先月までの「地球の科学と自然災害」シリーズの後を受けて、今月から新シリーズ「おもしろい宇宙の科学」をスタートさせます。
私たちが住んでいる地球は大宇宙の中の無数の星の一つに過ぎません。すでに天文に興味をお持ちの方や専門家は別としまして、多くの皆さんは「宇宙」について知りたいけれどもじっくり調べたことはないのではありませんか?・・・・そこで、今回「宇宙の科学」の基礎部分を皆さんとご一緒に勉強することによって何か「新しい発見」をしてみたいと思います。また、宇宙の謎を少しでも知ることによって「宇宙の存在」「人間の存在」とは何か考える手がかりを掴めるかもしれません。さらに、弊社はもちろんですが、読者の皆さんも日常的に興味をお持ちの「磁気の力」も宇宙の構成に重要な役割を果たしているらしいので、この分野からもおもしろい勉強ができそうです。
[宇宙の姿-1]宇宙と地球の境界線(カーマン・ライン)
まず最初に、地球から見て宇宙はどこから始まっているのかというお話になります。
カーマン・ラインは、海抜高度100kmに引かれた仮想のラインです。国際航空連盟によって定められ、このラインを超えた先が宇宙空間、この高度以下は地球の大気圏と定義されます。この高度に達した人工物および人間が宇宙飛行を行ったと認定され、別名カルマン線とも言います。
厳密には地球の大気圏に明確な縁はなく、大気圏は高度が上がるほど希薄になり、その層の重なりは様々に分類されています。このため、宇宙空間との境界線については分類方法によって非常に異なり、熱圏や外気圏をも大気圏に含めるならば、宇宙空間との境界線は海抜高度1万kmまで跳ね上がります。
1950年代に宇宙開発(宇宙航空学の研究)が開始されたとき、地球大気圏を脱出するための軌道速度として宇宙速度が計算されましたが、このときにおおよその宇宙との境界線として海抜高度100kmが設定され、計算に使用されました。厳密にはその距離は100kmちょうどではなかったようですが、様々なパラメータや状況、要素によって常に完全に一致しないことを理由にカーマン・ラインを宇宙空間との境界線とすることを提案し、国際委員会は国際航空連盟(FAI)にこれを推薦しました。
その後この提案は採用され、現在に至るまでカーマン・ラインは様々な目的のために使用される宇宙空間との境界線の定義として活用されています。
[宇宙の姿-2]宇宙の誕生
まずは基本的な問いかけで、宇宙には始まりがあるとすると「なぜ始まったのか?」と聞きたくなります。そして、その前は何だったのかと聞きたくなります。「神様なし」でこのような禅問答を避けるには、A.始まりも終わりもなくずっと同じ状態のまま、B.無限に輪廻転生を繰り返す・・・のどちらかだと考えたほうがずっとすっきりします。つまり、哲学的には「宇宙に始まりはない」あるいは宗教的には「創造主がいる」ことにしないと面倒なようです。
今から100年ほど前まで宇宙は「始まりなどなく永遠に変化せずに存在し続けるもの」と考えられていました。当時、宇宙が誕生するという考え方は科学とは逆行する宗教的な発想とされ、柔軟に物事を捉えていた天才学者アインシュタインでさえ「宇宙の始まり」など馬鹿らしいと考えていたといわれています。しかし、観測技術の向上とビッグバン理論の提唱により「宇宙には始まりがあった」とする考え方は次第に認められるようになってゆき、やがて科学的な宇宙の誕生理論が形成されました。
[宇宙の姿-3]インフレーションとビックバン
宇宙誕生を解明するのは難しいことです。今わかっていることは、宇宙は生まれてからすぐに、ほんの一瞬で大きく膨張したことです(「インフレーション宇宙」と呼ばれています)。そしてすぐ、高温・高密度のエネルギーの塊のような「ビッグバン」や「火の玉宇宙」と呼ばれている状態に変化したのです。この詳細な過程は次のようなものです。
まずビッグバンの前に、空間も時間も存在しない「無」の状態があり、そこに発生した真空エネルギーが「量子ゆらぎ」を起こしたことで、138億年前に最初の宇宙が生まれました。この理論は、アメリカの物理学者アラン・ダースと佐藤勝彦東京大学名誉教授が最初に提唱したものです。
誕生後間もない宇宙、それは10のマイナス34乗センチメートルという極小の世界でした。それが、誕生後10のマイナス36乗秒から10のマイナス34乗秒後の間に、10の100乗倍の大きさに一気に膨張する。これが宇宙のインフレーションです。
インフレーションを起こした宇宙は、直後にビッグバンを起こします。ビッグバン直後の宇宙は100兆から1000兆℃という高温状態で、物質は素粒子の形でしか存在できません。宇宙誕生から1万分の1秒後になると、温度は1兆℃まで下がり、素粒子は互いに結びついて陽子や中性子になりました。
宇宙誕生から3分後、温度が10億℃ほどになると、陽子と中性子が結びついて原子核が生まれます。この原子核が電子を捕まえて原子が生まれるのは、宇宙誕生後38万年ほど経過し、宇宙の温度が3000℃まで下がったころです。
