希土類磁石(ネオジム(ネオジウム)磁石、サマコバ磁石)、フェライト磁石、アルニコ磁石、など磁石マグネット製品の特注製作・在庫販売

ネオジム磁石のすべて(26) <重希土類Dy含有量を減らす-4>

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ジスプロシウム(Dy)やテルビウム(Tb)などの重希土類はネオジム磁石の耐熱性を高めるための有効な組成金属ですが、多くの希土類鉱石中の含有量が少なく、かつ濃度の高い鉱石の産出地が偏在していることなどが問題でした。そこで、ネオジム磁石の中の重希土類含有量を減らす様々な技術が開発されてきました。その中で、本サブテーマにおける前2回は、「結晶の微細化と低酸素化技術」と「熱間加工技術」についてお伝えしましたが、今回はトヨタ自動車が開発した「省ネオジム耐熱磁石」をご紹介します。このネオジム磁石は、重希土類をゼロにするだけでなく、ネオジム(Nd)そのものの含有量を減らすという画期的な技術になります。

 

<省ネオジム耐熱磁石開発の背景>

トヨタ自動車は、「高耐熱ネオジム磁石に必要な希土類(レアアース)の中でも希少な重希土類のDyやTbを使わないだけでなく、Ndの一部を、希土類の中でも安価で豊富なランタン(La)とセリウム(Ce)に置き換えることでNd使用量も削減した新開発磁石」を2018年2月に発表し、現在は実用化、量産化に向けての準備中の段階といえます。

Ndは、強力な磁力と耐熱性を保持する上で、大きな役割を占めており、単にNd使用量を削減して、LaとCeに置き換えただけでは、モーターの性能低下につながります。そこでトヨタは、LaとCeに置き換えても、磁力、耐熱性の悪化を抑制できる新技術の採用により、Ndを最大50%削減しても、従来のネオジム磁石と同等レベルの耐熱性能を持つ磁石を開発することに成功しました。

開発ポイントおよび新技術は、(1) 磁石を構成する結晶粒の微細化、(2) 結晶粒の表面を高特性にした二層構造化、(3) ランタン(La)とセリウム(Ce)の特定の配合比となります。

 

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ネオジム磁石におけるレアアース使用状況 (トヨタ自動車ニュースリリース)

 

<省ネオジム磁石の技術詳細>

さらにそれら3種類の技術の詳細をみると、以下のようになります。

(1)磁石を構成する結晶粒の微細化技術

磁石を構成する結晶粒を、従来のネオジム磁石の1/10以下にまで微細にし、且つ結晶粒と結晶粒の間の仕切りの面積を大きくすることで保磁力を高温でも高く保つことができるようになりました。

 

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ネオジム磁石を構成する結晶粒の微細化 (トヨタ自動車ニュースリリース)

 

(2)結晶粒の表面を高特性にした二層構造化技術)

従来のネオジム磁石は、Ndが磁石の結晶粒の中にほぼ均等に存在していて、多くの場合、磁力維持に必要な量以上のNdが使用されています。そこで、保磁力を高めるために必要な部分である磁石の結晶粒の表面のネオジム濃度を高くするとともに内部を薄くした二層構造化により、効率良くNdを活用することができ、使用量の削減が可能となりました。

 

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結晶粒の表面を高特性にした二層構造化 (トヨタ自動車ニュースリリース)

 

(3)ランタンとセリウムの特定の配合比の技術

NdにLa、Ceなどの軽希土類を単純に混ぜると、磁石の特性(耐熱性・磁力)が大きく低下するため、軽希土類の活用は難しいとされていました。これを解決するためにトヨタは、産出量が豊富で安価なLaとCeを様々な配合比で評価した結果、特定の比率で混ぜると特性悪化を抑制できることを見出しました。

 

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ランタンとセリウムの特定の配合比 (トヨタ自動車ニュースリリース)

 

<3つの新技術を融合した世界初「省ネオジム耐熱磁石」>

前記3種類の新技術を融合して開発された「省ネオジム耐熱磁石」は、次の画像のような組織、組成を有しています。また、Ndを20%減らした省ネオジム磁石の200℃の保磁力Hcjは、従来のネオジム磁石(Dy4%含有)よりも大きく、その分耐熱性も高くなっています。

 

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電子顕微鏡写真と組成分析像 (トヨタ自動車ニュースリリース)

 

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省ネオジム磁石の環境温度と保磁力の大きさ比較 (トヨタ自動車ニュースリリース)

 

<トヨタ自動車の今後の取り組み>*トヨタ自動車のニュースリリースより

トヨタ自動車は、当時のニュースリリースの中で以下のように述べています。

●今回開発した新型「省ネオジム耐熱磁石」の技術は、高い耐熱性が求められるネオジム磁石に必要なレアアースであるテルビウムやディスプロシウムを使わないだけでなく、ネオジム使用量まで削減することができます。

●この新型磁石は、今後、電動車の駆動用・発電用モーターや電動パワーステアリング、ロボットや様々な家電製品に用いられる比較的高い出力が必要なモーターなど幅広い用途への応用が期待されます。さらに、レアアースの需給バランス・価格向上などのリスク低減にも寄与します。

●今後は、実用化に向けて、搭載する自動車などでの適用評価を進めるとともに、低コストで安定した生産をするための技術の研究・開発を進めていきます。

●自動車の電動パワーステアリングなどのモーターでは2020年代前半での実用化を、さらに要求性能が高い電動車の駆動用モーターでは、今後10年内での実用化を目指して開発に取り組んでいきます。