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地球科学と生命の誕生・進化(17)<新生代の地球環境と生命活動(3)>

先月は、古第三紀から新第三紀の間の人類(ヒト)の祖先である霊長類(サル目)の進化、分岐につ いて調べてみました。そして、人類がサルから分岐するまでの過程および年代についても、近年の科学 的な手法でかなり明確になってきたことが分かりました。人類の祖先はおよそ500万年から700万年前 にサルから分岐しましたが、それから現代人になるまでに、長い年代を費やしていったのです。今回は、 この人類の進化の過程での新生代第四紀(次図赤枠)の地球環境・気候についてのお話になります。

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顕生代の代区分と紀区分の関係 (NeoMag 編集)

 

[新生代の地球環境と生命活動(3)-1]第四紀の時代決定の背景

「新生代・第四紀」は「人類(ヒト)の時代」ともいわれ、地質学上の時代区分のうち最も新しい時代 です。この時代の始まりは2009年までは181万年前とされていましたが、2009年の国際地質学会で77 万年にさかのぼり、258万年前に変更されることになったのです。

「そんなもんですかね~」と興味のない人もいますが、地質を気にする者にとっては結構大事件なの です。地学の教科書や地質図の修正が迫られるのはもとより、「第四紀」の用語は活断層の定義や火山 の分類などにもかかわっていて様々なところで修正が必要となってくるのです。

 

ではなぜ変わったのでしょう。地質学を学んだ人ならお分かりでしょうが、地質学の時代を決める “物差し”は主に生物と考えられてきました。いわゆる示準化石の存在です。例えば生物が多様化した 約5億4000万年前以降は「古生代」「中生代」「新生代」の3つに大きく分けられています。ここには示 準化石が大きな役割を果たし、古生代は三葉虫、中生代は恐竜やアンモナイト、新生代は人類を含む哺 乳類が栄えた時代とされているのです。

 

「新生代第四紀」では「代」と「紀」は何が違うのでしょうか。気候変動や地磁気の変化などで「代」 をさらに細分化したものが「紀」なのです。第四紀は地球全体が寒冷化し、氷河が発達する「氷期」と 暖かい「間氷期」を繰り返すようになったことが特徴で、これまでは181万年前に始まったとされてき ました。

しかし近年、酸素の同位体を使った気候変動の研究が進展し、寒冷化はより前から始まっていること が分かり論争になったのです。10年以上、議論が続いていましたが、結論を出したのが国際地質科学連 合。2009年6月に定義変更を決めたのです。

2009年の決定でも、「第四紀はヒト属の出現、すなわちホモハビリスの出現と、第四紀に特徴的な気 候変動が始まった時代ということで、ジェラシアン期と呼ばれる時代の地層の基底で定義されました。 ちょうどこのころから、氷床量(すなわち気候)の指標である海水の酸素同位体比変動の振幅が大きく なり始めることから、気候変動が激しくなり始めたとみなすことができる」というのがその理由です。

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年代層序単元と地質年代単元(関東地質調査業協会)

 

また、第四紀の始まりは、化石記録からは決められないものの、地磁気が逆転したすぐ後に当たるこ とから、見つけやすいという利点があります。

第四紀は、南極大陸だけでなく、北半球にも氷床が形成され、地球の軌道要素の変動に起因した日射 量変動に応答して、周期的な気候変動が生じていることが知られています。気候変動の振幅は時間とと もに大きくなり、やがて「氷期(氷河期のこと)」「間氷期」が約10万年の周期で繰り返すようにな ります。間氷期とは、氷期と氷期の間の時代という意味であり、氷期に比べれば相対的に温暖な時期で すが、依然として極域に氷床が存在する寒冷な気候条件の時期を指します。現在の地球も気候学的には 間氷期に当たります。

 

氷期と間氷期の繰り返しに対応して、氷床は発達と後退を、海水準は低下と上昇を繰り返します。 より乾燥化か進んだ地域もあれば、より湿潤化した地域もあり、植生も大きく変化しました。第四紀に おいて、自然環境は繰り返し大きく変化してきたのです。

 

このような時代に、ヒト属は原人から現生人類へと進化し、アフリカ大陸から世界中に拡散しました。

私たちヒトの進化と密接に関係していたとも考えられる第四紀の気候変動につい理解することは、私た ち「ヒトの歴史」を知ることにつながるのです。

 

