり、コンピュータが停まったりすると大変です。半導体工場などの精密産業では、瞬低は大きな被害をもたらします。そこで、雷などの瞬低に際して高速に動作し瞬低による被害を回避できるようにしたNAS電池システムが瞬低対策兼用システムです。

(3)風力発電や太陽光等再生可能エネルギーの出力変動吸収

不安定で出力予測の難しい風力発電や太陽光発電の変動を吸収し、これら変動電源の大規模導入に関する制約を緩和します(次図)。

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(4)スマートグリッドおよびマイクログリッド

離島などの孤立系統や再生可能エネルギー大量導入地域でNAS電池を電力需要と供給の調整電源とするマイクログリッドを構築することが可能です。また、ITネットワークと組合せた新しい系統テクノロジーとして注目されているスマートグリッドにおいても、同様の役割が期待されています。スマートグリッドは、米国が打ち出したグリーンニューディール政策に大きく取り上げられて以降、米国はもとより、欧州、日本、韓国、中国などの多くの国々で電力系統の新しい技術テリトリーとして注目され、関連する開発が加速されています。

以上、今月はナトリウム硫黄電池(NAS電池)について勉強してみました。ただし、NAS電池は一昨年、昨年と火災事故を起こし、また、先月ご報告したリチウムイオン電池も、ボーイング787やアイミーブの問題などが表面化したりして、大容量電池はまだまだ安定性、安全性に課題があるようです。

来月は電気二重層キャパシタを取り上げてみたいと思います。

 

<参考・引用資料>

「図解でナットク!二次電池」 小林哲彦、宮崎義憲、太田 璋 共著(日刊工業新聞社)

「トコトンやさしい2次電池の本」 細田 條 著(日刊工業新聞社)

日本ガイシ株式会社ホームページ

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