希土類磁石(ネオジム(ネオジウム)磁石、サマコバ磁石)、フェライト磁石、アルニコ磁石、など磁石マグネット製品の特注製作・在庫販売

ネオジム磁石の製造方法シリーズ(7)

【ネオジム磁石の表面処理工程】

下図はネオジム磁石の製造工程です。今月はこの中の表面処理工程についてのお話をします。表面処理工程の主な目的は、焼結・加工後の錆び易い(酸化され易い)ネオジム磁石の表面を防錆膜で被い、錆(酸化)や腐食を出来る限り防ぐことにあります。防錆を効果的に行うにためには、Nd-Fe-B系焼結磁石の腐食メカニズムを理解することも重要であり、過去に種々の研究・開発が行われてきました。以下、その原理と特徴、各種表面処理について解説してみたいと思います。

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1.ネオジム(Nd-Fe-B系)焼結磁石の腐食メカニズム

Nd-Fe-B焼結磁石の金属組織の3つの主要構成相は(1)Nd2Fe14B化合物(主相)、(2)Ndリッチ(過剰)粒界相、(3)Bリッチ(過剰)粒界相であるが、このほかに製造過程で生じたNd酸化物相がある。Nd酸化物相を除くと腐食電位はBリッチ相>Nd2Fe14B>Ndリッチ相の順に低くなり、Ndリッチ相が最も卑で腐食されやすいといえます。

焼結磁石は主相のほかにNdリッチな粒界部分があるので、電解質水溶液の中では局部電池反応により、次図に模式的に示すようにNdリッチ粒界相が溶出し主相のNd2Fe14B粒子が脱落するような腐食が進行します。

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また、酸化還元反応に伴い発生する水素はNdリッチ相およびNd2Fe14B主相中に取り込まれる(水素発生量が極めて多い場合には気体水素も発生します。

焼結磁石の腐食挙動は磁石に含まれるNdの濃度により変化し、Ndが多い(Ndリッチ相の体積比が大きい)素材ほど腐食されやすい。一方、表面処理膜の品質や耐久性を評価するために用いられる加速破壊試験として加圧湿潤空気を用いたプレッシャークッカーテスト(PCT)またはオートクレーブテストがありますが、これらの試験では空気中から皮膜を透過して侵入するH2O分子と磁石素材との反応によりNdリッチ相が水酸化され、粒界部分が体積膨張して主相粒子が脱離する酸化形態が進行します。

加速試験としては他に恒温恒湿槽(例えば温度80℃、湿度90%)に保持して磁石表面に発生する錆びの状況を観察する評価法があります。この方法では、表面処理なしの磁石の場合はNd(OH)3の生成のほかにRの酸化も進行して水酸化鉄が形成され、いわゆる「赤錆」で磁石表面が覆われます

2.各種のネオジム磁石表面処理方法

表面処理方法には湿式(電気めっき及び無電界めっき)法、乾式(蒸着、化字イオン蒸着など)法、および塗装などがあり、目的に応じて適用される。めっき層は要求される機能を満たすために多層とする場合が多いようです。次の表に現在使用されている主な表面処理の例を挙げました。

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たとえば清浄性が要求されるハードディスクドライブ用のVCMに対してはニッケルめっき(湿式)、接着信頼性が要求されるサーボモータなどの磁石表面実装(SPM)式回転子にはアルミコーティング(乾式)、超高真空度で磁石からの脱ガスを嫌う真空封止式アンジュレータなどの用途には窒化チタンコーティング(乾式)が優れています。表面処理層は磁気回路の観点からは磁気ギャップ層として働くので、その厚みは薄いほど良いのです。また、電気めっき法では磁石のエッジ部分の電解集中効果によりエッジ部分のめっき層が厚くなる現象がドッグボーンとして知られています。この現象は磁石材料の寸法精度に悪影響を及ぼすので、磁石の稜の部分に小さな曲率半径でアール加工を施すなどの、種々の対策が講じられています。無電解めっきおよびドライプロセスではこの問題を回避できます。

3.ネオジム磁石の代表的な表面処理工程と防錆技術

一般には、Nd-Fe-B焼結磁石は耐蝕のための表面処理を施して使用します。表面処理としては、ニッケルめっき(Niめっき)とAlイオンプレーティングが代表的に用いられてきました。電着またはスプレーによる樹脂塗装は可能ですが、厳しい環境条件の場合耐蝕性が不十分であまり用いられていません。また、最近では各種コンプレッサにヨークに磁石を埋め込むIPMモータが盛んに使われ始め、表面処理も簡易で薄い無機系コーティングも多くなってきているようです。なお、最近ではNiめっきは銅めっき(Cuめっき)との複合めっき(ニ層~三層)が一般的となっています。

次図に小型Nd-Fe-B磁石の電気Niめっき工程を示しましたが、Nd-Fe-B焼結磁石の表面には、空孔、結晶粒の脱離があり、平坦ではありません。この面に表面酸化あるいは異物質の付着など汚れがあると、密着性のよい表面処理ができません。そのため最初に、表面の汚れを落とす必要があります。めっきに先立つ前処理はこのためのものです。Niめっきではアルカリ脱脂、活性化などすべて湿式で行われます。

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Niめっきによるコーティング膜にピンホールがあると、塩水噴霧試験で点錆として観察されます。膜厚が10[μm]以上では点錆の発生はみられません。一般に、標準的なメッキ厚みは10[μm]程度であり、前処理が適切であれば十分な密着強度をもつ耐蝕性皮膜が形成されます。しかし、ピンホールを完全になくすことはできません。空孔や異物の介在によって発生したピンホールの写真を次図に示します。

その断面組成像からわかるように一見きれいなめっき面の下でも腐蝕が進行するので、注意が必要です。無光沢と半光沢のめっきを重ねることはピンホールの減少に有効であり、さらに銅(Cu)を下地膜にしたり、挟んだりして三層にすることもあります。多層膜は、特に信頼性を要求される用途に採用されていましたが、最近では標準的なめっき膜になってきました。このような手段を用いるときでも、前処理においていかに欠陥の少ない清浄な表面にしておくかが重要です。

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以上、今月はネオジム磁石の表面処理((防錆処理)についてお話をしてきました。防錆技術についても最近の国内外のメーカーの技術も急速に進歩していて、Ndリッチ相をできだけ減らした組成制御により、素材そのものが腐食しにくくなり、且つ、表面処理も多様化しているニーズに合わせた各種の新規技術が開発されています。

次回は検査、評価工程とその技術について解説をいたします。

(参考資料)

「永久磁石・材料科学と応用」佐川眞人・浜野正昭・平林 眞(アグネ技術センター)

「希土類永久磁石」俵 好夫・大橋 健 (森北出版)