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地球科学と生命の誕生・進化(7)<原生代の地球環境と生命活動(1)>

前章では、地球初期(46億年~40億年前)の「冥王代」では、酸素非発生型の光合成を行う原始微生物がすでに生命活動を開始していて、その後40億年~25億年前の「太古代」には酸素発生型の光合成バクテリアが出現して大気や海洋の組成を変えてゆき、地球生命の急速な進化が始まったことをお話させていただきました。

今月はさらに年代を進めて、25億年~5億年前の「原生代」の地球環境と生命活動についてお話をしたいと思います。ここで「地質時代」の時代区分を再度次図に示しましたので確認しておきましょう。

 

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[原生代の地球環境と生命活動(1)-1]大変動の時代・原生代

約25億年前から約5億万年前までの時代は「原生代」と呼ばれます。地球史の中頃から後半にかけて、地球史を大きく動かすような大規模な地球環境変動や生物の大進化か生じた時代になります。

まず、大きなイベントとしては地球全体が凍結する「全球凍結(スノーボールアース)」と呼ばれる現象で、原生代初期の約23億年前に「1回目の全球凍結」が起こり、原生代後期の約7億年前および約6億4000万年前に2回目、3回目が起こり、少なくとも3回生じたことが分かっています。

地球全体が凍結すれば、地表面から液体の水がなくなるため、生命にとって前例のない危機的状況が訪れたことは問違いありません。

 

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その次に重要な地球環境の激変は、原生代初期の約24憶5000万年前から約22億年前にかけて生じた、「大酸化イベント」と呼ばれる大気中の酸素濃度の急激な上昇でしょう。これ以前の地球は、海水中はもちろん大気中にも酸素がほとんど含まれていない「嫌気的」な環境でした。生物は嫌気的環境に適応進化した「メタン菌」のような嫌気性の微生物でしたが、それがこのときを境に、大気や海洋表層は現在の1000分の1から100分の1程度の酸素を含む「好気的」な環境となり、それまでの嫌気性生物は酸素のない深い海や堆積物の内部に追いやられることになります。そして、嫌気性生物に代わり、酸素を利用する好気性生物が繁栄することになります。

とりわけ、今から約20億年前ごろ、好気性生物などが細胞内共生することによって真核生物(細胞内に核などの細胞小器官を持つ生物)が出現したことは、生物進化史上きわめて重要なできごとでした。

大気中の酸素濃度は、原生代後期の約6億年前ごろにも上昇して、現在に近いレベルになったと考えられています。これを「原生代後期酸化イベント」と呼びます。このような地球環境の質的変化(酸化還元条件の変化)によって、生物進化史上のもう一つの大きなできごと、すなわち後生動物(多細胞動物)の出現がもたらされたと考えられています。動物は、顕生代に入ると爆発的に多様化して、大型化・複雑化し、現在の私たち人類の大繁栄につながっていきます。

不思議なことに、これら一連のできごと、すなわち「全球凍結(スノーボールアース)イベント」「大気中の酸素濃度の上昇」、そして「生物の大進化」は、原生代の初期と後期のそれぞれほぼ同時期に生じているようにも見え、これらの間には重大な関係があったのかもしれません。こうした意味において、原生代は地球史において特別な時代であったように思われます。

 

[原生代の地球環境と生命活動(1)-2]全球凍結(スノーボールアース)

「雪玉地球」というこのユニークなネーミングは、カリフォルニア工科大学教授・カーシュビンク(J. L. Kirschvink)博士によるものです。原生代末期(約6億年前)には地球の表面全体がほぼ完全に凍りついていたのではないか、という仮説で、「全球凍結仮説」とも呼ばれます。

原生代末期に大氷河時代が訪れたらしいことは、20世紀前半から知られていました。ところが,当時の赤道域に大陸氷床(大陸スケールの氷河で山岳氷河とは異なる)が存在していたという確実な証拠が得られました。それだけではなく、同じ時期には酸化鉄が大量に形成されています。これは地球史において約10億年ぶりの出来事になります。カーシュビンク博士は、地球全体が凍結したと考えればそうした「謎」が説明できることに気がつき、1992年にこの仮説を発表しました。

 

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全球凍結(スノーボールアース)の想像図

 

