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エネルギー資源の現状と将来(16)<原子力エネルギー(5)-その4>

先月号まで3回にわたり原子力エネルギーの元となる核分裂反応と核融合反応の基礎と現在の原子力発電の基本原理、原子炉の構造、核燃料などについてお話をしてきました。

今月は原子力発電の核燃料サイクルおよび原子力発電の課題をクリアするためどのような将来技術が研究されているか、などについて勉強してみましょう。

(5-11) 核燃料サイクルと再処理

核燃料サイクルとは核燃料物質をどのように加工してどのように燃料として使いどのように再利用していくかというサイクルのことです。ウラン(U)を元にする核燃料サイクルをウランサイクル、トリウム(Th)を元にする場合をトリウムサイクルと呼んでいます。

ウランやトリウムを燃料として使用する場合、まず鉱山で採掘し、濃縮、加工などの過程を経て核燃料が製造されます。そして原子炉で使用した後の使用済燃料を再処理することでウランやプルトニウム(Pu)を取り出します。取り出したウランやプルトニウムを再度加工などの過程を経て核燃料とし原子炉で再利用します。再利用できない元素は廃棄物となって処理・処分されます。この一連の過程が核燃料サイクルと呼ばれています。

ウランサイクルでは原子炉内でウラン238(238U)をプルトニウム239(239Pu)に変換し再利用を図ります。そしてトリウムサイクルではトリウム232(232Th)を233Uに変換して再利用を図るものです。

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原子炉では、使用済核燃料から新しい燃料が生産できます。というのは、原子炉を稼動させると核分裂をおこしやすいウラン235Uは消費されますが、それに対して核分裂をおこしにくい238Uは燃料にはならないで、核分裂をおこしやすい239Puに変化するのです。つまり使用済燃料中には、まだまだ燃料として使用できる元素が含まれていることになります。

このことをさらに詳しく調べてみましょう。次図は、標準的な軽水炉の燃料について、プルトニウムの生成の様子を示したものです。燃料は最初235Uが約3%程度に濃縮されています。これが、原子炉で4年ぐらい燃焼して、使用済燃料になったとき、235Uは約1%に減っており、プルトニウムが約1%生成されています。ところが、238Uも約2%減っています。

実はこの約2%の238Uは、プルトニウムに変わったのです。しかし、そのうちの約1%は、原子炉の中で燃焼(核分裂)し、約1%だけが残ったというわけです。いずれにせよ、2%近い核分裂物質が、まだ使用済燃料の中に残っていることになります。これを回収して、もう一度燃料に加工し直して再利用することを核燃料サイクルといっています。図からわかるように、約3%の核分裂物質が消費され、そのうち約1%はプルトニウムであることがわかります。

現在、原子力発電所においては、発電量の三分の一は、新たに生成されて燃焼されるプルトニウムが寄与しているのです。また約2%の核分裂物質を使って、約1%の核分裂物質を生産しましたので、このことを転換率0.5と言います。

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以上のように核物質を使用済燃料の中から取り出して利用するための手段が再処理です。再処理では使用済燃料に含まれているウランやプルトニウムを硝酸で溶かして化学的に取り出し他の元素と分離します。分離する手法は数多く開発されていますが、実用化されている方法は溶媒抽出法の1つであるピューレックス法と呼ばれる方法だけのようです。また、再処理を行うことで燃料となる元素(ウランやプルトニウム)が取り出せるだけでなく、核廃棄物となる核分裂生成物をより安全に処理・処分することも可能になります。さらにウラン資源を有効に利用することにもつながるなど多くの利点を有するといえます。

再処理工場で再処理された回収ウランは転換工場および再転換工場で二酸化ウランになり、さらに回収ウラン・プルトニウムの混合酸化物はMOX燃料となり再利用されます。

日本では茨城県の東海村に使用済核燃料の再処理施設はありますが、その規模は小さく、そのためここでは日本で発生した使用済核燃料を処理しきれず、ほとんどはフランスやイギリスといった海外に再処理を委託しているのが現状です。現在、青森県の六ケ所村に大規模な再処理施設が建設されており、いずれ本格的に稼動する計画になっています。

(5-12) プルサーマル

前項でお話をしましたように、原子炉が稼動すると、ウランとは別に廃棄物としてプルトニウムが蓄積していきます。このプルトニウムを再処理・変換してMOX燃料として原子炉に使おうというのが、プルサーマル計画です。

239Pu のもっとも有効な使い方は、高速増殖炉に用いて、本来ならば燃料にならない238Uを燃料の239Puに変化させることでしょう。しかしその原子炉は技術的に難しく、実用化にはいまだ歳月を要します。そして、その間にも通常型原子炉で生産されるプルトニウムの蓄積量は、日々増加していきます。

そこで暫定的な手段として考えだされたのが、プルトニウムをウランに混ぜて燃やしてしまおうというアイデアで、プルサーマル計画といわれるものです。プルトニウムの用途としては、少々もったいない気がしないでもありませんが、仕方がありません。この計画には技術的に新しいことはなにもありませんので、計画実行のゴーサインさえでれば、問題なく実行できます。

