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地球の科学と自然災害(14)<津波-その3>

今月は3回目の「津波」シリーズとして、「津波の予測システム」についての調査報告となります。気象庁がどのような予測システムを構築しているのか、また、予測の結果をどのようにして国民・住民に知らせているのか等について気象庁のホームページを引用してみました。

[津波-10]気象庁の津波予測システム *引用「気象庁ホームページ」

津波を予測するには、最初に、地震の位置と規模を求めます。次に、地震の位置と規模から推定される津波の高さと到達時刻を、下述の津波予報データベースから検索します。検索して得られた津波の予測結果を用いて、警報・注意報を発表します。

<津波予報データベース>

日本周辺では、大きな地震が沿岸近くで発生することもあります。その場合、津波は地震発生後直ちに日本沿岸に来襲しますので、最新のコンピューターを用いたとしても、地震が発生してから計算を開始したのでは、津波が到達するまでに津波警報を発表することはできません。そこで、あらかじめ、津波を発生させる可能性のある断層を設定して津波の数値シミュレーションを行い、その結果を津波予報データベースとして蓄積しておきます。

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実際に地震が発生した時は、このデータベースから、発生した地震の位置や規模などに対応する予測結果を即座に検索することで、沿岸に対する津波警報・注意報の迅速な発表を実現しています。

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<津波の数値シミュレーション>

沿岸での津波の高さや到達時刻を求めるためのシミュレーションは、大別して、海底地殻変動計算と津波伝播計算の2段階に分けられます。

■海底地殻変動計算

地震による海底の地殻変動は、地下の断層が動いたとして理論的に計算できます。このとき、断層を規定する

(1)断層の水平位置と深さ

(2)断層の大きさ

(3)断層の向き

(4)断層の傾き

(5)すべりの方向・大きさ

を定める必要があります。断層の向きは、過去の地震を参考に決めています。断層の水平位置と深さ、及び、断層の大きさとすべりの大きさ(これらはマグニチュードから換算できる)については、どのような場所で、どのような大きさの地震が発生しても対処できるよう、多数のシミュレーションを行います。

なお、断層の傾きとすべり方向については、最も大きく津波を発生させるような設定である、傾きが45°の純粋な逆断層(次図参照)としています。

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断層は水平方向に約1,500箇所、深さは0~100kmの間で6通り、またマグニチュードは4通りを考え、これらの断層ひとつひとつについて海底の地殻変動を求めます。これを津波伝播計算に引き渡します。

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■津波伝播計算

一般に、津波を発生させるような海底地殻変動は数十キロメートル以上の広がりをもっていて、津波が広がり始める前に地殻変動が完了するため、海底地殻の上下変動がそのまま地震発生直後に海面に生じる凹凸になると考えることができます。こうして得られる海面凹凸パターンを津波の初期波源とし、これが四方八方に伝わっていく様子を計算します。数値計算の方法としては、計算領域を縦横の格子状に細かく区切り、各々の格子における津波の高さと速度について、津波伝播の方程式に従って時間を追って計算していきます。全ての断層に対してこのような計算を行い、沿岸に出現する津波の時間的変化の様子を再現しています。

<沿岸での津波の高さの予測>

津波警報の基準となる、沿岸で予想される津波の高さは、シミュレーションで計算された沿岸における高さをそのまま使っているわけではありません。それは、計算格子の大きさを一定にしているため、海岸近くの水深が浅く地形も複雑になってくる場所では、津波の再現精度が落ちてくると考えられるためです。これを解決するには、沿岸近くで計算格子を細かくするなど非常に詳細な計算を行う方法がありますが、全国の計算を行うには膨大な時間がかかり、現実的ではありません。そこで、誤差がまださほど含まれない沖合いでの津波の高さから、「グリーンの法則」を用いて、海岸での高さを推定しています。沖合の(水深の深いところの)津波が沿岸の水深の浅い場所へくると、津波のスピードが遅くなり、前の波と後ろの波との間隔が短くなります。しかし、ひと波に蓄えられるエネルギーは、同じはずです。波面が海岸線に並行に入射する場合には、波と波との間隔が短くなった分、結果として、波の高さが高くなります。これがグリーンの法則です。気象庁では、グリーンの法則で水深1mでの高さを求め、これを沿岸での津波の高さとしています。