その後,氷河堆積物直後に熱帯性の炭酸塩岩(キャップカーボネート)が堆積しているという「謎」がクローズアップされました。しかも、キャップカーボネートに炭素同位体比の異常値が発見されました。ハーバード大学のホフマン(P. F. Hoffman)教授らは、これらは全球凍結直後の温暖化と生物活動の完全な停止を示す証拠である、とする論文を1998年にサイエンス誌に発表し、全球凍結仮説は一気にブレークしました。

 

その後、全球凍結は原生代末期だけではなく、前図の原生代のイベントの中で示したように、約23億年前、約7億年前、約6億5千万年前の少なくとも3回生じたらしいことがわかってきました。さらに、大気中の酸素濃度の増加や真核生物と多細胞動物の出現といった生物の大進化と因果関係があったのではないかと考えられるようになってきました。もし、これらの仮説が本当だとしたら、われわれがいるのも全球凍結のおかげということになります。

全球凍結の期間は、陸地は厚さ約3000mの氷河に覆われ、海も厚さ1000mの氷で閉ざされ、平均気温マイナス40℃の時代が数千万年ほど続いたと考えられています。その間、現生生物の共通祖先は凍らない深い海の底や火山周辺の地熱地帯などで細々と命をつなぎました。海の表面が氷で覆われたため、太陽光が入ってこなくなり、多くの生物が致命的な打撃を受けました。ほとんどの生物が死滅し、まさに大量絶滅が起こったのです。その証拠に、この間の地層には生物の化石は発見されていません。ところが、シアノバクテリアはこの氷河時代を生き抜き、酸素をつくり出していたのです。

このように、全球凍結は生物の生存にとっては最悪のように思われますが、生命の進化を促進したという重要な意味をもっています。なぜなら、次図のように、3回の各全球凍結後には、生物の進化を考える上で非常に重要な出来事が起こっているからです。

 

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原生代3回の全球凍結(スノーボールアース)

 

[原生代の地球環境と生命活動(1)-3]全球凍結の証拠の存在

<マクガニン氷河期>

この全球凍結は約23億年前(約23~22億2千万年前)に起こっていて、それは原核生物が真核生物に進化した直前にあたります。この頃の原生代初期は寒冷期として知られています。同時期の氷河作用の証拠は、カナダ、米国、南アフリカ、オーストラリア、北欧などに見られ、このうち南アフリカにおいては、最も若い氷河時代の堆積物(氷河性堆積物)が分布しています。「マクガニン氷河時代」と呼ばれるもので、ちょうど同時期に噴出した溶岩の年代測定によって、約22億2200万年前に生じたことが分かっています。また、古地磁気測定の結果、当時の南アフリカは低緯度の赤道域に位置していたことがわかっています。つまり、当時、大陸を広く覆う氷床が赤道域に存在していたことになります。

 

<スターチアン氷河期・マリノアン氷河期>

スターチアン氷河期は、約7億年前(約7億3千万年~7億年前)で、単細胞生物が多細胞生物に進化した直前でした。さらに、マリノアン氷河期は、約6億5千万年前(約6億5千万年前~6億3.5千万年前)で、このあとエディアカラ生物群といわれる生物の多様化・大型化が爆発しました。

これらの証拠は、アフリカのコンゴやザンビアのスターチアン氷河期地層、マリノアン氷河期地層等の分析で見つけられ、いずれも23億年前のマクガニン氷河期の地層のように、「低緯度氷床」地層として確認されました。

 

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コンゴとザンビアの氷河時代の地層

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対象地域の地層から採取された試料の柱状図

 

[原生代の地球環境と生命活動(1)-4]全球凍結からの脱出

全球凍結仮説は、赤道域に氷床が存在したことを説明できるだけでなく、地球全体が凍結しても、火山活動によって二酸化炭素が大気中に放出された結果、その温室効果により、全球凍結から抜け出したことを示しています。その際、二酸化炭素の濃度は2000年ほどかけて現在の400倍に達したとされ、気温も100℃ほど上昇して40℃程度になっていたと考えられています。

これらのイベントを考えると、凍った地球という過酷な環境にさらされたことが、生命の進化を促進するきっかけとなったようです。全球凍結や大量絶滅など過酷な環境変化の後には「大適応放散」というものが起きて、生物の多様性が増大するといわれています。氷に覆われていると多くの生物は絶滅しますが、一部で生き残った生物が新たな世界を生み出しました。

 

[原生代の地球環境と生命活動(1)-5]全球凍結の原因(1)-温室効果ガス説

前回の「冥王代、太古代における生命活動の開始」の章でお話をしましたが、約29億年前の太古代末期になると酸素発生型光合成を行う「シアノバクテリア」が出現し、大気中に遊離酸素を放出し始めたと考えられ、初期の地球大気に含まれていた温室効果ガスの「メタン」は、25億年前頃には酸化されて無くなっていました。

