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エネルギー資源の現状と将来(15)<原子力エネルギー(5)-その3>

先月号では原子爆弾、水素爆弾の例を取り上げて、核分裂反応と核融合反応について勉強しました。核分裂反応と核融合反応を爆弾のように爆発的な反応を起こすのではなく、反応を制御しながら熱エネルギーを取り出して発電するのが原子力発電であり、その発電設備が原子炉になります。今月はこの原子力発電・原子炉について詳しく調べてみましょう。

(5-8) 原子炉の原理と構造

原子炉は燃料となる核燃料、中性子数を制御する制御材、中性子速度を減速する減速材、熱を取り出す冷却材からできています。下図はこれらをまとめた加圧水型原子炉の模式的な構造図です。

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[1]燃料棒

原子炉の燃料にあたる部分です。3~5%程度に濃縮したウラン235(235U)をペレット状に固めたものを、棒状にまとめたものです。

[2]制御棒

原子炉の中にある中性子の個数を制御するもので、主にカドミウムCdやハフニウムHfなどでできています。

上下に移動できるようになっており、燃料棒の間に深く挿し込むと、多くの中性子を吸収します。そのため炉内は中性子が少なくなり、核分裂が抑制されます。もっと深く挿し込めば核分裂は起きなくなり、原子炉の火は消えてしまいます。反対に、もし挿し抜かれたままの状態で固定されたら、核分裂は枝分かれ的に増殖し、最悪の場合には臨界量を超えて、原子爆弾状態となってしまいます。

[3]冷却材

原子炉の熱を外部に運びだすための熱媒体であり、軽水炉では水を用い、減速材と兼用します。原子炉内の奥深くを循環する冷却水を一次冷却水といいますが、放射性物質で汚染されています。そのため、環境中に漏れ出さないように原子炉の格納器内にとどめ、熱を格納器外に持ち出すためには熱交換器を通じて、二次冷却水に熱を渡します。

以上の部分が原子炉の心臓部分であり、核分裂廃棄物で放射線がたくさん発生する部所ですので、放射線漏れがないように、厳重な格納器に保管されます。

発電機のタービンは二次冷却水によってつくられた水蒸気によって回転させられます。

(5-9) 核燃料としてのウラン

[1]ウラン鉱石の産出国とその産出量

ところで、核燃料としてのウランは世界にどのように分布していて、その埋蔵量、生産量はどうなっているのでしょうか。その中で、日本は「資源の博物館」といわれるほど資源の種類は多いのですが、埋蔵量が少ないため、そのほとんどを輸入にたよっています。

原子力発電所の燃料となるウランも、岐阜県や岡山県にありますが、埋蔵量が少ないため、政治や経済が安定したオーストラリアやカナダなどと長期契約を結んで輸入しています。

また、世界の石油は埋蔵量の約60%が政情の不安定な中東地域に集中しているのに比べて、ウランは広い地域に平均的にあるので、日本にとっていろいろな国から輸入することができ、安定して確保できるメリットがあります。

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資料提供:石油天然ガス・金属鉱物資源機構/ウラン探査チーム

[2]ウランの同位体

質量数が60以上の原子核はすべて、分裂すればエネルギーを放出しまが、現在のところ、人類の手で分裂させてエネルギーを取りだすことのできる原子は、ほとんどウランだけにかぎられています。

ウランにはいくつかの同位体がありますが、主にウラン235(235U)とウラン238(238U)の2種類の同位体があります。その存在度はそれぞれ0.7%と99.3%であり、圧倒的にウラン238が多くなっています。ところが、原子炉の燃料として使うことのできるのはウラン235であり、天然ウランの99.3%は使い道がないというのがウランの問題です。この問題はあとに見る、高速増殖炉で解決されるはずなのですが・・・・。

[3]ウランの濃縮から燃料棒へ

鉱床から掘りだしたウランのうち、原子炉で使うことのできるウラン235は0.7%に過ぎません。しかも、このように不純物(ウラン238)が多いままのウランは燃料に使うこともできません。燃料に使用するためには、ウラン235の濃度を高める必要があります。これが濃縮という操作なのです。

同位体の化学的性質はまったく同じですので、濃縮には化学的手法は使えません。同位体を分離するには、重さにもとづく物理的な手段に頼らざるをえません。しかし、例えば重量235kgと238kgでは1%ほどの違いにすぎません。これを分離するのは至難の業です。分離の手段はオーソドックスな遠心分離です。ウランをフッ素と反応させて気体の六フッ化ウランUF6として何段階もの遠心分離にかけて、中心付近に残った軽いウラン235を利用するのです。幸いなことに、原子炉に用いるためなら、ウラン235の濃度は数%で良いということです。残りのウラン238は劣化ウランと呼ばれ、弾丸の材料として用いられて問題を起こしています。

