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風力発電の基礎シリーズ(9)

先月号までにお話をしましたように、風力発電は大きく分けて、電力系統に接続する系統連系方式と、独立電源としての使い方の二通りがあります。大型風力発電の場合では、ほぼ100%が電力会社の電力網に接続する系統連系方式をとっていて、小型風力発電の場合には、いったんバッテリーに蓄えてから用途に応じて種々の使い方をする場合が多いのです。そこで今月は、1月号、3月号でも一部触れました“風力発電システム”についての将来像を中・大型風力発電機とマイクロ・小型風力発電機に分けて勉強してみたいと思います。

1.中・大型風力発電機による系統連結方式の実際と将来像

系統連系方式といっても無制限に電力系統に流し込めるわけではなく、風車の発電量は風の強弱によって変化するため、このような変動電源を、既存の電力網に大量に受け入れるために、各国では送電網の方で工夫をしています。

例えば風力発電王国デンマークは、送電系統への貫入率(風車電力/電力系統容量)が平均で18%(夜間は50%超)と世界一高いのですが、これはデンマークの送電網がノルウェーやスウェーデンとつながり、スカンジナビア半島の豊富な水力発電により負荷調整ができるからです。また、スペインでは、70%以上の国内風車が遠隔監視装置を経由して中央給電司令室につながっており、風力電力の貫入率や電圧などの変動をチェックして、送電網の安定性を維持しています。また、コンピューターによる気象予測を基に、風力発電所の翌週~翌日の発電量予測を行い、それに応じて予備電源を準備する運用も行われています。

<スーパーグリッド計画>

一方、EU諸国では、イギリス、ドイツ、北欧諸国を北海・バルト海経由の海底高圧送電線で結び、そこに数十GW の洋上風力発電を連系させ、欧州全体で送電系統の安定化を図る「スーパーグリッド計画」も検討されています。

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<スマートグリッド計画>

さらに、米国、日本を始め各国は、風力などの変動電源とプラグイン・ハイブリッド車のような末端需要を含む送電線全体をIT技術で一括管理して、風力発電の出力変動を車載蓄電池の充放電で吸収する「スマートグリッド計画」の試行も始まっています。

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上図のようなスマートグリッドは、再生可能エネルギーへの対応に大きな役割を果たすことが期待されています。太陽光発電や風力発電のような、地上で得られる自然エネルギーから発電する電力は、その発電量が時々刻々と変化して一定には得られないという特性があります。それぞれの発電元に固有のバッテリを備えて送出電力を平準化する形式もありますが、コスト高や維持管理の手間なども考慮すれば最善策であるか疑問です。 できるだけ多くの自然エネル ギー由来の発電システム同士を連接することで総体としての発電電力量を平均化できれば、バッテリ容量を減らすと同時にバッテリも集中できれば維持管理も楽になると考えられます。自然エネルギー由来の発電システムは地理的に分散存在るために、多数を連接するには専用の送電網を作るよりも既にある商用電力の送電網、つまり電力系統を利用する方が無駄が少なくなります。ただし、周波数や電圧といった電力品質を電力系統内の隅々まで維持し続けるためには、需要家側と送出側、そして 電力系統を管理する側が相互に協調する必要があり、センサー・遠隔制御技術や充電技術が重要となってきます。

<センサ・遠隔制御技術>

スマートグリッドでは、一般住宅や事務所・工場といった需要家の電力消費をセンサネットワーク技術と遠隔制御技術を活用して監視し負荷制御することによって、電力消費量の平準化と電圧・周波数の安定化を図ります。例えば真夏の昼間に電力需要がピークとなれば、家庭のスマートメーターを経由した無線や有線による遠隔操作によってクーラーの設定温度を短時間だけ上げることができます。

<充電技術>

太陽光発電や風力発電のような、発電電力が変動し制御できない発電装置では、個別のバッテリに発電した電気を蓄えることによって外部に送出する電力量を一定にする、または、必要なだけ放電するといった使用法が従来から用いられてきましたが、スマートグリッドではこの考え方をさらに進めて、バッテリの設置位置に関係なくグリッド内で全てを共通化すれば発電した電気の実質的な蓄電可能量を増やすことができるとするものです。太陽光発電所や風力発電所ごと、配電網ごとや家庭・事業所ごと、充電のためにコンセントに接続された電気自動車等のバッテリといった全てを連携して用いるためには、どこの電池に充電可能な空きがあるのか、どの電池から放電すべきかなどを細かく制御する必要があり、ここでもセンサ・遠隔制御技術が必要となってきます。

2.小型・マイクロ風力発電機の実際と将来像

近年、中・大型風力発電の系統連結システムとは別に、単独で小電力発電をする「マイクロ・小型風力発電」も、その特徴を生かして、様々な用途に利用され始めました。

風力発電は風がないと役に立ちません。したがって、単独で実用的な発電をするために、マイクロ・小型風力発電では、風力発電と太陽光発電を併用して、得られた電力をいったんバッテリに充電し、バッテリに蓄えられた電力を利用する方法が取られています。

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<具体的な利用分野の例>

マイクロ・小型風力発電の利用分野は下記などがありますが、このほかにもいろいろな用途が考えられます。

(1)自然エネルギー活用の啓蒙、学校の環境教育

(2)室内外の照明、街路灯、防犯灯などの照明用電源

(3)山小屋の照明、トイレの電源

(4)農業の害虫駆除用照明

(5)山岳地帯、離島などの無人監視、観測所の電源

(6)キャンプなどの携帯電源

(7)その他

最近、LEDの輝度が大幅に改善されるとともに、LEDを使った照明が話題になっています。左下図のように効率の良いLED照明と組み合わせれば、利用分野がさらに拡大すると思われます。右下図は、山岳地域の村落の広報放送装置に利用する例ですが、常時はマイクロ風力発電と太陽光発電でバッテリを充電し、無線機の受信部分は常時動作させます。そして、本部からの指示によって放送装置を稼働させることにより放送するものです。

同じような考え方で、電力線のない山岳地帯で、気象観測データを無線機で送る場合や、火山地域の危険場所の観測や放送を行う場合などに有効でしょう。

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それでは、マイクロ・小型発電の将来はどのようなシステムになるのでしょうか。それは、おそらく“燃料電池とのハイブリッド・システム”が最も有望だと考えられます。最近、燃料電池が話題になっています。燃料電池は「電池」と呼ばれていますが、「発電装置」といったほうがふさわしいものです。燃料電池は、水素(H2)と酸素(02)があれば電気を作り続けます。水素と酸素が反応して発電した結果、副産物として発生するのは水だけで、大気汚染の原因になる窒素酸化物(NOx)はまったく出ないので、究極のクリーン・エネルギーといわれています。しかし、本格普及には依然として技術的な課題も多く、中でも水素貯蔵、運搬技術が大きな課題といえます。この燃料電池については、別の機会に詳しくお話をする予定です。

次回は風力発電の基礎シリーズ最終回として、世界や日本の風力発電への今後の取り組み、解決しなければならない課題などについてまとめてみることにいたします。

 

<参考・引用資料>

「トコトンやさしい 風力発電の本」牛山 泉 著(日刊工業新聞社)

「風力発電機ガイドブック(改訂版)」金綱 均、松本文雄 共著(パワー社)

「マイクロ風力発電機の設計と政策」 久保 大次郎 著 (CQ出版社)

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