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次世代自動車の検証(12)<EVのモーター(3)>

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「EVのモーター(1)、(2)」では、モーター全般の基本から現在の市販EVが採用している種々の駆動モーターとその特徴についてお話をしてきました。

今月は、EVのモーターをいかに効率良く、丈夫で快適な動力源するかという“モーターの制御技術や素材技術”のお話をさせていただきます。

[EVのモーター(3)-1]EVのモーター性能を左右する4要素

界磁にコイルや永久磁石を使う同期モーターは、ステーターに交流を流すことで回転磁界ができます。それに商用交流電源を使うか、インバーターでつくった交流を使うかの違いはありますが、モーターは基本的に交流で回転するといえます。直流モーターも、ローターに流れる電流の向きを次々切り替えることで回転していますのでモーター内で交流を作り出しているともいえます。

以下に、交流モーターのトルクの大きさを左右する主な要素4つをあげてみました。

(1)ステーターコイルの磁界の大きさ(電流の大きさ)(全交流モーター)

(2)ローターの磁界の大きさ

・永久磁石の磁界:永久磁石界磁型同期モーター(IPM/IPMSynRM)

・電磁石の磁界:巻き線界磁型同期モーター(WFSM)

(3)ステーターとローターの磁界同士の角度差(全交流同期モーター)

(4)リラクタンストルクの大きさ(SRM/IPMSynRM)

 

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EVの磁石内部配置型モーター(IPM)や磁石内部配置型同期リラクタンスモーター(IPMSynRM)では、モーター性能はステーターコイルの磁界の大きさとローター側の永久磁石の磁界の大きさやリラクタンストルクの大きさに関係します。コイルの巻き数やコアの状況も影響します。また、磁界同士の角度はローターの磁石が円周上のどの位置にあるかに左右されます。ロ-ターのN極に対し90度の角度にステーターのS極があれば、引き合う力はトルクの発生に最も有効に使われます。角度が小さくなるとトルクも減っていきます。角度0度の場合ではローターは円周方向に引っ張られますが、トルクは発生しません。鉄心のリラクタンストルクは角度45度で最大になります。

次項からは、EVのモーター性能を上げるために、これら4要素に関係するいくつかの新技術の例をご紹介したいと思います。

[EVのモーター(3)-2]EVモーターの巻線技術 <引用元:2020年1月/SEIテクニカルレビュー>

前項でEVや各種電動車の主機モーターの高トルク化の第1の要素として“ステーターコイルの磁界の大きさ”をあげましたが、そのためのステーターの巻線技術が重要になります。

次図上は各種HEV、EVの主機モーターのステーター外観になります。各種モーター方式が採用されていますが、次図下に示すように、重量あたりのトルク[Nm/kg]を指標とすると、同じカーメーカーのモーターでは、小型軽量化が進んでおり(図中、矢印で示す)、特に平角線を使用したモーターで向上している傾向がみられます。例えば、プリウスの3代目まではステーターコイルは丸線でしたが、4代目からは平角線になっています。

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動力モーターのコイルに着目すると、従来は断面が丸形状丸線を使用した分布巻方式、あるいは断面が角形状の平角線を用いた集中巻方式が主流でしたが、最近は平角線分布巻方式へと進化してきています。分布巻モーターの短所であるコイルエンドの高さが、集中巻モーターに比べて高くなってしまう点については、所定のセグメントに分割された平角線を、鉄心コアに挿入後、端部を溶接して組み付けることで、コイルエンドの高さを集中巻モーターと同じレベルまで低減しています。また、平角線を使用することでコイルの占積率も大幅に改善されていて、丸線使用に比較して、コイル磁界の増大、もしくは小型化、銅線使用量低減による軽量化と損失(銅損)低減が可能となってきました。

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[EVのモーター(3)-3]モーターの損失

ここでモーターの損失について考えてみましょう。モーターは電力を動力に変換する装置、あるいは電気的エネルギーを機械的エネルギーに変換する装置のことですが、エネルギー変換のプロセスでは、入力の一部は動力とならずに、熱になってしまいます。それを損失(loss)と呼びます。EVやHVのモーターは、バッテリーからの電力の80~90%以上を動力として利用できていて、一般のモーターより高効率になっていますが、さらに損失の少ないモーターにすることに越したことはありません。したがって、電動車のモーター性能を向上させるために、この分野でも絶えず研究開発が続けられています。