[新生代の地球環境と生命活動(3)-2]氷期・間氷期サイクル

<ミランコビッチ・サイクルの提唱>

こうした気候変動の原因は、20世紀の初めにセルビアの地球物理学者ミルティン・ミランコビッチに よって唱えられた「ミランコビッチ理論」によって説明されています。

ミランコビッチは、地球の軌道要素が周期的に変化することによって、特に北半球高緯度の夏の日射 量が周期的に変化し、周期的な気候変動が引き起こされる、と考えました。氷床の成長は、とりわけ高 緯度地域の冬に降った雪が夏を越せるかどうかが重要な要因だからです。

 

日射量に影響を与える軌道要素としては、(1)公転軌道の離心率(真円からのずれ)、(2)自転軸の傾 き、(3)自転岫の歳差運動(近日点の位置の変化)があります。これらの時間変化を天体力学計算によ って調べると、離心率の変化は約10万年と40万年、自転軸の傾きは約4万年、そして自転軸の歳差運 動は約2万年の周期で変動していることが分かります。

そこで、これらの周期は「ミランコビッチ周期」、それによって生じる周期的な気候変動は「ミラン コビッチ・サイクル」と呼ばれるようになりました。

 

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ミランコビッチ・サイクル(大鹿村中央構造線博物館)

 

<離心率の変化>

地球は太陽を焦点の一つとする楕円軌道上を公転していますが(ケプラーの第一法則)、その楕円の 形状は常に一定ではなく、約10万年をかけて横に伸びた楕円が円に近い楕円となり、そしてまた横に伸 びた楕円となっています。楕円が最も伸びた形になる時と楕円が最も円に近い形になる時とでは太陽と 地球との距離は最大で1827万kmも変わります。この差が太陽からの光量に影響を与え、結果として地 球の気候にも影響を与えることになります。

現在の氷期サイクルの周期は約10万年であり、離心率の変動周期と一致しています。しかし、それら を関係づけるメカニズムについては完全に理解されていません(10万年問題)。

 

<地軸の傾きの変化>

地球の地軸の傾きは約21.5度から24.5度の間の間を定期的に変化しており、その周期は4.1万年で す。現在は極大となった約8,700年前から小さくなっている時期にあたります。現在は23.4度であり、 約11,800年後に極小となります。地球の地軸の傾きは季節差に影響を与え(地軸の傾きが大きいほど季 節差が大きい)、結果として地球の気候にも影響を与えます。

<歳差運動の変化>

地球の自転軸の向きは、公転しながら周期的に変化していて、これを歳差と呼びますが、この周期は 1.8万から2.3万年です。

 

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ミランコビッチ・サイクルの3要素(大鹿村中央構造線博物館)

 

以上のミランコビッチ・サイクルの3要素が地球の気候に影響を与えますが、実際には他にも様々な 要因が関わるため、単純に計算出来るものでもありません。実際の気候変動は、氷期と間氷期の繰り返 し(氷期・間氷期サイクル)に対応した10万年の周期が最も強いことが知られています。すなわち、氷 期と間氷期とが10万年の周期で繰り返し、それにさらに4万年と2万年の周期的な気候変動が重なって いるということです。ところが、その原因とされる日射量の変動は2万年と4万年の周期が顕著で、10 万年周期は小さすぎるため、実際の氷期・間氷期サイクルを説明することができません。氷期・間氷期 サイクルの10万年周期の原因は長年の大きな謎でした。

 

しかし、最近の研究により、この10万年周期は、日射量変化に対する大気-氷床-地殻の相互作用が もたらしたものであることが明らかになりました。

北米大陸ではユーラシア大陸とは対照的に、近日点の位置の変動周期(約2万年)ごとに氷床が大き く成長します。日射量の最大値を決めるのは離心率ですが、離心率が最小に近づくにつれて氷床の成長 は加速し、やがて氷床のサイズは最大になります。その後、離心率が再び増大すると、夏の日射が強く なることで氷床は後退し始めます。

この際、北米大陸の巨大な氷床の重さのために大陸地殻は深く沈降しています。したがって、氷床の 高度が低くなっている結果、氷床表面の気温は高く、氷床が融けやすくなっており、氷床の融解が一気 に進みます。こうして、離心率の10万年周期に対して北米大陸の氷床が非線形的に応答する結果、気候 変動の顕著な10万年周期が生じる、ということが明らかになりました。