電子が原子核と結びついたことで、光子は電子に邪魔されず直進できるようになる。これにより宇宙に光が満ちあふれますが、これを「宇宙の晴れ上がり」と呼んでいます。
そして、宇宙誕生からおよそ4億年が経過したころ、星や銀河が形成されるようになり、ようやく私たちのよく知る宇宙の姿が現れました。
[宇宙の姿-4]ビッグバンの痕跡
1922年、アメリカの天文学者エドウィン・ハッブルは、銀河を観測しているうちに、別の銀河にある星が赤方偏移している(そのスペクトルが長波長側にずれる=赤色側にずれる)、つまり遠ざかっていることを発見しました。また、遠い銀河ほど遠ざかるスピードが速いことがわかり、宇宙が膨張していることを証明したのです。のちに、アインシュタインはハッブルが勤めていたウィルソン山天文台を訪問し、観測データを見て、「定常宇宙論」を捨てたといわれています。
宇宙の膨張を発見したハッブルの観測結果以外にも、ビッグバンの証拠が見つかっています。1965年に、宇宙のあらゆる方向から電磁波の一種であるマイクロ波が飛んでくることが確認されました。これを「宇宙背景放射」(あるいは「宇宙マイクロ波背景放射」)と呼びます。このとき捉えられたマイクロ波の温度は、絶対温度で3K、つまり約マイナス270℃でした。このことから、宇宙は誕生時の138億年前は非常に高温でしたが、膨張していくにつれて3Kまで温度が下がったと考えられるため、これがビッグバン宇宙論の根拠とされたのです。おそらく今後も、ビッグバン宇宙論にはさまざまな修正が加えられていくことになるでしょうが、ビッグバンの存在そのものが否定される可能性はほとんどないでしょう。
[宇宙の姿-5]宇宙の果て
『果て』と『端』の違いとは?
「宇宙の果て」について考える前に、地球上での「果て」について考えてみましょう。たとえば、「日本の北の果て」といえば北海道のことを思い浮かべる人が多いと思います。ですが、「日本の北の果て」の先にも別の土地があり、別の国があります。果てとは、(ある基準に基づいた)境界線(面)のことであり、そこから先に何もないという意味ではありません。
一方、「端」といった場合には、その先に何もない(行けない、見えない)ことを意味します。もし、地球が昔の人々が想像したように平板であったなら、ひとつの方向に向かって歩いていけば必ず端に到達するでしょう。しかし、地球は球であり、ひとつの方向に延々と歩いたとしても、端に到達することはありません。宇宙も同じで、果ては存在するが、端は存在しないのです。観測可能な範囲が『宇宙の果て』、仮に、望遠鏡で10億光年先の銀河を観測したとしましょう。観測者が見たその光は、10億年かけて地球に届いた光であり、観測者が見ている銀河の姿は10億年前のものなのです。もし、138億光年離れた場所の天体を観測できたとすれば、それは138億年前の光ということになります。宇宙が誕生したのは138億年前と考えられているので、観測した天体は宇宙の誕生直後にできた天体といえます。
では、138億光年よりもっと先を見ようとした場合にはどうなるでしょうか。そもそも138億年前には、まだ宇宙が存在していないのだから、何も見ることはできません。人類の技術がどんなに進歩したとしても、それより先は観測できない「観測の限界」であり、そこが「宇宙の果て」といえます。地球に当てはめて考えれば、自分が立っている場所から見渡しても、地平線(水平線)の先は見えません。そこが「観測の限界」であり、地平線までの距離を半径とする円の中が「観測可能な世界」となります。
また、観測者が移動すれば、観測可能な範囲も一緒に移動します。地上では平面ですが、宇宙において「観測可能な宇宙」は球状になります。ただし、宇宙は光速以上の速度で膨張していて、一点にとどまることはありません。138億光年離れた場所に見つけた天体は、138億年経過する間にさらに遠くへ、約470億光年離れた場所へ移動していると推計されています。したがって、地球を中心に半径約470億光年までの範囲が「宇宙の果て」となるのです。この距離についての詳細は「ハッブル定数」と言われている宇宙の膨張率から計算できるようですので、興味のある方は調べてみてください。
*以上が第一回目の「おもしろい宇宙の科学」でした。いきなりの宇宙の誕生、ビッグバン、宇宙の果てなどのお話で少々かたぐるしく感じられた読者も多いと思いますが、宇宙を知る上で通らねばならない勉強の過程ですので、もう少し頑張ってお付き合いください。
次回も「宇宙の姿-その2」で宇宙の様々な神秘・謎について引き続き勉強してゆきたいと思います。
<参考・引用資料>
「知識ゼロからの宇宙入門」渡部潤一、渡部好恵 、ネイチャープロ編集室 発行元:幻冬舎
「徹底図解 宇宙のしくみ」編集・発行元:新星出版社
「宇宙の秘密がわかる本」宇宙科学研究倶楽部 発行元:株式会社学研プラス
「excite blog」marifami.exblog.jp
「宇宙の始まりと終わり」2006年4月 日本大学文理学部 講義資料