希土類磁石(ネオジム(ネオジウム)磁石、サマコバ磁石)、フェライト磁石、アルニコ磁石、など磁石マグネット製品の特注製作・在庫販売

地球科学と生命の誕生・進化(15)<新生代の地球環境と生命活動(1)>

前月は、1億4500万年前~6600万年前の「中生代末期(白亜紀)の天体衝突と寒冷化による恐竜の絶 滅」について、種々の学説を含めて調べてみました。その結果、「恐竜絶滅の原因は、約6600万年前に 小惑星帯から飛来した直径60kmあまりの小惑星か大隕石がメキシコのユカタン半島に衝突したことによ る寒冷化である」という学説が有力なことがわかりました。ただし、この衝突だけでは長い年月の寒冷 化は十分説明できず、衝突の時代と前後して、「太陽系の暗黒星雲との衝突で大量の銀河宇宙線が降り 注いだことも原因の一つである」という天体衝突体説を補完する新説も調べました。さらに、「大規模 な火山爆発説」、「天体衝突後の酸性雨説」、「火山爆発による酸性雨説」などもご紹介いたしました。

今月からは「人類」の誕生直前と誕生後の時代「新生代」について調べていきましょう。まずは、新 生代前期の「古第三紀」が中心ですが、一部は中期以降の「新第三紀」を含むお話になります。

 

image20240101

顕生代の代区分と紀区分の関係(NeoMag作成)

 

ここで、新生代の紀区分を細かく見てみましょう。新生代(約6600万年前~現在)は、「古第三紀」 と「新第三紀」、そして「第四紀」に区分されます。古第三紀(約6600万~約2300万年前)はさらに 「暁新世」、「始新世」、「漸新世」の三つ、新第三紀(約2300万~258万年前)は「中新世」と「鮮新世」 の二つ、第四紀(約258万年前~現在)は「更新世」と「完新世」の2つに区分されています。現在は 新生代の最後、第四紀完新世ということになります。

 

[新生代の地球環境と生命活動(1)-1]新生代・古第三紀の動物

新生代の最初の時代である暁新世においては、恐竜の生き残りである鳥類が繁栄しました。とりわけ、 翼が退化し地上生活に適応した大型の「恐鳥類」は、「小型獣脚類」が占めていた生態的地位(ニッチ) を引き継ぎました。北米大陸やヨーロッパでは、体長2メートル、体重200キログラム以上にも及ぶ 「ガストルニス(ディアトリマ)」が、陸上生態系の頂点に立ちました。頭部が40センチメートルもあ り、鉤型に曲がった鋭いくちばしで、哺乳類を捕食していたようです。哺乳煩は、暁新世初めはまだ小 型のものが多かったようですが、暁新世から始新世にかけて多様化し、さらに漸新世になると現在みら れる多くの種が出現しました。

 

image20240102

代表的な新生代初期(古第三紀)の動物

 

[新生代の地球環境と生命活動(1)-2]温暖化から寒冷化へ

まさにその暁新世から始新世にかけて、中生代の白亜紀半ばに匹敵する気候の温暖化が生じたことが 知られており、二酸化炭素濃度は、現在の4~5倍程度にまで増加したと推定されています。白亜紀同 様、高緯度の極域まで温暖化したらしい証拠が残されていて、現在とはまったく異なる気候状態にあっ たことが分かります。その温暖化の途上で、現代の地球温暖化とよく似たできごとが生じました。

今から約5600万年前、「暁新世/始新世温暖極大(PETM)」という突発的な温暖化イベントが生じたの です。次図内でも示しましたが、その様子が、海水の酸素および炭素の同位体比の変化として海底堆積 物中に記録されています。それによると、温暖化は約1~2万年というごく短期間で進行し、全球平均 気温が10℃近く、海洋の深層水温が5℃程度も上昇しました。

