自動車の電装機器(電気・電子で動く装置)は、エンジン制御、安全、快適性、走行補助などを支える重要な部品です。現代の自動車には、車種にもよりますが、100個以上のモーターやセンサーが搭載されており、その多くに永久磁石が不可欠です。特に電気自動車(BEV)やハイブリッド車(HEV)の普及に伴い、車両の動力性能や制御を支える部品として永久磁石の重要性は飛躍的に高まっています。
自動車に使われている永久磁石についての概略は、本シリーズの「すぐ近くにあるネオジム磁石(2)」でお伝え済みですが、本稿では特にネオジム磁石を中心にさらに詳しくご紹介したいと思います。

永久磁石が使われている自動車用電装機器の代表例
<自動車に使われる永久磁石の種類と用途>
自動車の内部機構で使用される代表的な永久磁石は、主に、焼結ネオジム磁石、ネオジムボンド磁石、フェライト磁石、サマリウムコバルト(サマコバ)磁石の4種類に分類されます。それらの使われ方は磁石の特徴によってさまざまです。以下、各種磁石の特徴と応用電装機器について調べてみました。
1.焼結ネオジム磁石

現在実用化されている中で最も強力な磁力を持つ磁石です。少ない体積で強力な磁場を発生させることができるため、部品の小型化・軽量化・高出力化に直結します。本来は熱に弱い性質がありますが、自動車用にはジスプロシウムなどの重希土類添加物を加えて耐熱性を高めたものが使われます。しかし、最近では最新の磁石技術により、重希土類フリーの耐熱焼結ネオジム磁石も使われ始めています。
■代表的な電装機器
(1)駆動・発電系(パワートレイン)

●駆動用モーター
EVやHEVのタイヤを動かすメインモーターです。巨大なトルクを効率よく生み出すために、高性能なネオジム磁石が不可欠です。
●オルタネーター(発電機)
走行中のエンジンの動力を使って発電し、バッテリーに電力を供給する機器です。ネオジム磁石はその高性能化にも貢献しています。
(2)操舵・安全・制御・快適装備系

●電動パワーステアリング (EPS) モーター
ドライバーのハンドル操作を電気モーターでアシストする機構。エンジンルーム周辺の限られたスペースに収めるため、小型で高出力なネオジム磁石が活躍します。
●ABS/ESC用モーター
“アンチロックブレーキシステム”や"横滑り防止装置"など、精密かつ瞬間的なブレーキ制御を行うための小型モーターにも使われています。
●電動コンプレッサー
カーエアコンの心臓部。エンジンが止まっている状態(EVやアイドリングストップ時)でもエアコンを動かすため専用のモーター駆動となっており、ここでもネオジム磁石が採用されています。
●電動ウォーターポンプ/オイルポンプ
エンジンやインバーターを冷却・潤滑するためのポンプ類も、従来のエンジン駆動からネオジム磁石を使った高効率な電動化への置き換えが進んでいます。
(3)各種センサー類
モーターを動かすだけでなく、車輪の回転速度を測るセンサーや、ステアリングの角度(舵角)センサーなど、磁気を利用して非接触で動きを検知する部品にも極小のネオジム磁石が組み込まれています。
ただし、これらのセンサー類はネオジムボンド磁石の使用が多くなっています。
補足:重希土類フリー・脱レアアースへの挑戦
ネオジム磁石は自動車に不可欠な一方で、モーター内部が高温になる環境下では磁力が落ちる(熱減磁)弱点があります。これを防ぐために「ジスプロシウム」などの非常に希少な重希土類(レアアース)を添加していましたが、資源リスクやコストの観点から、近年は自動車メーカーや部品メーカーによる「省ネオジム」や「重希土類フリー」の新しい磁石およびモーター構造の開発が進んでいます。
2.ネオジムボンド磁石

