腕時計は、今の時刻を私たちに教えてくれる身近な存在です。そんな腕時計が、一体どうやって動いているのかはご存知でしょうか?腕時計が正確に動くためには、永久磁石が重要な役割を果たしています。腕時計が動くための仕組みや、永久磁石との関係についてご紹介しましょう。
<腕時計の種類>
最初に腕時計の種類についておさらいをしてみましょう。腕時計は駆動方式の違いにより大別すると、機械式、アナログクォーツ式、デジタルクォーツ式になります。
(1)機械式 (自動巻き・手巻き)
手巻き (Manual)はリューズ(つまみ)を回してゼンマイを巻き上げるタイプです。職人技を感じられる伝統的な仕組みで、愛好家に根強い人気があります。また、自動巻き (Automatic)は腕の動きに合わせて内部の重り(ローター)が回転し、自動でゼンマイを巻く仕組みです。職人の技術が詰まった「一生モノ」として、メンテナンスをしながら数十年愛用できる点が魅力です。クオーツ式と異なり日差数秒〜数十秒の誤差があり、磁気・衝撃に弱いデリケートな特性を持っています。
代表的な製品には、セイコー(5スポーツ、プレザージュ)、オリエントスター、ハミルトン、ティソなどがあります。また、高級志向製品には、ロレックス、オメガ、IWC、タグ・ホイヤー、チューダなどが挙げられます。

機械式腕時計の代表例
(2)アナログクォーツ (電池・ソーラー)
後の項で詳しくご紹介するタイプになりますが、電池で水晶(クォーツ)に電圧をかけ、発生する規則的な振動を利用した腕時計です、ネオジム磁石などの永久磁石を使ったステッピングモーター(ステップモーター)で針を動かすタイプで、精度が非常に高く、大量生産が可能なため、安価なものから高級品まで幅広く存在します。
一般的なモデルで月差±15〜20秒程度、高級モデルでは「年差±1〜10秒」という驚異的な精度を実現しています。2〜3年ごとの電池交換が必要ですが、シチズンの「エコ・ドライブ」のようなソーラー式なら、定期的な電池交換を不要にできます。

アナログクォーツ腕時計の代表例
市販品の代表例として、グランドセイコー 9Fクォーツシリーズ、カシオ F-91W / G-SHOCK、ハミルトン - ベンチュラ、カルティエ - タンク/サントスなどがあります。
(3)デジタルクォーツ(電池・ソーラー)
前者と同様、水晶振動子(クォーツ)の安定した振動を電子回路で検知し、モーターや針はなく、磁石は使いません。液晶ディスプレイ(LCD)等に数字で時刻を表示する電池式の腕時計です。1970年代の登場以来、高精度(月差15-30秒程度)、多機能、軽量、低価格が特徴で、ソーラー発電モデルも普及しています。
耐衝撃性に優れ、G-SHOCKなどアウトドアやスポーツに適したモデルが多いのが特徴です。
代表的な製品には、カシオ G-SHOCK 5600シリーズ、カシオ STANDARD A158WA-1JH、タイメックス アイアンマンシリーズ、セイコー プロスペックス デジタル などがあります。

日本初の6桁表示デジタルクォーツ腕時計(セイコークォーツ:1973年)
<永久磁石とクォーツ腕時計>
1.ゼンマイ・歯車からIC・電子部品へ
時計が高価な精密機械から電子製品に変貌したのは、およそ56年前でした。国内最初のアナログクォーツ腕時計は、セイコーエプソンが1969年に発売したゼンマイと歯車から水晶発信器とIC回路の電子部品と小型モーターを組み合わせた「セイコークォーツアストロン35SQ」でした。そのアナログ腕時計は当時工業化されたばかりの希土類磁石を使ったステッピングモーターを組込んだ画期的なものでした。次図は世界最初のアナログクォーツ腕時計で、1-5系サマリウムコバルトボンド磁石を利用したPM型ステッピングモーターが使われていました。