海水の炭素同位体比の変動は軽い炭素(炭素12)の過剰な流人を示唆していて、変化の速さから見て、 海底堆積物中に存在していたメタンハイドレートが分解し、軽い炭素同位体比を持つメタンが大気中に 大量にもたらされたことにより、このような急速な温暖化か生じたのではないか、と考えられています。

 

image20240103

6.7 億年前からの酸素同位体比の測定による海水温の変遷

(Westerhold, T., et al. 2020 *NeoMag が一部編集)

 

このイベントによって、「底生生物」の多くの種が絶滅したことも知られています。急速な温暖化に よって何が生じるのかについて、この温暖化イベントを詳しく調べることは、現代の地球温暖化問題を 理解することにつながるものと考えられ、研究者の注目を集めています。

新生代初期の温暖化は、始新世の約5000万年前がピークで、その後は寒冷化に転じます。そして、南 極大陸に氷床が形成され、現在へとつながる新生代の氷河時代が訪れました。

 

[新生代の地球環境と生命活動(1)-3]地球の大規模造山運動

白亜紀に「アフリカ大陸」から分裂した「インド亜大陸」は、インドプレートに乗って年間15~20セ ンチメートルという非常に速い速度で北上し、5000万年ほど前に「ユーラシア大陸」に衝突しました。 インド亜大陸はユーラシア大陸と衝突することで動きが遅くはなったものの、現在もなお北上し続けて います。沈み込んでいるプレートに引きずられて、インド亜大陸はユーラシア大陸の下に沈み込もうと しますが、大陸地殻は軽いために海洋地殻のようには沈み込むことができません。その結果、北側のユ ーラシア大陸が浮力によって大規模に隆起して、ヒマラヤ山脈やチベット高原が形成されました。大陸 同士の衝突によって、巨人な山脈が形成されることを、「造山運動」と呼びます。

「ヒマラヤ山脈」は、東西2400キロメートルにも及び、大ヒマラヤ、小ヒマラヤ、外ヒマラヤと呼ば れる3つの平行に走る山脈からなります。このうち一番北側の大ヒマラヤに、現在地球上で最も高いエ ベレスト(標高8844メートル)を含めて、8000メートル級の山々が14峰もそびえ立っています。さら に、ヒマラヤ山脈の北側には広大なチベット高原が広がっています。平均標高4500メートル、東西2000 キロメートル、南北1200キロメートルにも及ぶ、世界最大級の高原です。

新生代には、インド亜大陸とユーラシア大陸だけでなく、アフリカ大陸も「ヨーロッパ大陸」に衝突 しました。この結果、「アルプス山脈」が形成されました。これら一連の造山運動によってテチス海は 消滅し、テチス海の堆積物は大規模に隆起することになりました。ヒマラヤ山脈を構成している岩石か ら、アンモナイトをはじめとする海生動物の化石が見つかるのはこのためです。

ヒマラヤ山脈やアルプス山脈はひとつながりの造山帯であるともいえ、「アルプス・ヒマラヤ造山帯」 と呼ばれます。現在の地球上には、もう一つ、北米大陸の「ロッキー山脈」や南米大陸の「アンデス山 脈」を含む「環太平洋造山帶」があります。

 

image20240104

世界の2大造山帯

 

こうした大山脈を形成する造山運動は、過去においても繰り返し生じてきたものです。例えば、5億 年前の古生代前期においては、北米大陸に見られるアパラチア山脈、スカンジナビア半島からイギリス のスコットランド地方にかけて分布するカレドニア山地などが一連の造山運動によって形成されました。 その後、古生代後期にはパンゲア大陸を形成する過程でロシアのウラル山脈などが造山運動によって形 成され、これらの山脈はその後の長い年月にわたる浸食作用によって、現在では標高の低い山脈やなだ らかな丘陵地に変わっています。ヒマラヤ造山運動によって高い山脈が形成されると、大規模な浸食作 用が生じます。それによって気候の寒冷化か生じたとする仮説も提唱されています。