プルサーマルは、妙な和製造語で、「プル」はプルトニウム、「サーマル」は熱の意味です。プルトニウムを遅い中性子(熱中性子)を用いる原子炉(ここで は軽水炉)の燃料にすることです。ただし、「リサイクル」できる量はわずかであり、決して効率的な方法ではありませんので、国内各電力会社は実質的な導入には熱心ではないようです。一方、次図のように海外では積極的に採用されています。

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(5-13) 高速増殖炉

前節で述べましたように、原子炉から発生する核分裂廃棄物にはプルトニウム239(239Pu)に含まれています。プルトニウムは大変危険な元素ですが、うまく使うと魔法の秘薬のようになります。

■高速増殖炉の原理

プルトニウムは、自然界にはほとんど存在しません。人類が人工的につくりだした元素と考えてよいでしょう。

(1)239Puは原子炉中で238U(非放射性U)と“高速中性子”が反応して生成する

239Puは235U(放射性U)と同じように核分裂をするので、原子炉の燃料として使うことができます。そして、以下の反応が起きます。

(2)核分裂をするときに“高速中性子”を発生する

上の(1)と(2)を合併すると、高速増殖炉の原理が浮かび上がります。すなわち、以下の反応が起こります。

(3)239Puを238Uで包んだ燃料をつくり、239Puを核分裂させる

すると、239Puから生じた高速中性子が外側の238Uと反応します。

(4)238Uを239Puに変える

つまり239Puが燃えると、エネルギーとともに、「使った量以上の新しい239Puが生じる」のです。これは燃料が“増殖”することです。そして、それを行うのが“高速”中性子なので、この原子炉を“高速増殖”炉と呼んでいます。

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■冷却材の問題

しかし、高速増殖炉には大きな問題があります。それは中性子が高速でなければならないということです。つまり、冷却材として水や油など、水素Hをもつ物質は使えないということです。これらは減速材ですから、高速中性子が低速になってしまうのです。そのため、高速増殖炉の冷却材には質量数が小さくて、液体になりやすい物質ということで、ナトリウム(A=23、融点97.7℃)などの金属が高速増殖炉の原理と問題点 (知っておきたいエネルギーの基礎知識)用いられます。しかし、ナトリウムは水と爆発的に反応するなど、非常に危険な金属です。ですから国内の高速増殖炉はいまだ福井県敦賀市にある日本原子力研究開発機構の“もんじゅ”で実験段階であり、種々の事故発生で問題点がみつかり、実用化は先の話のようです。

(5-14) 未来の原子炉

原子炉として、前節までに通常型炉、プルサーマル、高速増殖炉を見てきましたが、それ以外のタイプも研究されています。

■トリウム原子炉

原子炉の燃料として235Uの代わりにトリウム232(232Th)を用いる原子炉です。232Thは原子番号90番の元素ですが、235Uと同じように核分裂を起こすので、原子炉の燃料として使うことができます。しかもトリウムは地殻中で存在割合が12ppm(0.0012%)と、ウランの4ppmの3倍もあります。そのうえ、ウランでは燃料に使えるのは0.7%しか含まれない235Uだけですが、トリウムの同位体はほとんどすべてが232Thですから、すべてが燃料として使えます。

しかし、232Thも欠点はあります。それは鉱石のモナズ石からの精錬が大変に困難であるということです。さらに、核分裂廃棄物として放射能が非常に強い物質を含むので、それの除去に高度の技術と設備が必要だということです。現在、トリウム埋蔵量の多いインドなどを中心に、開発が進められています。

■核融合炉

未来の原子炉で、人類究極のエネルギーといわれているものです。これは、水素原子のような小さな原子核を融合することによって、エネルギーを取りだそうとするものです。

核融合炉に用いることのできる核融合反応はいろいろありますが、現在もっとも有力と考えられているのは重水素2H(D)と三重水素3H(T)を反応させるDT反応です。しかし三重水素は自然界にはほとんどなく、しかも放射性で危険な物質です。そこで、この三重水素をも核融合炉でつくることにします。すなわち、原子炉をリチウムLiで覆い、それと、核融合で発生する中性子を反応させるのです。核融合炉は人工の太陽のようなものであり、これが実用化されたら、人類はエネルギーの心配をすることはなくなるといわれますが、実現はまだまだ先のようです。

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以上、今月は核燃料サイクル、再処理、将来考えられている原子炉などについてお話をしてきました。来月は現在原子力発電で最も問題になっています“再処理できない核廃棄物”、“放射線被ばく”などについて勉強してみたいと思います。

<参考・引用資料>

「知っておきたいエネルギーの基礎知識」 斉藤勝裕 著 サイエンス・アイ新書

「図解雑学 知っておきたい原子力発電」 竹田敏一 著 ナツメ社

「原子力発電がよくわかる本」 榎本聰明 著 オーム社

「日本原子力研究開発機構」JAEA ホームページ

「エネコチャンネル」 JAEROホームページ

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