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<予報区ごとの警報・注意報の作成>

気象庁は、津波警報・注意報を発表すると、全国の沿岸を66に分けた津波予報区ごとに、予想される津波の高さと到達予想時刻をお知らせしています。これらの津波予報区は、地形により異なる津波の現れ方の特徴を調査した上で、警報・注意報が発表されたときの自治体などの関係防災機関での緊急対応も考慮して設定されています。

■予報区での津波の高さ

予報区に対する津波警報・注意報では、予報区内にある複数地点における津波の高さの予測値のうち、その中でいちばん高い値に基づき、「大津波」、「津波」、「津波注意」を判定し、その最大の高さを併せて発表しています。個々の地点の津波高さ推定には、上述「津波の高さの予測」の方法に基づき、沿岸から15km程度沖合いに離れた点(予測点)までの津波シミュレーション計算結果にグリーンの法則を適用して沿岸での高さに換算したものを用います。

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■予報区への津波の到達時刻

水深の浅い沿岸付近では津波の到達予想時刻についても計算誤差が大きくなります。そこで、シミュレーションで得られる沖合いの予測点での到達時刻に、そこから沿岸まで津波が伝播する時間を加えることにより、予報区に対する津波到達時刻を算出しています。このとき、重力加速度をg、水深をhとして、津波は√ghの速さで海を伝わることを利用します。予報区への到達予想時刻の求め方は以下のとおりです。

(1)予測地点周辺の水深データから、予測地点からの伝播時間が等しい地点を結ぶ。

(2)(1)を繰り返すことにより、津波の伝播図が作成される。

(3)津波伝播図から、予測地点から沿岸までの津波の伝播時間を読み取ることができる。

(4) 予報区内の全ての予測点について、沿岸までの到達予想時刻を求め、そのうち最も早いものを予報区への到達予想時刻とする。

なお、検潮所までの到達予想時刻については、各検潮所から津波の波源までの伝播時間を求め、発表に用いています。

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<過去の津波記録との比較>

以上のようにして作成した津波予報データベースを使って、過去の津波の観測値と予測値とを比較してみます。これまでに津波を観測した139事例について津波の高さをみると、検潮所での観測値とデータベースの予測値との比の平均は1.2程度となり、平均的には観測値を良く再現するものとなりました。一方、津波警報・注意報で発表される津波予報区に対する予測値は、予報区内での最大の予測値を採用しているため、観測(<予報区での津波の高さ>参照)値に比べると平均して1.8倍程度になっています。

ただし、津波は、局所的な地形の影響で高さが大きく変わる性質があるため、場合によっては、津波警報や注意報でお伝えする津波の予想高さよりも大きな津波になることもあり得ます。津波警報が発表されたら直ちに高台に避難する、注意報が発表されたら直ちに海岸から離れることが肝要です。

<津波警報・注意報の発表>

■迅速な津波警報・注意報の必要性

日本では、海岸付近で発生した地震により、地震発生後のわずかな時間ですぐに津波が来襲することがあります。平成5年(1993年)北海道南西沖地震では、最も早いところでは地震発生後数分もかからず海岸に津波が到達したといわれています。このような津波の危険から一刻も早く避難いただくために、津波警報・注意報は1秒でも早く発表する必要があります。

気象庁では、地震が発生してから約3分(一部の地震※については最速2分程度)を目標に津波警報・注意報を発表します。

■迅速に発表する津波警報・注意報とその限界について

精度の高い津波予測を行うためには、海底の地殻変動によって生じる海面の変動の様子を把握し、その後の波の伝播を数値シミュレーションによって計算する必要があります。しかし、上記のように地震発生後2、3分程度という非常にわずかな時間で津波警報・注意報を発表するため、以下のような技術的な限界があります。

(1)津波による海面の変動を精度良くリアルタイムで観測する方法がないこと

津波を予測するためには、津波による海面の変動の様子をリアルタイムで精度良く把握することが必要ですが、それを満たすような観測方法は現在のところありません。このため、気象庁では、以下の方法を用いて海面の変動を推測しています。