 

image20240105

古第三紀の大陸配置:6600万年前~2300万年前

image20240106

新第三紀の大陸配置:2300万年前~260万年前

 

[新生代の地球環境と生命活動(1)-4]新生代の寒冷化の推移

新生代初期の温暖化が終わると、地球は寒冷化に向かいます。そして、約4300万年前ごろには南極大 陸に氷床が形成されたと考えられています。新生代の氷河時代の始まりです。「南極氷床」は、始新世 /漸新世境界(約3400万年前)に大きく発達したらしいことが分かっています。

この時期には、「南極大陸」「オーストラリア大陸」が分裂して「タスマニア海峡」が形成され、 さらに南極大陸と南米大陸が分裂して「ドレーク海峡」が形成されたことによって、南極大陸の周りを 流れる「南極環流」が成立しました。この結果、南極大陸が中低緯度地域から熱的に孤立して、南極大 陸の寒冷化か進んだのではないかとする説があります。

その後、地球の寒冷化はさらに進み、今から約2400万年前には、世界中の海水準の低下が生じ、南極 の気候がさらに寒冷化したことが知られています。そして、約1000万年前の中新世後期には、南極氷床 は現在の規模をしのぐほどにまで発達したらしいといわれています。そして、今から258万年前の第四 紀になると、寒冷化がさらに進み、北半球にも大きな氷床が形成され始めたと考えられています。

 

image20240107

7000万年前からの深層水などの変動

(総合講義「気候変動の科学」北海道大学)

 

[新生代の地球環境と生命活動(1)-5]新生代の寒冷化の原因

また、新生代の寒冷化は、大気や海洋による熱輸送の変化のほか、温室効果ガスである大気中の二酸 化炭素濃度の低下が関係していると考えられています。大気中の二酸化炭素濃度の低下の原因には色々 な要因がありますが、その一つが前述の造山運動との関係です。

新生代に生じたヒマラヤ山脈およびチベット高原の隆起によって、大規模な浸食が生じ始めました。 これによって、この地域の「化学風化効率」が増大することになります。

しかし、地球全体で見ると、火山活動などによる二酸化炭素の供給は、化学風化とそれに伴う炭酸塩 の沈殿などによる二酸化炭素の消費と常につり合っていなければなりません。つまり、プレート活動の 低下による火山活動の低下、造山運動での地表面風化による炭素固定、もしくはその両方が起これば大 気中の二酸化炭素濃度が低下して、地球全体が寒冷化します。

ヒマラヤ・チベット地域の化学風化率は高い「浸食率」のために他の地域と比べて増大していますが、 寒冷化によって他の地域の化学風化率が低下することによって、地球全体で見ると二酸化炭素の拱給率 とつり合いを保てることになります。すなわち、造山運動が生じることによって気候の寒冷化がもたら された、ということになります。新生代の寒冷化は、ヒマラヤ・チベット地域の隆起による結果かもし れないというこの仮説は、浸食率と化学風化率との関係がカギを握っており、現在研究が進められてい るところです。もしこれが本当だとしたら、過去の寒冷化についても、当時の造山運動が関係していた ということになるのかもしれませんが、はたしてどうでしょうか。

 

image20240108

岩石圏まで含む炭素循環

(総合講義「気候変動の科学」北海道大学)

 

次図は古生代~新生代の温暖化・寒冷化サイクルと二酸化炭素濃度のグラフです。これから、古生代 後期や新生代の寒冷化時には大気中の二酸化炭素濃度が急速に減少していることが分かります。しかし ながら、生物の多くが絶滅した古生代の中期の寒冷化(オルドビス紀-シルル紀境界イベント)では、 二酸化炭素濃度はそれらの時代よりはるかに高く、矛盾した結果となっています。このことは、太陽活 動、銀河宇宙線等の他の要因も複雑に絡み合っている可能性を示唆しています。二酸化炭素の温室効果 がどれほど地球の気候にかかわっているかは、現在の地球の「気候変動(?)」も含めて、本当は簡単に 結論付けできない地球科学の難題の筈で、二酸化炭素元凶説もさらなる議論があって良いはずです。