世界初のアナログクォーツ腕時計・セイコークォーツアストロン35SQ(セイコーエプソン)
2.アナログクォーツ腕時計の内部構造
(1)主な内部構成部品

アナログクォーツ腕時計の構成部品(EPSON)
・電池 (Battery): 1.55V程度の酸化銀電池が一般的。すべての動力源。
・水晶振動子 (Quartz Crystal): 時間調整の核。電圧をかけると正確な周期(32,768Hz)で振動。
・IC(集積回路): 水晶の振動を感知し、1秒間に1回(1Hz)の電流信号に変換。
・ステッピングモーター: ICからのパルス信号(電気信号)を、機械的な回転力に変換。
・輪列(歯車): モーターの回転を秒針、分針、時針の動きに伝える。
・回路基板: 部品同士をつなぎ、電流を流す。
(2)時刻が動く仕組み
・駆動: 電池から電気回路へ電気が流れる。
・振動: 水晶振動子に電気が通り、毎秒32,768回という高速で振動する。
・分周・信号: ICがその振動を受け取り、計算して「1秒に1回」の電気パルス信号を出力する。
・動作: ステッピングモーターがパルスを受け取り、磁石の力で磁界を変化させ、歯車を1ステップ回転させる。
・表示: 歯車が針を動かし、時刻を表示する。

アナログクォーツ(水晶式)時計の模式図(日本時計協会)
3.ステッピングモーターの原理
ステッピングモーター(ステップモーター)は直流電源、水晶振動子およびIC回路によって正確なパルス電流を発生させ、それによってステップを踏むように、一定角度(ステップ角)ずつ間欠的に回転するように設計されたモーターです。永久磁石のローター(回転子)と電磁石を組み合わせたPM型(永久磁石型)と、コイルの発生する磁界で強磁性体の歯車を回すVR型(可変リラクタンス型)に大別されます。
ここで、PM型ステッピングモーターの動作原理と構造を次図に示します。ローターは径方向に2極着磁された磁石で、本例では周囲に4つの電磁石が配置されたモーターになります。そこで次図のような極配置になるような方向に、1~4の電磁石にパルス電流をICで切り替えながら送り込むと、これに同期して磁石と電磁石間に吸引力と反発力が発生して、ローターが回転します。この場合は1回パルス電流を送り込むと、1/4回転(90°)回転し、連続パルスによって、その回転が歯車に伝達されます。

PM型ステッピングモーターの動作原理
4.腕時計用ステッピングモーター
前項の例では4極の電磁石と径方向(側面)2極の永久磁石でステップ角は90°で1/4回転/秒でしたが、腕時計用のステッピングモーターのステップ角は180°で、水晶振動子の32,768/回の振動をIC分周回路によって1回/1秒のパルス電流に変換し、1/2回転ずつ動きます。

腕時計のステッピングモーター(CITIZEN)
なお、ローターに利用される永久磁石はサマリウムコバルトボンド磁石から同焼結磁石に移り代わり、最近ではネオジム焼結磁石、ネオジムボンド磁石、サマリウム鉄窒素ボンド磁石が使われています。
<工業用ステッピングモーター>
以上の時計用ステッピングモーターはそのステップ角からみると特殊の部類に入り、一般のステッピングモーターはより一層細かなステップ角を刻みます。最近ではリング形状のネオジムボンド磁石の採用によって、1周100ピッチ以上の多極着磁も可能になりました。また、1ピッチを細分化した回転が起きるように設計されたハイブリッド型(HB型)ステッピングモーターも開発され、1周400ステップ以上のステップ駆動も可能となっています。
このように、工業用ステッピングモーターは、パルス信号に同期して正確な角度回転を行うモーターで、精緻な位置決めが必要なFA(ファクトリーオートメーション)機器や医療機器、半導体製造装置などに不可欠なコンポーネントです。

工業用ステッピングモーターと制御装置(ミネベアミツミ)
*以上で、腕時計の中のネオジム磁石(永久磁石)の話は終わります。皆様がお使いの腕時計が、針が動くアナログクォーツ時計でしたら、必ず小さなステッピングモーターとそれを動かすネオジム磁石などの永久磁石が入っていることがお分かりいただけたでしょうか。
ただし、一つだけ気を付けてください。もし、お手元にネオジム磁石(ハンドバッグや財布の止め具なども含めて)があれば、おおよそ5cm以内には腕時計を近づけないでください。
(参考・引用資料)
「世界初の6桁液晶表示デジタル腕時計」EPSONホームページ
「水晶式時計(クオーツ時計)」日本時計協会(JCWA)
「時計が磁気から受ける影響」CITIZENホームページ
その他、AIによる各種調査資料