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損失の中には摩擦のように機械的な原因によるものもありますが、大きな割合を占めるのは銅線内の損失と鉄心内の損失です。前者を銅損(copper loss)、後者を鉄損(iron loss)と呼びます。この銅損や鉄損を減らすことは、コイルがいかに効率よく大きな磁界をつくる(=大電流を流す)ことができるかどうかに関係してくるのです。

 

<銅損・鉄損・機械損失>

銅損は主にコイルの巻き線に使われる導線の電気抵抗による損失です。コイルが発熱するのは導線に電気抵抗が生じた結果で、発生した熱をジュール熱といいます。電気エネルギーが熱となって逃げていく状態です。この損失は電流の二乗に比例して増大するため、大電流を流すほど損失は各段に増えていきます。急加速など、モーターに過酷な運転を強いると損失は大きくなるということです。

鉄損はコイルの中の鉄心に発生する損失で、ヒステリシス損失渦電流損失を合計したものです。どちらの損失もコイルの電流の変化により磁界が変化したり、コイルの磁界が移動したりすることで発生します。ここでいうヒステリシスというのは、コイルの磁界強度の高まりにつれて鉄心の磁束密度が高まっていき、ピークに到達すると今度は逆に磁界強度が下がりだし、鉄心の磁束密度も下がります。このとき上がるときの経路どおりには下がらず、異なる経路をたどります。これがヒステリシス現象で、次図で囲まれた面積が大きいほど、損失は大きくなります。

渦電流損失は鉄心に発生する渦電流が熱となって逃げる損失です。したがって鉄心の材料は[磁気は通りやすいが電気は流れにくい]材料が理想的です。そこで、軟磁材料であるケイ素鋼板が使われるのが普通です。また、鉄心が薄い鋼板を重ねてつくられているのは、渦電流の大きさは厚さの二乗に比例する性質があるからです。1枚ずつが薄い積層鉄板で渦電流の発生を小さくしているわけです。

機械損失は主にローターの軸受で発生する摩擦損失で、これにローターの回転による空気抵抗も加わりますが、エンジンの機械損失と比べたら小さいといえます。

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[EVのモーター(3)-4]EVに使われる永久磁石と各種課題

次にEVモーターの性能を左右する第2の要素“ローターの磁界の大きさ”についてのお話です。

ここではEVモーターの多くを占める永久磁石界磁型モーター(IPM/IPMSynRM)の永久磁石について調べてみましょう。永久磁石は成分元素により、フェライト磁石、アルニコ磁石、希土類磁石などに分類されますが、現在EVに利用されている永久磁石のほぼすべてが希土類磁石の代表であるネオジム磁石になっています。

このネオジム磁石は読者の皆様も良くご存じの、ネオジム(Nd)-鉄(Fe)-ホウ素(B)を主成分とする永久磁石であり、1984年に日本で開発・発明されました。永久磁石の中で最も磁束密度やエネルギー積が高く非常に強い磁力を持っています。モーターのトルクは磁界の強さに比例して増大するため、モーターの性能をより高めるためには永久磁石にも強い磁力が求められるからです。

ただし、このネオジム磁石にもEVや電動車のモーター用途としてはいくつかの課題がありましたが、現在、それらを様々な素材技術、応用技術で克服しつつあります。

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<EV用ネオジム磁石の特徴と課題>

ネオジム磁石の弱点は、

(1)熱が加わると減磁しやすくなる

(2)錆びやすい

(3)原料価格が不安定で、高価格である

などがあげられ、これらの弱点・課題に対して、様々な対策がとられてきました。

 

(ネオジム磁石の熱対策)

EVモーターのローターは駆動中に温度が高くなりやすいといわれています。その熱対策としてはジスプロシウム(Dy)やテルビウム(Tb)といったネオジムと同じ希土類元素(レアアース)を数%程度加えて常温での保磁力(Hcj)を高くして、温度上昇時の保磁力低下による熱減磁を防いでいます。なお、民生機器用のネオジム磁石にはジスプロシウムやテルビウムはほとんど加えられていません。

 

(ネオジム磁石の錆び対策)