ネオジムボンド磁石は焼結型に比べて磁力は低いのですが、金型成形により、薄型、複雑な形状、一体成形が容易で高い形状自由度を有しています。また、焼結磁石のような切削加工が不要で、最終形状に近い寸法(ニアネットシェイプ)で製造可能であり、高精度・高寸法精度を誇ります。
さらに等方性(どの方向からも磁化可能)の粉末を使用するため、多極着磁のような高度な着磁パターンが可能です。樹脂でコーティングされているため、通常の焼結ネオジム磁石に比べても耐食性は劣りません。
■代表的な電装機器
(1)センサー類(回転・位置の検知)
自動車には数十個のセンサーが搭載されており、多極着磁がしやすく精度の高いボンド磁石がもっとも活躍する領域です。注:次図の磁石形状、着磁はわかりやすく単純化したもので、実際とは異なります。

●ステアリング舵角センサー
電動パワーステアリング(EPS)において、ハンドルの切れ角や回転速度を正確に検知します。
●車輪速センサー(ABSセンサー)
タイヤの回転を検知し、“アンチロックブレーキシステム(ABS)”や“横滑り防止装置(ESC)”の制御に利用されます。
●各種ポジションセンサー
スロットルバルブの開度、アクセル・ブレーキペダルの踏み込み量、パワーシートの位置などを検知します。
●クランク角センサー
エンジンの回転数やピストン位置を検知します(ただし、樹脂を用いているため熱に弱く、エンジンから少し離れた部位のセンサーに使われることが多いです)。
(2)小型モーター・アクチュエータ類
車内空間の快適性や利便性を高めるための、小型で緻密な動きが求められるモーターに使用されています。
●計器類(メーター)のステッピングモーター
スピードメーターやタコメーターの針を滑らかかつ正確に動かすための極小モーターのローター(回転子)部分に使われます。
●エアコン用ダンパーモーター
エアコンの風向きや温度を調整するフラップ(扉)を動かすための小型モーターです。
(3)車載用小型ポンプ・ファン
BEV(電気自動車)やハイブリッド車(HEV)の普及に伴い、電動化された冷却パーツの需要が増加しています。これらの機器の高性能化にもネオジムボンド磁石が使われるようになってきました。

●電動ウォーターポンプ/オイルポンプ
エンジンやインバーター、バッテリーなどを冷却するための電動ポンプです。樹脂と一体成形できるボンド磁石は、シャフトやインペラ(羽根車)と組み合わせやすく、水や油に触れる環境での防錆性を高めやすいというメリットがあります。
●冷却用小型ファンモーター
各種ECU(電子制御ユニット)やバッテリー周りを局所的に冷却するファンモーターにも採用されています。
補足: 電気自動車の「駆動用メインモーター」には、より圧倒的なパワーと高い耐熱性が必要なため、ボンド磁石ではなく純度の高い焼結ネオジム磁石が使われます。ボンド磁石は、その周辺で車を「制御・サポート」する電装品の精密な動きを下支えする役割を担っています。
3.フェライト磁石

酸化鉄を主原料とするセラミック磁石です。磁力はネオジム磁石に劣りますが、非常に安価で大量生産に向いており、錆びないという優れた耐久性を持っています。車内のあらゆる場所にある小型モーターの主力として最も多く使われています。
■代表的な電装機器
(1)小型モーター・アクチュエータ類

●エアコン用ダンパーモーター
エアコンの風向きや温度を調整するフラップ(扉)を動かすための小型モーターです。
●ワイパーモーター
小型化とトルクの両立が求められるワイパーの駆動部に用いられます。
●パワーウィンド(ウィンド上下用モーター)
各座席のウィンドを上下させるモーターで、ドアの中に設置するために、小型化されています。
●燃料ポンプ(燃料噴射圧縮)
ガソリンなどの燃料をエンジンのシリンダー内にアッシュ噴射させるモーターです。
●エアコン(ファンモーター)
エアコンの風を車内に送り込むファンを回転させます。
●ブロワー(ブロワーモーター)
カーエアコンの温風、冷風の吹き出しのためのモーターです。
●シートリクライニング(前後傾斜用モーター)
●シートスライド(前後移動用モーター)
●シートリフター(シート上下用モーター)
●電動ミラー(ミラー駆動用モーター)
●ドアロックアクチュエーター(ロック機構駆動用アクチュエーター)
●サンルーフ開閉(開閉用モーター)
(2)センサー、オーディオ、その他

