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ネオジム磁石のすべて(21)<永久磁石の温度変化-4>

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磁気性能に対する耐熱性に対してはネオジム磁石の形状(パーミアンス係数)や保磁力Hcj、Hcbが大きく関係してきますが、前回は高Br、低Hcj・Hcbの材質N50について、減磁曲線の形とパーミアンス係数がどのように不可逆減磁・熱減磁が関係してくるかということと実際の形状と放置温度の測定結果について調べてみました。

そこで、今回は中Br、中Hcj・Hcb材質および低Br、高Hcj・Hcb材質について、前回と同様な手法でそれぞれの材質の不可逆減磁・熱減磁について考察してみました。

 

<高Br・低Hcj材(N45SH)の場合>

N45SHの減磁曲線とパーミアンス係数

次図は前回と同様にN45SH材の減磁曲線に4本のパーミアンス係数の直線を入れたものです。SH材質は、150℃から200℃前後への温度上昇の可能性がある場合や、それほど高温ではない使用環境でも、磁気回路の中で強い逆磁場がかかったり、磁石を薄い形状にせざるを得ない場合などに良く選択される材質です。

 

磁石のお話-画像300001

N45SH材の減磁曲線とパーミアンス線

 

(BH)maxやBrは少し低くなりますが、HcjとHcbが大きくなりますのでBH曲線の形も高Br低Hcj材とは変わってきています。ご覧のようにパーミアンス係数が2.0であれば、交点は200℃のBH曲線の屈曲点の上にあり、200℃でも不可逆減磁は少なそうです。パーミアンス係数が1.0では、200℃の屈強点近傍にあり不可逆減磁が始まりそうです。パーミアンス係数が0.5になると交点は200℃の屈曲点の下になり、この温度では使用が難しいことが予想され150℃でも心配です。さらにパーミアンス係数が0.2では、150℃でも不可逆減磁が大きくなりそうですが、100℃であれば問題なさそうです。

 

■N45SH材の不可逆減磁の実例

前ページでNeo45SH材の減磁曲線とパーミアンス係数の関係から不可逆減磁を予測しましたが、次のグラフで確認してみましょう。

 

磁石のお話-画像300002

N45SH材の放置温度と不可逆減磁率の例

 

200℃ではパーミアンス係数が2.0では問題なさそうですが、1.0では7%ほどの不可逆減磁を起こしています。パーミアンス係数が0.5では200℃の使用は無理ですが、150℃では5%程度ですから大きな不可逆減磁の心配はなさそうです。

なおパーミアンス係数0.2の薄い磁石では、150℃が数%以内の減磁量ですから、この温度が限界のようです。形状が薄い磁石はSH材質であっても150℃以上の温度では不可逆減磁に気を付けなければなりません。

 

<低Br・高Hcj材(N38EH)の場合>

■N38EHの減磁曲線とパーミアンス係数

次図はHcjがかなり大きなNeo38EH材の減磁曲線です。

EH材質は、どちらかといいますと高温使用対策用であり、200℃~250℃までの温度上昇でも大きな不可逆減磁が起きない材質として使われています。

 

磁石のお話-画像300003

N38EH材の減磁曲線とパーミアンス線

 

(BH)maxやBrはかなり低くなりますが、Hcj・Hcbが十分大きいためBH曲線の形も150℃まではほぼ直線となり、200℃でも下の方にわずかな折れ曲がりがあるだけです。この図で見る限り、パーミアンス係数が1.0以上であれば、250℃でも不可逆減磁はほとんど問題ないと判断できそうです。パーミアンス係数が0.5は250℃では不可逆減磁が問題になってきそうです。0.2では、150℃は全く問題ありませんが、200℃のBH曲線の下方にある折れ曲がりの影響を受けそうです。それでは次のページの実際の測定データではどうでしょうか。

 

■N38EH材の不可逆減磁の実例

次の測定データより、10%以内の不可逆減磁率を容認するとすれば、パーミアンス係数が0.5以上であれば250℃使用は問題ないようです。一方、0.2では150℃から200℃の間の使用が限界といえます。いずれにしても、かなり薄い形状を別にすればほとんどの形状で200℃~250℃の高温使用に耐えられる材質だということがわかります。

 

磁石のお話-画像300004

N38EH材の放置温度と不可逆減磁率の例

 

<不可逆減磁・熱減磁まとめ>

以上で磁石の形状・パーミアンス係数と温度の関係による不可逆減磁の話は終わります。

ここで覚えておいて欲しいことは、まず、測定サンプルのBrやHcj、Hcbが規格値どおりであっても、実製品の減磁曲線の角形性は製品ごと、合金ロットごとにある程度のバラツキがあり、同じような形状、同じようなパーミアンス係数でも動作点にある程度のバラツキがあるということです。

 

もう一つは、どんなにパーミアンス係数やHcj、Hcbに余裕があっても高温使用になるほど、初期減磁を含め、数%以内の不可逆減磁はさけられないということです。したがって、高温度での使用を考えられている場合は、カタログ値以上に、余裕をもった形状選択、材質選択をすることをおすすめいたします。

 

なお、実使用での不可逆減磁をわずかでも避けたい場合は、先にもお話をしましたが、考えられる最高環境温度であらかじめ熱減磁をさせておく「熱からし」が効果的な方法です。