 

image20240109

6億年前からの二酸化炭素の濃度変遷

(総合講義「気候変動の科学」北海道大学)

 


 

今月は、新生代の中頃までの「古第三紀」を中心にお話をさせていただきました。また、地球環境 (気候、大陸移動、造山運動)については「新第三紀」を含んだ内容になりました。

古第三紀は、前半は温暖な気候ですが、後半から急速に寒冷化し、やがて氷河期に入っていきました。 人類はまだ誕生しておらず、陸上では絶滅した恐竜の子孫の鳥類や人類につながる哺乳類が、海洋では 魚類が多くの種を生みながら繁栄していたようです。この時代、地球は大陸同士の衝突を繰り返し、大 規模な造山運動により、現在のアルプス、ヒマラヤ、ロッキー、アンデスなどの大山脈を造り出したこ とがわかりました。

次回は、新第三紀の動物についてと「新生代・第四紀」のお話に入っていきます。現在の地球の環境 や人類の誕生・進化に直結した内容となる予定です。

 

<参考・引用資料>

◆Web

「新生代古第三紀の世界」古世界の住人・ブログ

https://paleontology.sakura.ne.jp/w-dai3.html

「新生代古第三紀の動物」古世界の住人・ブログ

https://paleontology.sakura.ne.jp/yo-roppa-dai3.html

「生命三十六億年(16)古第三紀」動植物・古生物研究所

https://www.uraken.net/bato/paleo/earth16.html

「高校生・5分でわかる!第三紀」トライイット

https://www.try-it.jp/chapters-15700/sections-15701/lessons-15747/point-2/

「新世代における表層環境変化」多田隆治 Journal of Geography 100(6) 937-950 1991

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jgeography1889/100/6/100_6_937/_pdf

「地球科学の基礎知識・新生代」栃木県の地球科学 2023.04.20

https://finding-geo.info/basic/Cenozoic.html

「綜合講義:気候変動の科学:第3回過去の気候変動」北海道大学 山中康裕

http://wwwoa.ees.hokudai.ac.jp/~galapen/datab/lec02/sougou/020513.pdf

「新生代におけるグローバル炭素循環と気候変動との関係」柏木、鹿園 Journal of Geography

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jgeography1889/112/4/112_4_473/_pdf

「An astronomically dated record of Earth’s climate and its predictability over the last 66 million years」Westerhold, T., et al. 2020.09.11

http://m-ac.jp/weather/climate_change/research/westerhold_2020/index_j.phtml

「地球46億年の歴史(2)大気の歴史・空気の歴史」ガスの科学・ブログ 2017.11.18

http://www.pupukids.com/jp/gas/index.html

「天の川銀河が周期的に地球にもたらす大量絶滅とは?」SORAE 2020.12.15

https://sorae.info/astronomy/20201215-milky-way.html

「太陽系の銀河内軌道変化と地球の寒冷化」辻本拓司(国立天文台)ニュートリノ研究会 2021.01.07

https://www.lowbg.org/ugap/ws/sn2021/slides/802tsujimoto.pdf

◆書籍・文献

「46億年の地球史」 田近英一 著 発行元:三笠書房

「地球と生命の誕生と進化」 丸山茂徳 著 発行元:清水書院

「地球と生命の46億年史」 丸山茂徳 著 発行元:NHK出版

「地球生命誕生の謎」ガルゴー他 著 発行元:西村書店

「地球・惑星・生命」日本地球惑星科学連合 編 発行元:東京大学出版会

「生物はなぜ誕生したのか」ピーターウォード、他 発行元:河出書房新社