錆びやすい欠点については、一般的なネオジム磁石のほとんどは電気ニッケルめっきが施されていて、錆び対策をしていますが、ニッケルめっきだけでなく、その他の表面処理技術も進歩して、現在は、錆びの問題はほとんどなくなりました。

その中で、EV用磁石についての錆び対策については、それほど高度な表面処理技術は使っていません。なぜかといいますと、多くのEVが採用しているIPMSynRMは、ネオジム磁石がローターの電磁鋼板の中に接着剤とともに埋め込まれていますので、温度上昇時でも錆が進行することは少なく、ニッケルめっきを施さなくても、無機系表面処理などの簡易コーティングで十分なものが多いようです。

 

(ネオジム磁石の原料問題)

EV用ネオジム磁石の大きな課題は、やはり原料問題でしょう。IPMSynRMの場合、EV1台に約1~2kgのネオジム磁石が使われます。現在、世界的にEVの生産台数が急激に増加している中で、希土類原料の供給元が中国に偏っている状況では、常に供給不安と価格変動不安がつきまといます。

次図に直近のネオジム磁石原材料の希土類金属の輸入価格の推移を示しました。このグラフからネオジム磁石用の希土類価格が昨年中旬から、さらに急激に上昇してきていることがわかると思います。

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そこで、このような価格変動リスクのある希土類の使用量を減らしたり、ネオジム磁石自体に改良を施したりして高価な希土類をできるだけ使わない磁石の開発が盛んに進められてきました。特に、基本成分のネオジム(Nd)以外に、高耐熱ネオジム磁石の添加材としてのテルビウム(Tb)やジスピロシウム(Dy)を減らすための様々な技術が過去に発表されています。しかしながら、EV・各種電動車用ネオジム磁石として、テルビウムやジスプロシウムをゼロにして、且つネオジムまで減らすことが成功した開発はありませんでした。

そして、このような開発競争の状況の中で、トヨタ自動車のHV、EVをターゲットとした「省ネオジム耐熱磁石の開発」が特筆すべき技術として注目されています。次に、この技術についてお話をしたいと思います。

 

<課題を克服できるか?トヨタの新型ネオジム磁石> *引用元:トヨタ・プレスリリース:2018年2月

トヨタの新開発磁石は、高耐熱ネオジム磁石に必要な希土類(レアアース)の中でも希少な重希土類のテルビウムやジスプロシウムを使わないだけでなく、ネオジムの一部を、レアアースの中でも安価で豊富なランタン(La)とセリウム(Ce)に置き換えることでネオジム使用量も削減したものです。

しかし、ネオジムは、強力な磁力と耐熱性を保持する上で、大きな役割を占めており、単にネオジム使用量を削減しランタンとセリウムに置き換えただけでは、モーターの性能低下につながります。そこで、ランタンとセリウムに置き換えても、磁力・耐熱性の悪化を抑制できる新技術の採用により、ネオジムを最大50%削減しても、従来のネオジム磁石と同等レベルの耐熱性能を持つ磁石を開発することができたと発表しました。

次図はトヨタが目指すEV/HV用新型ネオジム磁石の技術開発の方向性を示したグラフになります。

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<省ネオジム耐熱磁石の開発ポイント(新技術)> *引用元:トヨタ・プレスリリース:2018年2月

今回開発した「省ネオジム耐熱磁石」は、以下の3つの新技術を組み合わせることで保磁力を高温でも維持できる性能を実現しています。

(1)磁石を構成する粒の微細化

(2) 粒の表面を高特性にした二層構造化

(3) ランタンとセリウムの特定の配合比

 

(磁石を構成する粒の微細化)

磁石を構成する粒を、従来のネオジム磁石の1/10以下にまで微細にし、粒と粒の間の仕切りの面積を大きくすることで保磁力を高温でも高く保つことができるようになりました。

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(粒の表面を高特性にした二層構造化)

従来のネオジム磁石は、ネオジムが磁石の粒の中にほぼ均等に存在していて、多くの場合、磁力維持に必要な量以上のネオジムが使用されています。そこで、保磁力を高めるために必要な部分である磁石の粒の表面のネオジム濃度を高くするとともに内部を薄くした二層構造化により、効率良くネオジムを活用することができ、使用量の削減が可能となりました。