 

また、氷期・間氷期サイクルに伴って、大気中の二酸化炭素濃度も増減していたことも知られていま す。二酸化炭素濃座は、温室効果の増減によって氷期・問氷期サイクルの変動を増幅させるといわれて いますが、必ずしも二酸化炭素濃度の変動が10万年周期の直接的な原因であるわけではないようです。 大気中の二酸化炭素濃度の変動は、気候変動に対する複雑な地球システムの応答(フィードバック作用) の結果、増幅されているだけかもしれません。

氷期・間氷期サイクルという過酷な気候変動の時代を、私たち人類の祖先は生き抜いてきました。私 たちの祖先が経験した氷期の地球とは、具体的にはいったいどのような世界だったのでしょうか。

 

[新生代の地球環境と生命活動(3)-3]新生代・第四紀の地球環境

<大陸氷床の拡大>

第四紀は、寒冷な氷河時代であり、氷床が発達したより寒冷な氷期と、氷床が後退したより温暖な間 期とが繰り返し訪れました。海水の一部が蒸発後降雪して大陸上の氷床となるため、氷床の発達と後退 によって、海水準は100メートル以上も変動します。そして、第四紀に入ってから、気候変動の振幅は 非常に大きくなってきたことが分かっています。

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新生代・第四紀(更新世・完新世)の世界(ブログ・古世界の住人より)

 

氷河期という言葉はよく使われますが、これはじつは俗語で、「氷期」という用語が正式です。氷河 時代には氷期と間氷期とが何度も繰り返されます。ただし、氷河期といえば、一般には、いわゆる「最 終氷期」を指すことが多いようです。最終氷期とは、第四紀更新世後期の今から約7万年前~1万1700 年前までの時期で、何度も繰り返された氷期・間氷期サイクルにおける一番最近の氷期のことを指しま す。ヨーロッパでは「ヴュルム氷期(Wurm Interstade)」とも呼ばれます。

最終氷期において、気候は変動しながら徐々に寒冷化が進行していき、今から約2万6500~1万9000 年前、世界各地の氷床の広がりはピークに達していました。この時期は「最終氷期最寒冷期」と呼ばれ ています。

前図で分かりますように、大陸の位置はほぼ現在と同じですが、北米大陸では「ローレンタイド氷床」 がカナダ全域から米国の五大湖周辺まで、ユーラシア大陸では「フェノスカンジア氷床」がヨーロッパ 北部全域から西シベリア北部まで、南米大陸では「パタゴニア氷床」がチリ南部を覆っていました。も ちろん、南極大陸もすべて「南極氷床」に覆われていました。そして、ヒマラヤ・チベット地域やアン デス山脈などの山岳地域は、山岳氷河に覆われていました。

北欧のフィヨルドや北米の氷河湖、ヨーロッパーアルプス山脈などに見られるU字谷圏谷(カー ル)モレーン(氷河によって削られ、運搬された岩屑の堆積)などの美しい氷河地形は、最終氷期や それ以前の氷期において、氷河が流動することによって形成されたものです。

最終氷期最寒冷期には、海水が蒸発して降雪し、大陸上に大規模な氷床が発達したため、海水準は現 在より100メートル以上も低下していました。この結果、現在の東南アジアの海域は大きな陸地となり、 島々が陸続きとなり、スンダランドと呼ばれる広大な平野ができました。オーストラリアとニューギニ アなども陸続きで、この大陸をサフルランドと呼びます。この海退は人類がオーストラリアに渡ること を可能としました。アジアとアラスカはベーリング地峡(ベーリンジア)によって地続きとなるなど、 現在の浅い海底の多くが陸地として姿を現しました。

 

<海水準の変動の痕跡>

氷床が増加すると海水が減少しますから、氷期には海面が下がり間氷期には海面が上がります。した がって、次図は、ほぼ海面の上下変動を表しています。

これを氷河性海水準変動と言います。海水準が低い時期を「海退期」、高い時期を「海進期」と言い ます。最近の数十万年間では、海退期と海進期の海面の高さの差は120m~200mに及んでいます。