また、同じく温室効果ガスである「二酸化炭素」は、地球誕生時には0.1~10気圧相当の濃度で大量に存在していましたが、27億年前の大規模な火山活動と超大陸の成長により炭酸塩鉱物として地殻に固定され始め、徐々にその大気中の濃度を減少させてゆきました。

このようにして、メタンや二酸化炭素の温室効果の減少により地球全体の寒冷化が始まり、極地から次第に氷床が発達していきました。氷床が太陽光を反射したため一層の寒冷化を招いたともいわれています。また、一度加速した寒冷化は止まらず、最終的に厚さ約3000mにも及ぶ氷床が全地球を覆い、全球凍結に至りました。この状態は数億年~ 数千万年続いたとみられます。

凍結しなかった深海底や火山周辺の地熱地帯では、わずかながら生命活動が維持されていました。凍結中も火山活動による二酸化炭素の供給は続けられており、大気中の二酸化炭素濃度が再び高まっていきました。地表が凍結している間は岩石の風化も凍結状態でした。さらに、蓄積していたメタンハイドレートが分解して、再びメタンが大気中に放出され始めました。

凍結しなかった深海底や火山周辺の地熱地帯では、わずかながら生命活動が維持されていました。凍結中も火山活動による二酸化炭素の供給は続けられており、大気中の二酸化炭素濃度が再び高まっていきました。地表が凍結している間は岩石の風化も凍結状態でした。さらに、蓄積していたメタンハイドレートが分解して、再びメタンが大気中に放出され始めました。

 

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原生代における全球凍結・超温暖化スパイラル(nico-wisdom.comより)

 

[原生代の地球環境と生命活動(1)-6]全球凍結の原因(2)-銀河宇宙線説

23億年前、我々の太陽系を含む天の川銀河と矮小銀河の衝突が起き、爆発的な星形成(スターバースト)が始まりました。新たに誕生した星の中でも特に大きな星は数千年のうちに次々と超新星爆発を起こし、大量の宇宙線を放出しました。太陽系にも大量の宇宙線が飛来し、「ヘリオスフィア(太陽風が届く範囲)」は縮退しました。通常、地球はヘリオスフィアによって宇宙線の飛来から守られていますが、ヘリオスフィアの縮退によって、スターバーストによる宇宙線は、そのまま地球にも降り注ぎました。

 

地球に到達した宇宙線は雲核を生成しました。宇宙線が地球の大気圏に入ると、大気中に浮遊しているダストや塵と衝突し、それらをより小さく破砕します。それらが帯電することによって雲核(雲粒の核となる微粒子)となり、大量の雲を発生させたのです。

そのため地球は雲で覆われ、太陽のエネルギーは十分地表に届かなくなり、「スノーボールアース」と呼ばれる全球凍結状態に陥ったのです。

 

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銀河宇宙線のバリアとなる太陽風

 

大量の宇宙線の飛来が結果的に地球を雲で覆うことになり、全球凍結を招き、十分な太陽光が地表に届かなくなりました。その結果、太陽光を必要とするシアノバクテリアは大量絶滅を起こしました。しかし、火山の周辺の地熱地帯や氷のベールで守られた海洋の氷の下には、この厳しい環境に耐えた生命がわずかに存在していました。

太陽系は銀河系の中を移動しています。そして、地球は太陽を駆動力として、マントルから大気までを含む大規模なエネルギー物質循環系を持っています。そして、その中に「バイオスフィア(生物圈)」を形づくっています。生物圏や表層環境も含め、地球は宇宙の変動に大きく左右されます。地球と宇宙は深く結びつき、全体がひとつのシステムとして機能しているのです。

海の水は地球に降り注ぐ宇宙線の影響を緩和して生命を守るバリアの役割を果たしました。その海の中で生き延びたわずかな生命体(原核生物)は、全球凍結の中、長い年数を耐え抜きながら、さらなる進化の道をたどっていきました。

 

[原生代の地球環境と生命活動(1)-7]銀河宇宙線と雲の量

1997年、デンマークの研究者であるヘンリク・スベンスマルクは、人工衛星観測による雲量(高層雲、中屑雲、低層雲、および海洋地域と大陸地域)と宇宙線(主に銀河宇宙線)照射量の年次変化(1982~97年)の相関係数を基に、地球平均気温は、地球表層の3分の2覆う海洋地域の低層雲のうち、赤道地域の雲量変化によって決まり、雲量1%の変化が約1℃に対応するという結論を導きました。