リニアホールIC方式燃料計の動作原理(概略図)
●燃料計(ホールIC式センサー)
ホールICを利用した燃料計のセンサーには主にフェライト磁石が使われています。
●オーデオ・カーナビ用スピーカー(コーン振動音声発生用)
フェライト磁石が主力ですが、一部の高級機種にはネオジム磁石が使われています。
補足:酸化鉄が主成分のフェライト磁石は、耐候性や化学的安定性が大きく、且つ、安価で原料問題がほとんどないため古くから電装機器用として大量に使われています。ただし近年では、小型化・高性能化のために、ネオジム磁石やネオジムボンド磁石に置き換わる機器も増加しています。また、磁化の低温減磁の問題がありますので、極寒地向けの機器の設計には注意を要します。
4.サマリウムコバルト磁石(サマコバ磁石)

ネオジム磁石に次ぐ強い磁力を持ち、最大の特徴は「非常に熱に強い」ことです。高温環境下(200℃〜300℃以上)でも磁力が低下しにくいため、過酷な温度条件に晒される特定のハードウェア部品に採用されます。ただし、原材料が高価で、ネオジム磁石に比べて割れやすいという欠点があります。
●イグニッションコイル(高電圧発生用)
現代の多くの車ではバッテリーの電流をイグニッションコイルに流して高電圧を作ります。この方式でもコイルの内部(コア部分)に永久磁石が組み込まれていることがあります。コイルの鉄心に永久磁石であらかじめ一定の磁界(バイアス磁界)を与えておくことで、通電開始時の磁束の変化を効率よく利用できます。これにより、コイルの小型化を図りつつ、より強力で安定した火花(高電圧)を生み出します。サマコバ磁石は300℃までの高温度使用ができるため、周囲温度が高いイグニッションコイル用に使われます。一部では耐熱性の高いネオジム磁石もこの用途に使われているようです。
●その他の高温環境下でのセンサー類
サマコバ磁石は、高温環境下でも磁力が低下しにくいため、イグニッションコイル以外に過酷な温度条件に晒される特定のハードウェア部品に採用されます。主な使用例として、エンジン周辺の各種センサー類があります。
補足:サマリウムコバルト磁石は、高温環境下になる特定の場所に使われますが、同じレアアースのネオジム以上に原料問題が大きく、今後は機器の設計変更等により使用頻度は大きく低下してゆくと考えられます。
<おわりに>
現代の自動車はあらゆる電子機器の集合体のようになっていて、1台当たり100~200個あまりの各種モーターやセンサーを搭載しています。したがって、永久磁石の役割はますます大きくなっています。
特に電装機器においては、焼結ネオジム磁石やネオジムボンド磁石の採用比率が年々高くなっていますが、最近の「レアアース」問題もあり、重希土類フリー磁石や省レアアース磁石の開発、実用化が急がれています。日本が誇る最先端の永久磁石技術により、遠からずこれらの課題は解決してゆくのではないかと期待しています。
(参考・引用資料)
「永久磁石の用途・応用シリーズ(2)自動車に使われている永久磁石の役割と各種モータ」
「永久磁石の用途・応用シリーズ(3)自動車に使われているセンサー用永久磁石の例」
「すぐ近くにあるネオジム磁石(2)工業製品としての永久磁石」磁石虎の巻 ネオマグ株式会社
その他AIによる情報

