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次世代自動車の検証(13)<EVのモーター(4)>

前回は、EVのモーター性能を左右する4要素について、下記の(1)~(3)までのお話をいたしました。

 

◇EVのモーター性能を左右する4要素(前月号参照)

(1) ステーターコイルの磁界の大きさ(電流の大きさ)(全交流モーター)

(2) ローターの磁界の大きさ

・永久磁石の磁界:永久磁石界磁型同期モーター(IPM/IPMSynRM)

・電磁石の磁界:巻き線界磁型同期モーター(WFSM)

(3) ステーターとローターの磁界同士の角度差(全交流同期モーター)

(4) リラクタンストルクの大きさ(SRM/IPMSynRM)

 

今月はその4要素の中で前回お話ができなかった“(4)リラクタンストルクの大きさ”を中心に、“磁石との合成トルク”や“弱め界磁制御”などについてご紹介いたします。

 

(注)本稿では引き続き、国内の刊行物、ウェブ情報などの採用頻度からハイブリッド車はHV、プラグインハイブリッド車はPHEV(トヨタはPHV)、純電気自動車はEVと記述いたします。

 

[EVのモーター(4)-1]モーターの合成トルク増加と高回転化

モーターのリラクタンストルクは純粋なリラクタンスモーター(SRM/SynRM)ではできるだけ大きな値が有利ですが、磁石内部配置型同期リラクタンスモーター(IPMSynRM)では磁石トルクとリラクタンストルクの合成トルクの大きさだけではなく、両者のトルクバランスが重要な技術要素となってきます。

 

<永久磁石による逆起電力発生>

交流同期モーターのようにローターに永久磁石を用いるモーターには、回転が上がるにつれてステーターコイルに逆向きの誘起電圧(逆起電力:バックEMF)が発生する不都合な現象が現れます。これはモーターとして作動すると同時に発電機としても作動してしまうことを意味します。

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前図が示していますように、この働きで生じた逆起電力はモーター本来の駆動を妨げ、回転にブレーキをかけます。永久磁石の磁束は一定なので、回転数が上昇するに従い磁束によって生まれる逆向きの誘起電圧は増加していきます。そしてある領域に入ると、モーターの印加電圧とつり合うようになり、モーターに電流が流れるのを妨げて回転を頭打ちにします。逆起電力は永久磁石がつくる磁界の強さが強くなるほど大きくなります。

 

以上の説明からお分かりになると思いますが、多くのEVやHVで搭載されているIPMSynRMでは、総トルクはできるだけ大きくしながら、回転数を上げるために逆起電力をできるだけ小さくするための最新のローター設計技術が導入されています。つまり、必要な合成トルクを確保しながら、できる限り磁石によるトルクよりリラクタンストルクの比率を高くするローターの磁気回路が開発されてきています。

 

<プリウスのリラクタンストルク>

次図はリラクタンストルクが出現しないSPMSynRMとリラクタンストルクが出現する2種類のIPMSynRMのトルク曲線比較したグラフです。このグラフは実測値ではなく、あくまで永久磁石型ローターの磁気回路の相違による合成トルクとモーターの回転数の関係をイメージしたものとお考えください。なお、磁石トルクは各モーターともに同等と仮定して作図し、また、トルク曲線は後の章でお話をする「弱め界磁制御」の効果も含んでいるとお考えください。

SPMSynRMについては、現在のEVでは実用化されていないと思われますので、あくまで仮想モーターとしました。

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2種類のIPMSynRMはHVのトヨタ・プリウス初代と第4世代のモーターを例に挙げてみました。プリウスのモーターはHV用のため、モーターサイズ、出力、トルクはEVのモーターに比べて小さいのですが、基本の技術要素はEV用と類似していますので、IPMSynRMの代表例として取り上げてみました。特に第4世代モーター(1MN型)はプリウスHVとPHVの両モデルに搭載されています。

参考に、前図で示した初代と第4世代のプリウスの実際の駆動モーターのスペックを、最高出力(kW)、コア体積(L)、最高回転数(rpm)、コイル種類の順に以下に記します。

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第4世代はリダクション(減速)機構を備えていたり、ステーターの巻線を平角線にして巻数を増やしてステーターの磁界を強くしたりしていますので単純に比較できませんが、ピーク性能でみれば初代と比較して最高出力は倍増していますが、体積は半減しています。つまり体積あたり出力でいうと4倍といえる大幅な進化を遂げています。さらに、最高回転数は3倍以上伸びています。

次図は5月号にも掲載したグラフですが、モーターの合成トルクが上昇しているだけでなく、リラクタンストルクの比率が70%と大幅に増加しています。さらに驚くべきことは、ネオジム磁石の量は逆に50%に減少したということです。

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<テスラ・モデル3のリラクタンストルク>

ここで、EVの代表格であるテスラ・モデル3のモーターをリラクタンストルクの面から考察してみましょう。最大出力は192kWですから、プリウスの約4倍の出力であり、モータートルクは430Nmでプリウスの163Nmの約3倍となり、EVですから当然ですが、HVのプリウスよりかなり大きなモーターを積んでいることになります。

モーターはプリウスと同様、IPMSynRMであり、モーターの最高回転数は第4世代プリウスとほぼ等しい値(17,900rpm)になっています。また、合成トルクの大きさは異なりますが、磁気回路はネオジム磁石の2分割6極構造になっていることから、磁石トルクとリラクタンストルクの比率は2分割8極のプリウスの第3世代に近い値(リラクタンストルク約60%)になっていると考えられます。

参考として、次表にモデル3と初代モデルSのモーター仕様を示しました。なお、下表の初代モデルSは籠型誘導モーターでしたが、現在のモデルSはモデル3と同じIPMSynRMに代わっているようです。

