磁気性能に対する耐熱性に対してはネオジム磁石の形状(パーミアンス係数)や保磁力Hcj、Hcbが大きく関係してくることはすでにお話をしてきました。今回は、実際にどのような形状や保磁力がどのように耐熱性に関係してくるのかを調べてみましょう。
<ネオジム磁石の材質別磁気特性>
ここで、ネオジム磁石の耐熱性能を左右する「不可逆減磁・熱減磁」の様子を各種材質ごとに解析してみたいのですが、その前に、ネオジム磁石の材質にはどのような種類があり、その磁気特性はどのようになっているかを確認してみましょう。
ネオジム磁石には世界共通の正式に決められた名称や磁気特性規格値はないため、メーカーごとの規格値の詳細は少しずつ異なっています。ただし、おおよその特性値は共通していると言ってよいでしょう。各メーカー共に次図のような、*52、*48H、*45SH、*42UH、*38EH等の名称を付けているのがほとんどです。メーカーごとの製品名*の後の数字は最大エネルギー積(BH)maxの標準値を表し、数字の後のアルファベットは保磁力Hcjの大きさの目安を表しています。アルファベットが付かないものはHcjが最も小さく、その後のH、SH、UH、EHの順に保磁力Hcjが大きな材質シリーズとなります。
ネオジム磁石の材質別磁気特性分布
ご覧のように、特性分布図の縦軸の上に行くほど残留磁束密度Brおよび最大エネルギー積(BH)maxは大きくなり、右に行くほどHcjが大きくなります。どのメーカーの製品もBr値が高い製品はHcjが低く、Hcj値が高い製品はBr値が低くなる傾向になっています。
ここのように、材質シリーズによりHcjの値が異なり、また熱による不可逆減磁はHcjの大きさに敏感ですので、ネオジム磁石の使用温度を考慮して、最適な材質を選定する必要があります。
それでは、今回と次回に分けて、ネオマグのネオジム磁石分布図左側の高Br、低HcjシリーズからN50を、中心付近の中Br、中HcjシリーズからN45SHを、右側の低Br、高HcjシリーズからN38EHを順次選んで比較検討してみましょう。
<高Br・低Hcj材(N50)の場合>
■N50の減磁曲線とパーミアンス係数
次図はNeo50材の減磁曲線に4本のパーミアンス係数の直線を入れたものです。以前お話をしましたパーミアンス係数と動作点の関係から、この材質の不可逆減磁の様子がこれで推測できると思います。パーミアンス係数が最も高い2.0の直線は150℃のBH曲線上でも〇印で囲んだ交点は屈曲点のわずかに上の直線上にあり、この形状では150℃でも不可逆減磁は大きくは無いと予測されます。しかしパーミアンス係数1.0では150℃になると屈曲点の下になり不可逆減磁が問題になってきます。同様にパーミアンス係数0.5では100℃で、パーミアンス係数0.2では50℃でも不可逆減磁は起こりそうなことがわかります。
N50材の減磁曲線とパーミアンス線
■N50材の不可逆減磁の実例
次のデーターはN50材の円柱型磁石直径10mmでパーミアンス係数の変化と不可逆減磁の関係を磁化方向の厚みを変えた磁石で調べたものです。各温度で24時間放置後、室温に戻して表面磁束密度を測定した結果になります。
磁石厚み2mm、パーミアンス係数0.5では100℃使用では不安定で、せいぜい50℃前後までしか安心して使えません。厚み4mm、パーミアンス係数1.0では100℃までは持ちこたえますが150℃では10%の低下で心配です。厚み7mm、パーミアンス係数2.0では5%の不可逆減磁を覚悟すればなんとか使えることがわかります。
N50材の放置温度と不可逆減磁率の例
これらのことより、大きな(BH)maxと大きなBrを持ったネオジム磁石は保磁力Hcjが相対的に小さく、80~100℃の温度での使用が必要な場合は、なるべく磁化方向の厚みを厚くした形状にした方が良いということになります。当然150℃以上の使用はさけなければなりません。
また、比較的低い温度での使用でも強い逆磁場がかかるような磁気回路では低Hcj材質の磁石使用は動作点が単体磁石より低い方に移行し、予期せぬ不可逆減磁の可能性がありますので注意を要します。
さらに、熱硬化性の接着剤を使う場合は熱硬化温度に対しても条件によっては不可逆減磁が起きる可能性がありますので十分注意してください。
なお、熱による不可逆減磁はその後それ以上の温度にならなければ減磁は進行しません。
したがって、磁石の温度に対しての安定性を得るために、意図的に高い温度に暴露する場合があります。このような処理を「熱からし」と呼んでいます。
次回は中Br・中Hcj材(N45SH)および低Br・高Hcj材(N38EH)の不可逆減磁について調べてみましょう。