スベンスマルクによると、大気圏に漂う火山灰や地表から舞い上がる鉱物の塵や高分子有機物が高エネルギーの宇宙線によって小さく粉砕され、プラスやマイナスに帯電した微細な粒子「エアロゾル」になると、これらが「凝結核」となり雲をつくります。また、大気中の主要な温暖化ガスである水蒸気もイオン化して核を作り出し、極小サイズの固体となって雲になります。

大気中に長時間にわたってとどまる雲が太陽からの入射光を抑えて、太陽光の反射率を上昇させるので地球が寒くなります。つまり、雲量は地球に入る宇宙線照射量に依存するということになります。

そこで、スベンスマルクは、宇宙線量の年次変化と雲量の年次変化の間に正の相関関係があることから、雲核形成と宇宙線量の関係を解釈するプロセスモデルを提唱したのです。

 

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宇宙線強度と雲量のはっきりとした相関関係(Svensmark 2007年)

 

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スベンスマルクが提唱した“宇宙線が地球上の雲を形成するメカニズム”

 

それではなぜ全球凍結を起こすような大量の宇宙線が何回も地球を襲ったのでしょうか?

国立天文台の辻本等は、「太陽系は誕生以来、銀河内で軌道変化をたびたび起こして移動している。大質量星が多く存在し、星形成(スターバースト)、超新星爆発などによる宇宙線を含めた高エネルギー粒子が飛び交う環境である「銀河内の渦状腕」を太陽系が通過するたびに大量の宇宙線の洗礼を受ける。もちろん、地球も例外ではなく、そのつど大量の宇宙線により地球は雲に覆われ寒冷化してきた。その極端な場合が全球凍結である。」という仮説を発表しています(参照:Web資料)。

 


 

今月は「原生代の地球環境と生命活動(1)」として、主に「全球凍結」についてお話をしました。全球凍結だけでなく、過去の多くの氷期を温室効果ガスだけで説明するとしたら少し無理があるかもしれません。現在の「地球温暖化問題」も含めて、太陽や銀河・宇宙とのかかわりを要因として考えることの方が自然なような気がしますが、読者の皆様の感想はいかがでしょうか?

次回は引き続き「原生代の地球環境と生命活動(2)」を予定しています。

 

<参考・引用資料>

◆Web

・「スノーボールアース」東京大学 大学院理学研究科理学部 ホームページ 田近英一

https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/story/newsletter/keywords/08/03.html

・「地球史における大気酸素濃度の変遷と生物進化」田近英一 東京大学 特別講演 Vol24.No.1,2022

https://www.jstage.jst.go.jp/article/medicalgases/24/1/24_1/_pdf

・「【生物の変遷と進化】第5回 全球凍結」Amebaブログ(奈良の鹿たち) 2020.06.10

https://ameblo.jp/narapapi/entry-12606951879.html

・「マリノアン氷河時代は1200万年間続いた」岐阜大学教育学部理科教育講座(地学)データベース

http://www.ha.shotoku.ac.jp/~kawa/News_chikyuh/050520-1/index.html

・「地球惑星7つの秘密」nico-wisdom.com

http://zuien238.sakura.ne.jp/newfolder1/earth 7seacret.html

・「太陽系の銀河内軌道変化と地球の寒冷化」辻本拓司(国立天文台)ニュートリノ研究会 2021.01.07

https://www.lowbg.org/ugap/ws/sn2021/slides/802tsujimoto.pdf

・「スノーボールアース」ウィキペディア

◆書籍

・「地球と生命の誕生と進化」 丸山茂徳 著 発行元:清水書院

・「46億年の地球史」 田近英一 著 発行元:三笠書房

・「地球生命誕生の謎」ガルゴー他 著 発行元:西村書店

・「地球・惑星・生命」日本地球惑星科学連合 編 東京大学出版会

・「生物はなぜ誕生したのか」ピーターウォード、他 河出書房新社

・「生命の起源はどこまでわかったか-深海と宇宙から迫る」高井 研 編 岩波書店

・「“不機嫌な”太陽-気候変動のもうひとつのシナリオ」H スベンスマルク 、N コールター (著)、 桜井邦朋 (監修, 読み手)、青山洋 (翻訳)