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遠心分離法によるウラン235の濃縮(知っておきたいエネルギーの基礎知識より)

日本の場合、購入したウランを米国やカナダで濃縮ウラン(六フッ化ウラン)にしてもらい、それを輸入します。そして、国内で酸化ウラン(UO2)粉末にして、これを成形し、焼結、研磨することで酸化ウランペレットとします。この酸化ウランペレットを被覆管に入れたものが燃料棒であり、燃料棒を集合体にして燃料とします。

(5-10) 連鎖反応の制御

原子炉はウラン235の核分裂エネルギーを利用するものです。しかし、核分裂には枝分かれの連鎖爆発型と、定常燃焼型があります。原子炉が爆発に至ったら大変な悲劇です。定常型に維持するためには、精密な制御(コントロール)が必要です。

[1]制御棒による中性子数の制御

先月号でお話をしましたように、ウラン235の核分裂では複数個”の中性子が発生し、それが原因で枝分かれ連鎖爆発型の核分裂が発生します。定常型にするためには、発生する中性子の個数を“1”に限定すればよいのです。

しかし、中性子の発生個数は自然現象です。これを制御することは目下、人類には不可能です。それではどうすればよいでしょう? 余分な中性子を除いてやればよいのです。その役割をするのが制御棒です。制御棒は中性子を吸収してしまいます。使用元素は、カドミウムCdやハフニウムHfです。

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[2]減速材による中性子速度の制御

原子炉にはもう1つの問題があります。それは中性子の速度です。核分裂で発生した中性子は運動エネルギーをタップリもち、高速で運動する高速中性子です。しかし、この中性子はウランの塊を瞬時に通り抜けるので、効果的な核分裂を起こしません。

効果的に核分裂を起こさせるためには、中性子の速度を落として低速中性子(熱中性子)にする必要があります。このために用いる素材を減速材といいます。しかし、中性子は電荷も磁性ももちませんから、速度を落とすためには原始的な力学的方法、すなわち、ほかの物体に衝突させる以外ありません。しかし重い物体に衝突させても、同じ速度ではじき返されるだけです。速度を落とすためには中性子と同じような質量の物体に衝突させる以外ありません。運動する物体Aを衝突によって減速させるもっとも有効な方法は、同じ質量の物体Bに衝突させることです。そうすると、Aは運動を止めて停止し、そのエネルギーを受け取ったBが運動を開始します。

中性子と同じ質量の粒子といえば、すぐに思いだすのは水素原子です。水素原子の原子核は陽子であり、陽子と中性子の質量はほぼ同じです。したがって、減速材としては水素を用いることになりますが、水素分子を用いたのでは密度が小さく、中性子と衝突する確率が低くて有効な減速材とはなりません。では、なにを用いればよいでしょう?水です。水はH2で、その質量の10%以上は水素の質量です(H2/H2O=2/18)。減速材にはほかの種類もあり、用途によって使い分けられます。

あとででてきますが、プルトニウムをたくさん生産するためには、軽水(H2O)ではなく、重水(D2O)や黒鉛(炭素)を用いたりすることもあります。

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減速材としての水の役割(知っておきたいエネルギーの基礎知識より)

[3]冷却材の役割

原子力発電は、原子炉で発生した熱で水蒸気をつくり、その水蒸気で発電機を回して電気を起こします。したがって原子炉は火力発電所のボイラーに相当し、発電機部分は原子炉用も火力発電用も原則的に同じものです。原子炉の熱を外部に持ち出し、水を加熱する熱媒体を冷却材と呼びます。

日本で普及している原子炉(軽水炉)では、冷却材として水(軽水H2O)を用います。すなわち、水は冷却材としての役割と、減速材としての役割の両方を果たしているのです。

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冷却材としての水の役割(知っておきたいエネルギーの基礎知識より)

以上、今月は盛りだくさんの内容となりましたが、原子力発電について、ウランの生産国、埋蔵量、核燃料にするための各種ウラン処理、原子炉の基本構造、各種制御材などについてお話をしてまいりました。これで、ある程度の原子力発電の基本はお分かりになったと思います。

来月からは核廃棄物の問題、プルトニウム、放射線被ばくなどについて勉強してみたいと思います。

<参考・引用資料>

「知っておきたいエネルギーの基礎知識」 斉藤勝裕 著 サイエンス・アイ新書

「図解雑学 知っておきたい原子力発電」 竹田敏一 著 ナツメ社

「原子力発電がよくわかる本」 榎本聰明 著 オーム社

「エネコチャンネル」 JAEROホームページ

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