300万年前ごろから80万年前ごろにかけて、海退と海進をくりかえしながら、平均的にも海面が下が っています。

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過去500万年間の深海底有孔虫の酸素同位体比変動曲線(大鹿村中央構造線博物館)

図は、海底に堆積した微生物の殻の酸素同位体比の堆積年代による変化を示したもので、それぞれの時代に微生物が海水から取り込んだ酸素18の割合を示しています。
 水温が低いと生物が取り込む酸素18の割合が増えます。しかしそれ以上に、それぞれの時代の海水そのものの酸素同位体比の変化が強く現れています。
 酸素18が結合した重い水は蒸発しにくいため、水蒸気→雲→雪を経由して氷床を造っている氷に含まれる重い水(氷)の割合は、海水中の重い水の割合より少なくなります。
 氷床が増えると、その分だけ海水の体積が減るため、残った海水中の重い水の割合が多くなります。
したがって、このグラフには地球全体の氷床の増減が表れています。

 

[新生代の地球環境と生命活動(3)-4] 最終氷期の日本列島

私たち人類の祖先は、この時期にユーラシア大陸からベーリング地峡を通って北米大陸にわたり、太 平洋沿岸を通って、ごく短い期間で南米大陸の南端にまで到達しました。彼らが現在のアメリカ先住民 (インディアンやインディオ)の祖先だと考えられています。人類だけではなく、マンモスを含むさま ざまな動物もユーラシア大陸と北米大陸の間を移動したことも分かっています。

当時の日本周辺でも、北海道と樺太、ユーラシア大陸は陸続きとなり、瀬戸内海や東京湾も陸地にな っていたなど、海岸線は現在とはかなり異なっていました。寒冷な気候のため、高山には山岳氷河が発 達し、北海道ではツンドラが、また針葉樹林帯が西日本まで広がっていたようです。

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日本列島の誕生と大陸からの分離の歴史(あいち防災リーダー会他より)

 

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過2万年前のマンモスの日本列島への進出と分布(分子人類考古学のススメより)

 


 

以上、今月は、人類(ヒト)についての直接的なテーマではありませんでしたが、約500~700万年前 にサルから分岐した人類が、進化の過程で遭遇した新生代第四紀の地球環境・気候についてのお話でし た。氷期・間氷期の過酷な気候変動の中、人類は良く生き延びてきたものだとあらためて驚く次第です。

次回は人類の進化についてのお話となります。

 

<参考・引用資料>

◆Web

「第四紀とは」日本第四紀学会

http://quaternary.jp/intro/daiyonki.html#:~

「第四紀の定義が変わりました!」土木情報サービス・いさぼうネット

https://isabou.net/Convenience/tool/geology/index2.asp

「技術ニュース81 第四紀の新しい定義」関東地質調査業協会

https://www.kanto-geo.or.jp/various/technologyRoom/TR2_wotn_81_2.html

「新生代・第四紀(更新世・完新世)の世界」ブログ・古世界の住人

https://paleontology.sakura.ne.jp/w-dai4.html

「ミランコビッチ・サイクル」ウィキペディア

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9F%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%B3%E3%83%93%E3%83%83%E3%83%8 1%E3%83%BB%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%82%AF%E3%83%AB

「ミランコビッチ・サイクル」長野県大鹿村中央構造線博物館

http://mtlwebmusesub.web.fc2.com/t100211quaternaryt.htm

「南海トラフ巨大地震何を・どう備える?」あいち防災リーダー会、他 2020年10月

https://138kamiyama.org/wp-content/uploads/2020/10/f19285547becdde98566117bd4b1d3e6.pdf

「最終氷期-およそ7万年前に始まって1万年前に終了」分子人類考古学のススメ 2017.03.05

http://archaeologist.blog.jp/archives/14583785.html

 

◆書籍

「DNA人類進化学」宝来聰著 岩波科学ライブラリー52

「46億年の地球史」 田近英一 著 発行元:三笠書房

「地球と生命の誕生と進化」 丸山茂徳 著 発行元:清水書院

「地球と生命の46億年史」 丸山茂徳 著 発行元:NHK出版

「地球生命誕生の謎」ガルゴー他 著 発行元:西村書店

「地球・惑星・生命」日本地球惑星科学連合 編 発行元:東京大学出版会

「生物はなぜ誕生したのか」ピーターウォード、他 発行元:河出書房新社