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(ランタンとセリウムの特定の配合比)

ネオジムにランタン・セリウムなどの軽希土類を単純に混ぜると、磁石の特性(耐熱性・磁力)が大きく低下するため、軽希土類の活用は難しいとされていました。これを解決するためにトヨタは、産出量が豊富で安価なランタンとセリウムを様々な配合比で評価した結果、特定の比率で混ぜると特性悪化を抑制できることを見出しました。

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以上のトヨタ自動車が開発した省ネオジム磁石が量産化可能となれば、原料コスト削減や原料価格変動のリスクを低減することができるようになりますが、一方では希土類(レアアース)を使っている限り、ネオジム磁石の根本的な課題の“原料偏在による地政学的リスク”の解決にはまだ十分ではないともいえます。ただし、このまま希土類価格の上昇が続けば、膨大な埋蔵量といわれる日本の南鳥島沖海底泥の希土類を有効活用できる時代が、案外早くくるかもしれません。

[EVのモーター(3)-5]モーター回転の精密センサー・レゾルバ

ここで、モーター性能を左右する第3の技術要素に話題を移します。

最初の項で、EVモーターのトルクの大きさは“ステーターとローターの磁界同士の角度差”によっても決まってくることをお話しました。

したがって、交流同期モーターでは磁界をつくるローターがどの位置のときに磁界をつくるかが重要になります。そのためローターの正確な位置(回転角度)を知る必要があります。それを知る方法は“ホール素子法”、“MR素子法”、“磁歪線法”などいくつかありますが、最近のEVのモーターで一般的なのは、“VR型レゾルバ(variable reluctance resolver)”という装置を使う方法です。

これは発電機のような構造で、ローター側に90度ずらした2つのコイルをもち、ステーター側のコイルに電流を流して励磁しておくと、ローター側のコイルに誘導起電力が発生し、その電圧は回転速度に比例したリアクタンス変化により増減するため、その増減の周期で回転速度がわかります。また、ロ-ター側の2相(sin波とcos波)の電圧の組み合わせで回転位置を知ることもできるというものです。

したがって、この方法は、センサー部分も給電部分も非接触で済むため、悪環境に対しても極めて安定で、かつ堅牢な構造のためEVなどの電動車に最適といえます。

 

ローターは卵型やおむすび型の形状をしていて、ステーターは3個のコイル(励磁コイルおよび検出コイルA、検出コイルB)で構成されている。ローターの突極の作用(リラクタンスの変化)により2つの検出コイルに電圧(sin波、cos波)を発生させる。

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以上今月は、EV・各種電動車用駆動モーターの高性能化の要素となる新技術のいくつかの例を中心にお話をいたしました。なお、EVのモーター性能を左右する4要素のうち“リラクタンストルクの大きさ”については次回お話をさせていただきます。その際は、永久磁石界磁型モーター(IPMSynRM)の“合成トルク”、高速走行に対する“弱め界磁制御”などについても取り上げる予定です。

<参考・引用資料>

「モーターの基礎と永久磁石シリーズ(1)~(10)」NeoMag通信バックナンバー

https://www.neomag.jp/mailmagazines/mailmag_index.html

「各種レアアース・メタルの輸入価格推移」ネオマグ“磁石ナビ”

https://www.neomag.jp/mag_navi/statistics/rare_earth_newprice3.html

「テスラモデル3から採用された新しいリラクタンスモーター」ELECTRIC LIFE 2022.04.19

https://electriclife.jp/ipmsynrmmotor/

「電動車向けモータの巻線」佐藤 淳 他2名 2020年1月・SEI テクニカルレビュー・第 196号

https://sei.co.jp/technology/tr/bn196/pdf/196-04.pdf

「磁気に関するQ&A」日本磁気学会ホームページ

https://www.magnetics.jp/tech-info/b_magnet/

「モーター用の新型磁石<省ネオジム耐熱磁石>を開発」トヨタ自動車ニュースリリース 2018.02.20

https://global.toyota/jp/newsroom/corporate/21137873.html

「電気自動車メカニズムの基礎知識」飯塚昭三 著 日刊工業新聞社

「トコトンやさしい電気自動車の本」廣田幸嗣 著 日刊工業新聞社