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[EVのモーター(4)-2]弱め界磁制御による高回転化

IPMSynRMのような永久磁石同期モーターでは逆起電力は永久磁石がつくる磁界の強さが強くなるほど大きくなるので、逆起電力を低減してモーターの回転数を上げるためには、前項のようにリラクタンストルクの比率を上げることも重要ですが、それだけでは足りません。そのためには磁石がつくる磁界とは逆向きの磁界ができるようにコイルに電流を流し、意図的に磁石の磁界を弱める制御をします。この制御を「弱め界磁制御」、「弱め磁束制御」、「Field Weakening Control」といいます。

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このように本来強いトルクを得ようとして強い磁界をつくった結果が高回転化を阻む要因になっています。そこであえて磁界を弱めて、トルクを減らしてでも高回転によって出力を稼ぐために制御します。ステーターコイルにどのようなタイミングでどれくらいの電流を流すかなど、実際の制御は単純ではありません。プリウスHV、PHVやテスラ・モデル3の最高回転数17,000rpmを得るにはこの技術が導入されています。

前項の「各種永久磁石型同期モーターのトルク曲線比較概念図」も、リラクタンストルクの比率上昇の効果だけではなく、弱め界磁制御を加えた結果を示しています。

 

[EVのモーター(4)-3]ステーター巻き線切換えによる高回転化

前章でお話をしましたように、永久磁石型同期方式モーターは交流電源の周波数に応じてステーターが作る回転磁界の速さに同期して回転します。また、回転磁界の速さは交流電源の周波数とステーターの極数によって決まります。極数が同じ場合、巻線数が多いと発生する電磁力が大きくなるので、低回転域から高トルクを発生させられます。しかし、回転数が高まるとローターの磁力線によって逆方向の電圧が発生し、回転数が制限されてしまうため、高回転化したい場合は、(1)低回転域での高トルクを諦めて巻線数を少なくする、(2)IPMSynRMによってリラクタンスの比率を上げる、(3)弱め界磁制御を行う、などの方法によって高回転化を図っています。

 

ここで、EVモーターの高回転化を目指す技術の中で、「ステーター側の巻き線(コイル)長を制御する」という前記各方法とは異なるユニークな方法がありますのでご紹介します。

モーターには高トルク型と高回転型があります。ステーターのコイルの巻き線を長くして強い界磁をつくるようにしたのが高トルク型で、巻き線を短めにして界磁を弱めにしたものは高回転型です。ステーターコイルの途中から導線を出し、巻き線長を長くあるいは短く使うか切り替え式にする方法があります。安川電機が開発してマツダが採用した「電子式巻線切替え制御」です。これによりモーター1個で低速域では高トルクを発揮しながら高速域でもよく回るモーターが実現できます。これも交流同期モーターの高回転化を図る手法のひとつです。

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このモーターはマツダの「プレマシーハイドロジェンREハイブリッド」に搭載されています。具体的には、インバーターにPWM(Pulse Width Modulation:パルス幅変調)制御を行なわせることで、巻線切替えを瞬時に行ないながら、駆動トルクの段付きや変動を感じさせないレベルを実現しています。

なお、「プレマシーハイドロジェンREハイブリッド」は、デュアルフューエル水素ロータリーエンジンを発電機として使うシリーズ・ハイブリッド車になります。

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しかしながら、現在のところ、いずれの方法も高回転領域のモータートルクの低下は最終的には防ぎきれていないのが現状です。ステーターの磁束密度の変化は高回転になるほど大きくなり、ステーターコアに渦電流を発生させることに変わりはありません。この渦電流は熱となって捨てられるため、ある程度の損失を増大させます。交流同期モーターは高速域では効率が低下する性質を基本的に持っていますので、それを今以上にどれだけ効率よくカバーできるかが、今後のIPMSynRMタイプのEVモーターのさらなる高性能化のための重要な鍵となるでしょう。

 


 

以上今月は、IPMSynRMの“合成トルクの増加”や高回転化のための“リラクタンストルクの比率増加、弱め界磁制御、巻き線切替え制御”などのお話をさせていただきました。次回も引き続き“EVのモーター(5)”の予定です。

 

<参考・引用資料>

・「トヨタ・プリウスの駆動モーター進化のポイントは「リラクタンストルク」」clicccar12th

https://clicccar.com/2017/12/03/536894/2/

・「Model 3 Vs Model S Motor」 Lesics 2021.11.28

https://www.youtube.com/watch?v=bNgB5z4MWRI

・「テスラモデル3のモーター‐その背後にある素晴らしい工学」Lesics 2021.04.06

https://www.youtube.com/watch?v=7z7aOIrZNW0

・「Tesla Model 3 Teardown: Motor, Inverter, and Battery」MARKLONES 2019.03.22

https://www.marklines.com/en/report_all/rep1830_201903

・「テスラモデル3から採用された新しいリラクタンスモーター」ELECTRIC LIFE 2022.04.19

https://electriclife.jp/ipmsynrmmotor/

・「マツダ“電子式巻線切替え機構”は、EVのVTECとなるか?」Motor-fan TECH 2020.10.17

https://car.motor-fan.jp/tech/10016816

・「YASKAWA MOTOR DRIVE SYSTEM:電子式巻線切替技術QMET-?」安川電機ホームページ 2014.10

https://www.yaskawa.co.jp/wp-content/uploads/2014/10/07f0a370bd011abd54a4e71505e95919.pdf

・「モーターの基礎と永久磁石シリーズ(1)~(10)」NeoMag通信バックナンバー

https://www.neomag.jp/mailmagazines/mailmag_index.html

・「電気自動車メカニズムの基礎知識」飯塚昭三 著 日刊工業新聞社

・「トコトンやさしい電気自動車の本」廣田幸嗣 著 日刊工業新聞社