(a)地震波を観測して海底下で発生した地震の震源と規模(マグニチュード)を求める

(b)(a)から海底下で生じた断層の大きさや断層のずれの大きさを推定する

(c)(b)から海底の地殻変動(どのように隆起・沈降するかやその大きさ、範囲)を推定する

(d)(c)から海面の変動の様子を推測する

(2)海域で発生した地震の深さの推定精度

さらに、海域で発生した地震が津波を発生させるかどうかには、震源の深さが大きく影響します。震源が浅いほど、断層のずれによる海底の地殻変動が大きくなり、津波が発生しやすくなるからです。

一方で、震源の深さの決定精度は、地震の観測網から離れれば離れるほど低下する(地震計が震源を取り囲んでいれば精度が高い)性質があります。このため、海域の地震は、陸から離れるほど震源精度が低下します。気象庁では、震源が深く求まるような海域では震源を浅く仮定するようにしています。

また、津波警報・注意報を2、3分程度で発表するという時間的制約のために、以下の技術的な限界もあります。

(3)巨大地震の断層の位置、ずれる方向及び地震の規模(マグニチュード)を2、3では求められないこと

マグニチュード8を超えるような巨大地震の場合、断層のずれ自体が長い時間(数分以上)かけて起こります(例えば、平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震は約3分程度でした)。このような地震の場合は、断層のずれが終了する前に津波警報・注意報の判断を行う必要があります。また、地震の規模(マグニチュード)を精度良く求める方法として、CMT解析やW-phase解析がありますが、これらの解析のためには地震波検知から少なくとも10分程度以上の波形が必要であり、2、3分で求めることはできません。

このため、気象庁の津波予報データベースでは、津波をもっとも発生させやすい傾斜角45度、すべり角90度の逆断層を仮定しています。また、断層の走向は海溝軸に沿う方向とし、付近に海溝軸がない場合は海岸線に沿った方向を設定しています。断層の長さ、幅、ずれる量(すべり量)はマグニチュードから経験式を用いて求めています。

特に沿岸に近い場所で地震が発生した場合、津波を小さく予測しないように、考えうる様々な断層による津波の予測値の中から最大のものを津波警報・注意報に用いています。

■震源が日本の沿岸から離れている場合

震源が日本の沿岸から離れれば離れるほど、陸上にある国内の地震観測網だけでは震源やマグニチュードを精度良く推定することが困難になります。このような場合には、全世界の地震観測データを解析することが必要になり、その結果津波警報・注意報の発表に通常より時間がかかることもあります。もちろん、このような作業は、津波が沿岸へ到達するまで十分な時間の猶予がある場合に限ります。

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横ずれ型の断層の場合は津波が発生しにくくなるが、2、3分では判別することはできない。

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震源は断層のずれが最初に始まる位置を示している。断層のずれる方向はどちらに向かうかわからないため、特に沿岸付近で発生する地震に対しては、震源から考えられる断層をすべて検索して津波予測を行う。

<津波警報・注意報の発表>

津波は予想される規模によって下記のように注意報・警報が発表されます。

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地震と津波の情報はセットで発表されます。

例えば、 震度3以上の地震が発生した場合には、テレビやラジオを通して震度速報が発表されます。そこから津波災害が生じる可能性があると判断された場合は上記の注意報・警報などが発表されますが、津波災害が生じる可能性が無い場合でも「津波の心配なし」と発表されます。

また、海面の変動が考えられる場合には「若干の海面変動」などが発表されます。

<津波警報・注意報の切替、解除>

気象庁では、津波警報・注意報を発表した後も分析を続け、断層についての詳細が分かった時点で津波を予測し直します。その結果、最初の警報・注意報よりも津波が小さい、あるいは発生しない可能性が高いことが確認できれば、警報・注意報の切り替えや解除を行います。また、実際に津波が観測された場合など、逐次得られる観測データに基づいて、津波警報・注意報の更新を行います。

次回は「津波」シリーズの最終回として、「大津波への備え」について、お話をさせていただきます。

<参考・引用資料>

「気象庁」ホームページ

「ウィキペディア」フリー百科事典